私が気になる彼は(Final Ver.)【短編小説】1900文字

夏は肌の露出面積が多くなって開放的になるから?
高校生になって5ヶ月。彼氏ができた。
いや、季節のせいじゃないな。
冬だって、寒くて人肌恋しくなるからとか、クリスマスやバレンタインがあるからとか、理由はあるし。
タイミングだったんだと思う。
タクミと一緒にいる時みたいなドキドキソワソワは、ない。発展途上というよりか、もうずっとこのままだろうなっていう落ち着いた顔をしてる。
それでも、密かに好きだったお笑いを一緒に楽しめて、ずっと楽しく話していたいって、それだけでもう十分あたしの中で存在が大きいんですけど。

カフェで落ち合うようになって3日目で告白された。いつもの窓側のカウンター。
「友達じゃなくて彼氏がいいんだけど、ダメ?」
誰かに聞かれたんじゃと思ってソワソワしたじゃん。
それから、次に会うのは遊園地でも水族館でもなく、家でお笑いのDVDを見ることになって。
家っていうプライベートな空間に呼ばれるって、なんだかドキドキする。
どうしよう。何着ていこう。手土産どうしよう。
キスする?スカートがいい?夏だから冷たいものがいいのかなぁ?
この前までタクミのことばっかり考えてたのに。
もう瀬戸くんのことかなり好きかもしれないじゃん、あたし。


「私が予想してた子と違ったんだー。」
山の上児童館の小さな体育館のモップ掛けは2人でやるとあっという間に終わる。モップについたホコリをマキちゃんが掃除機で吸い取ってくれる。
夕方、お盆が過ぎると日差しは優しくなる。迎えに来る親を見なくとも、もうすぐ1日が終わろうとしていることがわかる。
「どうして体育館まで砂が入ってくるんですかね。あ、気に入らなかったんですか?」
「違う!違う!出会いっていろいろあるんだなーと。」
「バスの子と、家に来た子ですか?」

あの日、私が駅前で時間を十分につぶして帰ってきたら、案の定、彼女は帰っていた。
「アイスもらったから。カステラの上にのせて食べたらおいしかったから、やってみたら。」
話の流れで何していたか聞いてみたら、一緒にお笑いのDVDを観たって。
忘れてた。そういえば私が好きでアツシをライブに誘ったこともあったっけ。
冷凍庫を覗くと普段買わない高級アイスクリームのカップが入っている。
6個入りのうち、2個なくなっている。
「バスが一緒な子だと思ってたんだけど・・・」
聞くべきか迷ったけど、姉の好奇心は抑えられなかったよ。
「うん・・・。ご縁がなかったってことじゃない?佐藤さんとはご縁があったんだよ。」

「高校生、若いね。」
「何言ってんですか。大学生だって十分若いし。ってか、まだハタチにもなってないじゃないですか。高校生の私から言うと、大学生の方がはるかに自由で出会いがたくさんありますよね?」
「ほんとだね。でも、私の夏は生意気小学生男子とおじいちゃん職員さんとの出会いで終わっていくよ。」
「またー。あ、大学の学園祭、呼んでくださいねー。」


髙橋くんは振られてなかったらしい。夏休み前は。
二学期が始まってまず聞こえてきた噂話。
隣の席のマキちゃんが言うには、夏休みに男の方から告白して、友達からってことになったらしい。
こういう話って女子特有のネットワークで伝わっていくんだろうな。
髙橋くんとは夏休みも部活でずっと一緒だったのに知らなかったよ。そもそも会話なんてほとんどないんだけど。
確かに、髙橋くんは木村くんたちと一緒に帰ってなかったな。
バド部が終わるの待ってたりしてたのかな。いいな、待っててもらえるって。
友達からっていったって、やっぱり彼氏は無理、ってある?ずるい。
でも、私は告白なんてできないや。

「すげぇな、学校始まった途端にイケメンの噂って広まるんだな。」
部活終わり、木村くんがドリンクを片付けるのを手伝ってくれる。
二学期前にもう一人のマネージャーが辞めた。
「ありがとう。あとやっておくよ。」
「いいよ。マネはさぁ、イズミに告らなくていいの?」
「え?なんで!違うよ。」
驚いた。私、何か言ってたっけ?
「そう?マネはいつもイズミ見てる気がしたからさー。」
目で追ってしまってたんだ。見てるだけじゃダメだって思っていても、見てることしかできなかったからなぁ。
私は3年生までマネージャー続けるし、同じ部内で気まずくなったら嫌だもん。そんなものだと思うけど。だから先輩も引退する時に言ってくれたんだと思う。
「マネージャー続けている間は部員は部員だよ。」
「そっかー、じゃあ俺はまだ片思い楽しもー。」
何言ってんだか。


好きな人に好きになってもらうことはなかったけど、好きになれる人に出会えた。この先どうなるかわからない。
もっと好きになるかもしれないし、ダメになるかもしれない。
でも、いいよね。
今を大事にしよう。

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