幸せになりたいエルフの冒険 第十一話 エルフと願いを叶える実 パート8

エルフの女の子デフィーは、
ダークエルフの女の子フィリア、
人間の女性で作家のシャイルと一緒に
幸せを探す旅をしています。

夕暮れ時に宿を取る為、
ある町に立ち寄ったデフィー達。
その町には濃い霧が発生しており、
デフィーはフィリアとシャイルと
はぐれて一人になってしまいます。

その際デフィーは霧の中で、
占い師を名乗る若い女性の
ルフトシュに出会います。

ルフトシュはデフィーに、
食べれば願い事が叶うと言う
『アギベデの実』を渡して
去ってしまいます。

その後無事にフィリア達と
合流することが出来たデフィーは、
宿の食堂でフィリア達に
ルフトシュやアギベデの実の話をします。

すると食堂に居合わせた
中年の男性客のオルアディが、
突然デフィー達に話しかけ、
アギベデの実を
譲ってくれないかと頼みます。

オルアディに理由を聞くと、
自分に愛想を尽かして出て行った
妻と娘に戻って来て欲しい為だと、
デフィー達に話しました。

シャイル「・・オルアディさん、
     あなたがとても
     辛い状況に立たされ、
     今尚苦労されていることは
     話を聞いて分かりました。

     しかし、
     私達の話を聞かれていたのなら
     ご存じかもしれませんが、
     この果実が本当に願いを
     叶えられる物なのかどうかは、
     私達には分からないのです」

オルアディ「ええ、
      さっき皆さんで
      そう話していたのを
      聞いていました」

シャイル「そもそもこの実が
     どの様な物なのかさえ
     分かっていません・・
     もしかしたら
     毒などの何か危険な作用が
     有る物なのかもしれないのです」

デフィー・フィリア「!」

オルアディ「・・・」

シャイル「ですので、
     こんな怪しげな実の
     力等あてにせずに、
     ご自身の力で
     解決される方法を
     考えた方が、
     良いのではないかと
     思うのですが・・」

オルアディ「・・お嬢さんの
      おっしゃることは
      ごもっともかもしれません・・
      ですが、
      既に私なりに考えて
      行動し続けた結果が
      今の状態なのです・・

      自力で妻と娘を
      呼び戻せるものならば、
      とっくにしている訳でして・・
      自力ではどうにも
      出来ないからこそ、
      不確かな物であれ
      その実の可能性に
      懸けてみる他ないのです。

      妻が娘を連れて
      出て行ってしまった原因は、
      私が至らないが為に
      苦労や我慢をさせ続けて
      しまったことも有りますが、
      それ以上に金銭面でのことが
      大きく関係していると
      思うのです。

      もし仮に自力で
      妻達とよりを戻せたとしても、
      今の私の経済状況では
      近い内にまた
      同じことの繰り返しに
      なってしまうでしょう・・

      そうならない為には、
      私の金銭面での問題を
      解決する必要が有ります。
      しかし、
      それはこうして今現在も
      頑張り続けていますが、
      解決出来ないでいる
      問題なのです・・

      もしその実の
      願いを叶えると言う力が
      本物ならば、
      きっと金銭面での問題を
      解決させた上で、
      妻と娘を呼び戻すことも
      可能なはずです。

      そうなれば
      戻って来てくれた妻と娘に、
      お金の都合で今まで
      してやれなかったことを
      してやれるし、
      もう愛想を尽かされることも、
      出て行かれることも
      無いでしょう。

      そうではありませんか?」

デフィー達「・・・」

オルアディ「だからお願いします!
      お嬢さん達、
      どうかその実を
      俺に譲ってはくれませんか?」

オルアディは真剣な眼差しで
デフィー達に訴えかけます。

シャイル「・・どうする?
     デフィーちゃん」

フィリア「デフィー・・」

デフィー「そう言った
     事情が御有りなら、
     私はこの実を
     オルアディさんに
     お譲りします」

オルアディ「ほ!本当ですか!?
      ありがとう!お嬢さん!」

とびきりの嬉しそうな表情をするオルアディ。

シャイル「・・いいのかい?
     デフィーちゃん?」

デフィー「はい、
     先程三人で話した時に
     この実を使わないことは
     決めましたし、
     それにもしこの実を
     使うのであれば、
     願い事をイメージ出来ない
     私よりも、
     ちゃんとした願い事の有る
     オルアディさんが使う方が、
     良いと思うんです」

オルアディ「ありがとう!ありがとう!」

シャイル「そうかい、
     デフィーちゃんが
     貰った実だからね、
     どうするかは
     デフィーちゃんの自由さ。

     オルアディさん、
     聞いての通り
     デフィーちゃんが
     この実を譲って
     くれるそうだ」

オルアディ「はい!
      ありがとうございます!」

シャイル「しかし、
     さっきも言ったけど、
     この実が本当に
     願いを叶えられるのかは
     分からないんだよ?

     それに、
     もしかしたら何かしらの
     危険な効果が
     有る可能性だって
     考えられるんだよ。

     素性を知らない人から
     貰ったこの実に関して、
     私達は一切責任を持てないよ?
     それでも本当に
     使うつもりかい?」

オルアディ「はい!勿論です。
      妻と娘が戻って来て、
      また昔の様に
      仲良く暮らせるのならば、
      私は何でもする覚悟です」

デフィー「!」

オルアディ「何もしなければ
      何も変わりません・・
      例え不確実で有ろうとも
      私の願いを実現させられる
      可能性が有るのなら、
      私は賭けてみたいのです」

デフィー「・・・」

願いに対するオルアディの覚悟を
聞いたデフィーは、
自分にその覚悟が無かったことを
一人心の中で自覚します。

シャイル「オルアディさん・・」

デフィーはテーブルの上に有る
アギベデの実を手に取り、
オルアディに手渡します。

デフィー「どうぞ」

アギベデの実を両手で
大切そうに受け取るオルアディ。

オルアディ「ありがとう、
      お嬢さん。
      本当に感謝します。
      これでまたあの頃みたいに
      戻れるかもしれない・・
      やり直せるかも
      しれないんだ・・」

オルアディは手にしたアギベデの実を
まじまじと見つめています。

オルアディ「これが・・
      願いを叶える実・・」

デフィー「オルアディさん、
     さっき私達が話していたのを
     お聞きかも知れませんが、
     その実を使って
     願いを叶えるには、
     いくつか条件を
     満たさなければならないと、
     渡してくれたルフトシュさんは
     言っていました」

オルアディ「ああ!
      そう言えば
      さっき話していたね。
      すまないがもう一度詳しく
      教えて貰えないかい?」

デフィー「はい、分かりました。
     え~と・・
     全部で三つ有ってですね・・」

オルアディ「おっと!
      ちょっと待っておくれ、
      今メモを用意するから」

持っていた荷物の中から
メモ帳と筆記用具を取り出し、
メモの準備をするオルアディ。

オルアディ「よし!
      オッケーだ。
      聞かせてください」

デフィー「はい。
     一つ目が、
     食べる前に叶えたい願いを
     強く思うこと」

オルアディはデフィーの言ったことを
復唱しながらメモします。

デフィー「二つ目が、
     この実を一人で
     全て食べきること」

オルアディがメモし終えたことを
確認しながら続けるデフィー。

デフィー「そして三つ目が、
     実を食べて浮かんだ
     インスピレーションに従い、
     必ず実行すること。
     だそうです」

デフィーの言ったことを
聞き洩らさずに、
すべてメモし終えるオルアディ。

オルアディ「ありがとうお嬢さん、
      これで全部なのかい?」

デフィー「はい、
     ルフトシュさんが
     言っていたのは、
     今の三つでした」

オルアディ「なるほど」

メモした内容を見直し確認するオルアディ

オルアディ「よしっ!
      分かったよお嬢さん。
      特に難しいことは
      無さそうだね。

      え~と、
      叶えたい願いを
      強く思いながら、
      一人で実を全部食べ切る。
      そうするときっと、
      何か閃きのようなものが
      浮かんでくるんだろうな。
      そしたらそれに従い
      実行すればいいのか。
      うん、結構簡単そうだ」

そう口にするとオルアディは、
少し迷ったような表情になります。

オルアディ「お嬢さん・・
      もし今の話の通りなら、
      こんな簡単なことをするだけで
      願いが叶うことになる。
      その権利を俺なんかに
      譲ってしまって
      本当にいいのかい?」

デフィー「はい、
     もう決めたことですから」

オルアディ「・・俺が
      そうであるように、
      お嬢さんにも叶えたい願いが
      有るんだろう?・・」

フィリア・シャイル「・・・」

デフィー「・・確かに、
     私にも願いは有ります・・
     幸せになりたいと言う願いが・・」

オルアディ「・・そうだよね、
      さっき言っているのが
      聞こえたからね・・」

デフィー「はい・・
     でも、
     先程オルアディさんの話を
     お聞きして、
     オルアディさんの願いに対する
     強い思いと、
     それを叶えようとする
     強い覚悟を、
     私は感じました・・

     それに比べて私の願いは
     漠然としていて、
     叶えようとする
     強い思いや覚悟も、
     オルアディさんには及びません・・

     だから、
     この実を使うことで
     誰かの願いが叶うのなら、
     私ではなく
     オルアディさんの方が
     相応しいと思うんです」

オルアディ「・・お嬢さん、
      本当に良いのかい?」

デフィー「はい。
     幸せになりたいと言う
     私の願いは、
     自分の力で叶えてみせます。

     だから私のことは
     気になさらずに、
     そのアギベデの実は
     オルアディさんが
     使ってください」

オルアディ「・・ありがとう、
      お嬢さん」

深々と頭を下げるオルアディ。

オルアディに優しく微笑むデフィー。

オルアディは頭を上げて
デフィーを見ます。
その表情は、
覚悟を決めたものになっていました。

オルアディ「よしっ!
      せっかくお嬢さんが
      譲ってくれたんだ。
      さっそく使ってみるよ」

パート9につづきます。

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