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一挙版 幸せになりたいエルフの冒険 第十一話 エルフと願いを叶える実 後編

エルフの女の子デフィーは、
ダークエルフの女の子フィリア、
人間の女性で作家のシャイルと一緒に
幸せを探す旅をしています。

夕暮れ時に宿を取る為、
ある町に立ち寄ったデフィー達。
その町には濃い霧が発生しており、
デフィーはフィリアとシャイルと
はぐれて一人になってしまいます。

その際デフィーは霧の中で、
占い師を名乗る若い女性の
ルフトシュに出会います。

ルフトシュはデフィーに、
食べれば願い事が叶うと言う
『アギベデの実』を渡して
去ってしまいます。

その後無事にフィリア達と
合流することが出来たデフィーは、
宿の食堂でフィリア達に
ルフトシュやアギベデの実の話をします。

すると食堂に居合わせた
中年の男性客のオルアディが、
突然デフィー達に話しかけ、
アギベデの実を
譲ってくれるよう頼みます。

オルアディの行動に
驚いたデフィー達ですが、
一先ず話を聞いてみることにして
自分達のテーブルの空いている席を
オルアディに勧めます。

オルアディは自分が座っていた席から、
肩掛けの小さなカバンと
食堂で出されたコップに入った水を
持ってきてから、
デフィー達と同じテーブルに座ります。

そして持ってきた水を
勢いよく二口程飲み込むと、
落ち着きを取り戻したのか
デフィー達に非礼を詫びます。

オルアディ「お嬢さん達、
      突然すまなかったね。
      こんな冴えない中年男が
      急に近寄って
      話しかけてきたんだから、
      驚かせてしまっただろう?」

シャイル「え、ええ。
     突然でしたし、
     勢いもすごかったので・・」

フィリア「う、うん、
     ちょっと驚いたけど、
     もう大丈夫だよ」

デフィー「は、はい」

気を遣いながら言うデフィー達。

オルアディ「いやはや、
      本当にすまなかった・・
      申し訳ない」

椅子に座ったまま
デフィー達に深々と頭を下げるオルアディ。

シャイル「い、いえ、
     頭を上げてください」

シャイルに言われ頭を上げるオルアディ。

オルアディ「何しろお嬢さん達の
      話を聞いていたら、
      その実のことで
      頭がいっぱいに
      なってしまって・・

      それで話しかけるなら
      あのタイミングしかないと
      思ったら、
      あんな風に突然で
      失礼な態度に
      なってしまったんだよ・・

      驚かせてしまったし、
      怖い思いもさせてしまい、
      重ね重ね本当に
      申し訳なかった・・」

再びデフィー達に深く頭を下げるオルアディ。

シャイル「い、いえ、
     その件はもう結構ですから、
     頭をあげてください」

オルアディは頭を上げて
デフィー達に向き合います。

シャイル「それで、
     願いを叶える為に
     この実を譲って欲しいとの
     ことなんですが、
     一体どのような事情が
     有るのですか?」

オルアディは少しの間
話し辛そうに
戸惑っていましたが、
覚悟を決めたのか口を開きます。

オルアディ「そっ、そうだよね、
      そんなすごい実を
      譲ってくれと言うのだから、
      理由を話さない訳には
      いかないよね・・

      ひ、人様に話すには
      恥ずかしい話に
      なってしまうんだけど・・
      実は・・その・・
      俺に愛想を尽かして
      家を出て行ってしまった、
      妻と娘に戻って来て
      もらいたいんだ・・」

デフィー達「!?」

オルアディ「あっ、ああ・・
      突然こんなことを言ったら、
      そうなるよね・・」

シャイル「い、いえ・・」

オルアディ「何とも情けなくて
      恥ずかしい話だけど、
      それが俺の願いなんだ・・」

デフィー達「・・・」

オルアディ「事の発端を話すから、
      聞いてもらえるかな?」

シャイル「ええ」

頷くデフィー達。

オルアディ「ありがとう」

オルアディはゆっくりと目を閉じて、
一度深呼吸をして
気持ちを落ち着けました。
そしてゆっくりと目を開くと、
デフィー達に向けて話し始めます。

オルアディ「・・見ての通り、
      情けなくて冴えない
      見た目の俺だけど、
      こんな俺にも
      出来た妻と、
      それはもう可愛い
      幼い娘が居るんだ・・

      だけどね、
      俺があまりにも
      不甲斐ないから、
      妻の奴がとうとう
      愛想を尽かして
      娘を連れて家を出て行って
      しまったんだよ・・」

デフィー達「・・・」

オルアディ「そりゃあ・・
      無理もない話さ。
      俺は頭も要領も悪くて
      仕事も出来る方じゃない・・
      そんな俺の稼ぎじゃあ、
      家族三人で
      満足な暮らしを送るのは
      正直厳しかったからね・・

      妻にはいつも
      苦労のさせ続けで、
      我慢もかなり
      させていたと思う・・
      それなのに暮らしは
      一向に良くならなくて・・

      俺は・・
      俺は本当に
      ダメな奴なんだよ・・」

シャイル「い、いえ、
     そんなことは・・」

オルアディの話を聞いて
何と答えたらいいのか分からず
困ってしまうデフィーとフィリア。

オルアディ「ありがとう、
      お嬢さん・・
      でもね、
      現実はそうなんだよ。

      俺にとって仕事は、
      重労働で苦痛なものだった。
      そんな仕事が
      毎日有ったんだから、
      正直嫌で嫌で堪らなかったよ・・
      でも妻や娘のことを思えば、
      そんな辛く苦しい毎日にも
      耐えることも出来た。

      ただ、
      そんな思いをしながら
      仕事をいくら頑張っても、
      貰える給料は少なくてね・・
      元々貧しい生活は、
      一向に良くならなかったんだ・・

      娘が生まれる前、
      妻と二人で暮らしていた時は
      まだそれでも良かった・・
      だけど、
      娘が生まれてからは
      そうもいられなくなった。
      色々と入用になり、
      生活は妻と二人の時よりも
      更に厳しいものに
      なってしまったんだ・・」

デフィー達「・・・」

オルアディ「娘が生まれてからも、
      俺の稼ぎは変わらず少ないまま。
      加えて仕事は
      拘束時間が長く重労働・・
      仕事が有る日は勿論
      たまの休みの日でさえ、
      俺は疲れ切ってしまっていた・・

      だから、
      いつも頑張ってくれている妻を
      労わってあげるようなことは
      出来なかったし、
      娘のことも
      妻に任せきりに
      なってしまっていた・・

      それでも妻は、
      普段の家事に加えて子育ても
      頑張ってくれていたし、
      こんな俺をいつも
      支え続けてくれていた・・

      生まれて来てくれた
      娘だって、
      可愛くて可愛くて
      仕方がなかった。

      妻と娘、
      二人は俺にとって
      かけがえのない存在
      だったんだよ。

      そんな大切な妻や娘に、
      満足のいく良い暮らしを
      させてやりたいと
      思っているのに、
      いくら頑張って働いても
      給料は変わらず少ないまま・・

      俺の力では、
      生活を改善できる程の
      給料を貰うことは
      出来なかった・・

      それなのに家族が増えた分
      負担が増え、
      生活は厳しくなっていたんだ・・

      辛く苦しい毎日に耐え、
      一日の仕事が
      終わってからは勿論、
      休みの日さえ何もする気が
      起きない程疲れるくらいに、
      一生懸命頑張って働いていても
      そんな状態だった・・

      どうにかなりそうだったよ・・」

オルアディの話を聞き
どう反応したらいいのか
分からなくなってしまうデフィー達。

オルアディ「でもね、
      その時は気がつかなかったけど、
      そんな辛い状況でさえ
      実は恵まれていたんだと
      いうことに、
      後から気付かされるんだ・・」

デフィー達「?・・」

オルアディ「俺はつい先日、
      雇い主の一方的な都合で
      仕事を解雇されて
      しまったんだ・・」

デフィー達「!・・」

オルアディ「それで働くことが
      出来なくなった俺は、
      不満を感じていた
      僅かながらの給料さえ、
      貰うことが
      出来なくなってしまった・・」

デフィー達「・・・」

オルアディ「働けていた時でさえ
      少ない稼ぎだった為、
      家計はいつも
      ギリギリの状況だった・・
      貯えなんてものを
      作れる状態では
      とても無かった・・

      だから
      すぐにでも次の仕事を見つけて
      給料を貰わないことには、
      食べることすら
      ままならなくなってしまう・・

      俺は一生懸命仕事先を
      探したんだ。
      来る日も、来る日も。

      でもね、
      この歳になって
      何の技術や経験も
      持ち合わせていない
      冴えない中年男を、
      長期的に雇ってくれるような
      仕事先は無いんだよ・・

      そんな俺が優先的に
      雇ってもらえるようなコネも
      無いしね・・

      極稀に仕事に
      ありつけることも有るんだけど、
      どれも一度限りの
      単発の仕事で給料も少ないんだ・・
      その仕事で手に入れた金も、
      毎日の職探しの食費や移動費、
      宿代なんかで
      ほとんど消えてしまい、
      妻達には僅かな額しか
      渡してやれない・・
      
      それにそう言った仕事は
      一度きりの単発だから、
      継続性が無くて安定した
      収入源にはならないんだ・・

      ちゃんとした働き先が
      見つからず、
      安定した給料が得られないまま
      時間ばかりが過ぎて行く・・
      貯えは無かったから
      すぐに生活に行き詰まった・・

      その時さ、
      今まで我慢していた
      妻の不満が一気に
      爆発したんだ・・

      そして妻は娘を連れて
      実家に帰って行ってしまった・・

      当然さ、
      俺の所に居ても
      生きていけないのだからね・・

      これと言うのも、
      全部この俺が
      不甲斐ないからさ・・」

オルアディにかける言葉が
見つからないデフィー達。

オルアディ「ははは・・
      みっともない愚痴を
      聞いて貰うことになってしまい、
      申し訳なかったね」

シャイル「い、いえ・・」

オルアディ「まぁ・・
      そう言う訳でね・・
      出て行ってしまった
      妻と娘に戻って来てもらう為に、
      その実の力を
      使わせてもらいたいんだよ・・
      ダメかな?
      お嬢さん達」

シャイル「・・オルアディさん、
     あなたがとても
     辛い状況に立たされ、
     今尚苦労されていることは
     話を聞いて分かりました。

     しかし、
     私達の話を聞かれていたのなら
     ご存じかもしれませんが、
     この果実が本当に願いを
     叶えられる物なのかどうかは、
     私達には分からないのです」

オルアディ「ええ、
      さっき皆さんで
      そう話していたのを
      聞いていました」

シャイル「そもそもこの実が
     どの様な物なのかさえ
     分かっていません・・
     もしかしたら
     毒などの何か危険な作用が
     有る物なのかもしれないのです」

デフィー・フィリア「!」

オルアディ「・・・」

シャイル「ですので、
     こんな怪しげな実の
     力等あてにせずに、
     ご自身の力で
     解決される方法を
     考えた方が、
     良いのではないかと
     思うのですが・・」

オルアディ「・・お嬢さんの
      おっしゃることは
      ごもっともかもしれません・・
      ですが、
      既に私なりに考えて
      行動し続けた結果が
      今の状態なのです・・

      自力で妻と娘を
      呼び戻せるものならば、
      とっくにしている訳でして・・
      自力ではどうにも
      出来ないからこそ、
      不確かな物であれ
      その実の可能性に
      懸けてみる他ないのです。

      妻が娘を連れて
      出て行ってしまった原因は、
      私が至らないが為に
      苦労や我慢をさせ続けて
      しまったことも有りますが、
      それ以上に金銭面でのことが
      大きく関係していると
      思うのです。

      もし仮に自力で
      妻達とよりを戻せたとしても、
      今の私の経済状況では
      近い内にまた
      同じことの繰り返しに
      なってしまうでしょう・・

      そうならない為には、
      私の金銭面での問題を
      解決する必要が有ります。
      しかし、
      それはこうして今現在も
      頑張り続けていますが、
      解決出来ないでいる
      問題なのです・・

      もしその実の
      願いを叶えると言う力が
      本物ならば、
      きっと金銭面での問題を
      解決させた上で、
      妻と娘を呼び戻すことも
      可能なはずです。

      そうなれば
      戻って来てくれた妻と娘に、
      お金の都合で今まで
      してやれなかったことを
      してやれるし、
      もう愛想を尽かされることも、
      出て行かれることも
      無いでしょう。

      そうではありませんか?」

デフィー達「・・・」

オルアディ「だからお願いします!
      お嬢さん達、
      どうかその実を
      俺に譲ってはくれませんか?」

オルアディは真剣な眼差しで
デフィー達に訴えかけます。

シャイル「・・どうする?
     デフィーちゃん」

フィリア「デフィー・・」

デフィー「そう言った
     事情が御有りなら、
     私はこの実を
     オルアディさんに
     お譲りします」

オルアディ「ほ!本当ですか!?
      ありがとう!お嬢さん!」

とびきりの嬉しそうな表情をするオルアディ。

シャイル「・・いいのかい?
     デフィーちゃん?」

デフィー「はい、
     先程三人で話した時に
     この実を使わないことは
     決めましたし、
     それにもしこの実を
     使うのであれば、
     願い事をイメージ出来ない
     私よりも、
     ちゃんとした願い事の有る
     オルアディさんが使う方が、
     良いと思うんです」

オルアディ「ありがとう!ありがとう!」

シャイル「そうかい、
     デフィーちゃんが
     貰った実だからね、
     どうするかは
     デフィーちゃんの自由さ。

     オルアディさん、
     聞いての通り
     デフィーちゃんが
     この実を譲って
     くれるそうだ」

オルアディ「はい!
      ありがとうございます!」

シャイル「しかし、
     さっきも言ったけど、
     この実が本当に
     願いを叶えられるのかは
     分からないんだよ?

     それに、
     もしかしたら何かしらの
     危険な効果が
     有る可能性だって
     考えられるんだよ。

     素性を知らない人から
     貰ったこの実に関して、
     私達は一切責任を持てないよ?
     それでも本当に
     使うつもりかい?」

オルアディ「はい!勿論です。
      妻と娘が戻って来て、
      また昔の様に
      仲良く暮らせるのならば、
      私は何でもする覚悟です」

デフィー「!」

オルアディ「何もしなければ
      何も変わりません・・
      例え不確実で有ろうとも
      私の願いを実現させられる
      可能性が有るのなら、
      私は賭けてみたいのです」

デフィー「・・・」

願いに対するオルアディの覚悟を
聞いたデフィーは、
自分にその覚悟が無かったことを
一人心の中で自覚します。

シャイル「オルアディさん・・」

デフィーはテーブルの上に有る
アギベデの実を手に取り、
オルアディに手渡します。

デフィー「どうぞ」

アギベデの実を両手で
大切そうに受け取るオルアディ。

オルアディ「ありがとう、
      お嬢さん。
      本当に感謝します。
      これでまたあの頃みたいに
      戻れるかもしれない・・
      やり直せるかも
      しれないんだ・・」

オルアディは手にしたアギベデの実を
まじまじと見つめています。

オルアディ「これが・・
      願いを叶える実・・」

デフィー「オルアディさん、
     さっき私達が話していたのを
     お聞きかも知れませんが、
     その実を使って
     願いを叶えるには、
     いくつか条件を
     満たさなければならないと、
     渡してくれたルフトシュさんは
     言っていました」

オルアディ「ああ!
      そう言えば
      さっき話していたね。
      すまないがもう一度詳しく
      教えて貰えないかい?」

デフィー「はい、分かりました。
     え~と・・
     全部で三つ有ってですね・・」

オルアディ「おっと!
      ちょっと待っておくれ、
      今メモを用意するから」

持っていた荷物の中から
メモ帳と筆記用具を取り出し、
メモの準備をするオルアディ。

オルアディ「よし!
      オッケーだ。
      聞かせてください」

デフィー「はい。
     一つ目が、
     食べる前に叶えたい願いを
     強く思うこと」

オルアディはデフィーの言ったことを
復唱しながらメモします。

デフィー「二つ目が、
     この実を一人で
     全て食べきること」

オルアディがメモし終えたことを
確認しながら続けるデフィー。

デフィー「そして三つ目が、
     実を食べて浮かんだ
     インスピレーションに従い、
     必ず実行すること。
     だそうです」

デフィーの言ったことを
聞き洩らさずに、
すべてメモし終えるオルアディ。

オルアディ「ありがとうお嬢さん、
      これで全部なのかい?」

デフィー「はい、
     ルフトシュさんが
     言っていたのは、
     今の三つでした」

オルアディ「なるほど」

メモした内容を見直し確認するオルアディ

オルアディ「よしっ!
      分かったよお嬢さん。
      特に難しいことは
      無さそうだね。

      え~と、
      叶えたい願いを
      強く思いながら、
      一人で実を全部食べ切る。
      そうするときっと、
      何か閃きのようなものが
      浮かんでくるんだろうな。
      そしたらそれに従い
      実行すればいいのか。
      うん、結構簡単そうだ」

そう口にするとオルアディは、
少し迷ったような表情になります。

オルアディ「お嬢さん・・
      もし今の話の通りなら、
      こんな簡単なことをするだけで
      願いが叶うことになる。
      その権利を俺なんかに
      譲ってしまって
      本当にいいのかい?」

デフィー「はい、
     もう決めたことですから」

オルアディ「・・俺が
      そうであるように、
      お嬢さんにも叶えたい願いが
      有るんだろう?・・」

黙ったままデフィーの方を見る
フィリアとシャイル。

デフィー「・・確かに、
     私にも願いは有ります・・
     幸せになりたいと言う願いが・・」

オルアディ「・・そうだよね、
      さっき言っているのが
      聞こえたからね・・」

デフィー「はい・・
     でも、
     先程オルアディさんの話を
     お聞きして、
     オルアディさんの願いに対する
     強い思いと、
     それを叶えようとする
     強い覚悟を、
     私は感じました・・

     それに比べて私の願いは
     漠然としていて、
     叶えようとする
     思いや覚悟の強さも、
     オルアディさんには及びません・・

     だから、
     この実を使うことで
     誰かの願いが叶うのなら、
     私ではなく
     オルアディさんの方が
     相応しいと思うんです」

オルアディ「・・お嬢さん、
      本当に良いのかい?」

デフィー「はい。
     幸せになりたいと言う
     私の願いは、
     自分の力で叶えてみせます。

     だから私のことは
     気になさらずに、
     そのアギベデの実は
     オルアディさんが
     使ってください」

オルアディ「・・ありがとう、
      お嬢さん」

深々と頭を下げるオルアディ。

オルアディに優しく微笑むデフィー。

オルアディは頭を上げて
デフィーを見ます。
その表情は、
覚悟を決めたものになっていました。

オルアディ「よしっ!
      せっかくお嬢さんが
      譲ってくれたんだ。
      さっそく使ってみるよ。
      え~と、
      まずは叶えたい願いを
      思い浮かべるんだったね?」

デフィー「はい」

オルアディ「俺の叶えたい願い・・
      妻と娘ともう一度
      一緒に暮らすこと。
      ・・いや、
      安定した経済状態の下、
      妻と娘と一緒に暮らすこと、か」

オルアディは目を閉じ、
その様子を強く思い浮かべます。

オルアディ「よし、
      イメージは出来た。
      そしたら次は、
      この実を全部一人で
      食べきるんだったね?」

デフィー「はい、
     ルフトシュさんが
     そう言ってました」

オルアディ「・・・」

躊躇うオルアディ。

デフィー達「?」

オルアディ「その前に、
      ちょっとだけこの実を
      拭いてみるかな・・
      もしかしたらリンゴに
      何かで色を塗っているのかも
      しれないしな・・」

オルアディは持っていたタオルで
アギベデの実全体を
軽く拭いてみます。

その様子を見守るデフィー達。

アギベデの実は
オルアディが拭いても、
色が落ちるようなことは
有りませんでした。
むしろ果実の表面全体が
磨かれたことにより、
発する輝きが更に増して見えました。

オルアディ「・・・
      どうやら、
      何か色が塗ってある訳では
      ないみたいだね・・」

シャイル「そうだね・・」

怪しげに輝くアギベデの実を
じっと見つめるオルアディ。

オルアディ「・・・
      ふぅ~、
      よしっ!
      食べるぞ」

オルアディの様子を静かに見守るデフィー達。

オルアディはアギベデの実を一口齧り、
瑞々しい音を立てながら咀嚼したのち
飲み込みます。

デフィー達「・・・」

オルアディ「・・・
      うん・・
      味は・・
      普通のリンゴと
      変わらないね」

シャイル「そうなのかい?」

オルアディ「ああ。
      願いが叶うと言われる
      実だからね、
      もしかしたら
      とんでもない味の
      可能性も有るかと
      思っていたけど、
      普通の味で良かったよ」

シャイル「それでどうだい?
     一口食べてみて
     何か変化は有るかい?」

目を閉じて
感覚を研ぎ澄ませるオルアディ。

オルアディ「・・・
      う~ん・・
      今のところ特に変化は
      無いみたいだけど・・」

シャイル「そうかい・・
     まぁでも、
     突然苦しみ出したり
     倒れたりしないところを見ると、
     どうやら危険な実では
     なかったようだね。
     安心したよ」

オルアディ「そう・・だね・・
      その点では大丈夫そうかな?
      とにかく全部食べてみるよ」

オルアディはアギベデの実を一口ずつ食べ進め、
芯の部分を除いて完食します。

オルアディ「・・・」

デフィー「・・どうですか?」

オルアディ「う~ん・・」

デフィー「ルフトシュさんが言うには、
     願いを叶える為のイメージが
     湧いてくるような話
     だったんですが・・」

オルアディ「・・特には・・
      湧いてこないかな・・
      うん」

デフィー「そうですか・・」

フィリア「少し時間がかかるのかな?」

デフィー「分からないわ・・」

フィリア「もう一回、
     叶えたい願いを
     強く思い浮かべてみたら
     どうかな?」

オルアディ「そうだね、
      やってみよう」

オルアディは願いを強く思い浮かべます。

デフィー達「・・・」

シャイル「どうだい?」

オルアディ「・・いや、
      駄目だ。
      願いを強く思い浮かべても、
      何のイメージも
      湧いてこないよ・・」

デフィー「そう・・ですか・・」

シャイル「う~ん、
     実を貰ったデフィーちゃんや、
     実を食べたオルアディさんには
     気の毒だけど、
     どうやらそのルフトシュって
     占い師に担がれたのかも
     しれないね。
     冷静に考えて、
     願いを叶える果実なんて
     有り得ないもんね」

デフィー「・・・」

オルアディ「そっ、そっか~、
      そうだよね、
      はははは。
      そんなうまい話が
      有る訳無いもんな。
      はははっ」

シャイル「でもまぁ、
     食べたオルアディさんの
     身体に何の変化も
     無いと言うことは、
     見方を変えれば
     毒なんかの危険な効果も
     無かったと言うこと
     だろうからね。

     オルアディさんの願いが
     叶わなかったのは
     残念だったけど、
     とにかく危険な実では
     なくて良かったよ」

オルアディ「そうだね、
      金色に光り輝く見た目をした、
      瑞々しくて美味しい
      普通のリンゴだったよ。
      はははっ」

オルアディは明るく振舞っていますが、
表情は少し落ち込んで見えます。

デフィー「・・オルアディさん、
     ごめんなさい」

オルアディ「・・お嬢さん、
      謝らないでください」

デフィー「でも・・」

オルアディ「お嬢さん達の
      話を勝手に聞いた上で
      この実を欲したのは俺だし、
      食べたのも自分の意志だ。
      だからお嬢さんは
      責任を感じないでください」

デフィー「・・・」

オルアディ「さて、
      願いは叶わなかった
      みたいだけど、
      食後のデザートを
      譲ってもらった訳だからね。
      何かお返しをしないとな」

デフィー「い、いえ、
     お返しなんて」

オルアディ「いんや、
      期待通りの効果は無かったけど、
      実を譲ってもらったのは事実。
      何かをしてもらったら
      その分をお返ししないとね」

シャイル「オルアディさん、
     あんた・・」

オルアディ「・・とは言え、
      今はその・・
      恥ずかしい話だけど、
      求職中でお金に余裕が無くて・・
      それに持ち物にも
      さっきの実に見合うような
      物が無いんだよ・・

      なのでその・・
      申し訳ないんだけど
      借りにしておいて
      もらえないかな?・・」

デフィー「オルアディさん、
     本当にお返しは結構です。
     先程の実には
     何の効果も
     無かったんですから」

シャイル「オルアディさん、
     デフィーちゃんは
     お返しは必要無いと
     言っているし、
     あなたの厳しい状況を
     聞いているから、
     尚更必要無いよ」

オルアディ「お嬢さん達、
      お気持ちは有り難いが、
      やはり貰いっ放しというのは
      よくないからね。
      今は無理だけど、
      いずれ必ずお返しさせてくれ。
      なっ?」

デフィー達「・・・」

オルアディ「そう言うことで頼むよ、
      とにかく実を
      譲ってくれてありがとう。
      今回のことで分かったのは、
      やはり他力本願じゃ
      駄目ってことさ。

      お嬢さんと同じで、
      自分の願い事は
      自分の力でつかみ取らないと
      いけないってことだね」

デフィー「オルアディさん・・」

オルアディ「今晩は色々ありがとう、
      お嬢さん達。
      話を聞いて貰えたんで
      気分が少し楽になったよ」

心配そうな眼差しで
オルアディを見るデフィー達。

オルアディ「さて、
      俺はそろそろ
      部屋で休ませてもらおうかな。
      お邪魔しちゃったね、
      お嬢さん達は
      楽しい夜を送ってくれ。
      それじゃあ」

オルアディはお返しを渡す時の為に、
自分の連絡先を書いたメモを
デフィーに渡すと、
食堂を出て部屋に戻って行きました。

部屋に入ったオルアディは、
テーブルの上に荷物を置いてから
ベッドに横になります。

オルアディ「はぁ~・・・
      完全に信じてた訳じゃ
      なかったけど、
      残念だったなぁ・・」

ぼんやりと天井を見つめながら
呟くオルアディ。

オルアディ「まぁ、そうだよな。
      普通に考えて、
      木の実を食べただけで
      願い事が叶う訳が無いよな・・
      それを信じてしまったんだから、
      今の俺は
      相当参ってるんだなぁ・・」


     (でも今回のことで、
      改めて分かったことも有った。
      やはり本当に叶えたい
      願い事は、
      自力で何とかするしか
      ないってことがな。

      ・・その為にはどうするか?
      妻と娘に戻って来て
      もらう為には、
      会いに行って
      また一緒に暮らして
      くれるよう頼むのが、
      一番手っ取り早いよな・・

      でも原因だった俺の金銭事情が
      変わっていないからなぁ・・
      頼みに行った所で
      妻達も戻って来ては
      くれないよなぁ・・

      もし万が一
      戻って来てくれたとしても、
      稼ぎが無くて金の無い状態では
      すぐに同じことの繰り返しに
      なってしまうだろうからなぁ・・

      やはり妻達に頼みに行く前に、
      ちゃんとした仕事を見つけて
      安定した収入を
      得た状態にならないと
      駄目だよなぁ・・・

      とにかく金が無いことには
      話にならん・・)

オルアディは大きなため息をつきます。

オルアディ(でもその為に
      こうして各地を回りながら
      働き先を探しているのに、
      今日もまだ
      見つけることが
      出来ないんだもんなぁ・・
      正直、明日だって
      見つかるかどうか分からない・・。

      いや、
      駄目だ駄目だ、
      弱気になっては。
      何としてでも働き先を
      見つけて稼ぎを
      得ないことには、
      いつまで経っても
      妻と娘に戻って来て
      もらうことは出来ないぞ。

      頑張れ!頑張るんだ!俺。
      頑張っていれば、
      いつかは道が開けるはずだ・・
      いつかは必ず・・)

オルアディはゆっくりと目を閉じます。

オルアディ(・・そう考えると、
      今の俺に必要なのは
      金なんだなぁ・・

      金ってヤツは、
      働く以外には
      手に入らないのか?
      何か他に金を
      手に入れる方法はないのか?

      ・・改めて思うと、
      今までそんなことを
      考えたことが、
      いや、
      考えようとしたことも
      無かったなぁ・・
      金は働いて得るものだと
      思っていたからなぁ・・

      金ってどうすれば
      手に入るんだ?・・

      う~ん・・)

黙考するオルアディ。

オルアディ(とは言っても、
      やはり一番確実なのは、
      働いて手に入れることか・・
      今までがそうやって
      手に入れて来た訳だからな。

      そもそも働くと
      何故金を貰えるんだ?

      俺が働く、
      つまり仕事をすると
      金が貰える、
      何故だ?
      俺に金を払う
      雇い主が居るからだ。

      雇い主は何故金を払うんだ?
      人を雇わなければ、
      つまり、
      その仕事を自分ですれば
      金を払わずに済む。
      それなのに
      何故そうしないんだ?

      何かしらの
      出来ない理由が有るのか?
      理由が有るから
      人に仕事を任せる、
      そして任せた相手にも
      ただ働きと言う訳には
      いかないから
      その代価を払う。

      見方を変えれば、
      雇い主には金を払ってでも
      やってもらいたい、
      或いはやりたくない仕事が
      有ると言うことか・・

      それに、
      すべてのことを
      一人の人間が出来る訳では
      ないからな。
      どうやったって限界が有る。
      だからどこかしらで
      人に任せる必要が有る訳か。

      そして雇い主は、
      仕事を任せる代わりに代価を払い、
      任された側は
      代価を受け取る代わりに
      仕事をするんだな。

      これが働くことで金を貰える
      大雑把な仕組みだな。

      う~ん・・
      だとすると、
      働く方法は
      働き先が有って、
      そこでの仕事に
      金を払ってくれる雇い主が
      居ないことには、
      金は手に入らんのだな・・

      今の俺には
      その働き先が無い訳だ・・

      そこでだ、
      働く方法以外に
      金を手に入れる方法は
      無いものかなぁ・・)

オルアディはしばらくの間思案します。

オルアディ(・・給料を貰う、
      そうだ!
      貰う、が有ったか。
      給料の他にも、
      小さい頃はお小遣いとして
      金を貰っていたっけなぁ。
      考えてみれば、
      貰うことも金を手に入れる
      手段の一つだよな。

      でもいつからか
      働いて給料を貰う以外に、
      金を貰うことなんて
      一切無くなってしまったなぁ・・
      何故だろう?・・

      って、
      そりゃあそうだよな。
      貰うの反対はあげるだ、
      誰かが金を貰う為には、
      そいつに金をあげる奴が
      居ないとならない。
      そう考えると、
      貴重な金を理由無く
      他人にあげる奴なんて
      居ないよなぁ・・

      そもそも、
      金を他人にあげる奴って
      どんな奴だ?
      俺の場合は・・
      親だったか。
      親は何で俺に金をくれたんだ?・・
      ってまぁ、
      俺も今では親だし、
      両親の気持ちは分かるか。
      自分の可愛い子供になら、
      小遣いと言う形で金を
      あげたくなるもんな。

      ・・とは言え俺の場合は、
      稼ぎが少なかったから
      娘に小遣いを
      あげれてなかったよなぁ・・

      無い物はあげれない、
      つまりは
      金が無いことには
      あげることが出来ない。

      だから他人に金を
      あげれる人間って奴は、
      金を持っている人間、
      もっと言えば
      他人に金をあげても
      平気な余裕の有る、
      経済的に恵まれた者だと
      考えられる訳だな。

      と言うことは、
      金を誰かから貰うとすれば、
      それは経済的に恵まれた
      人間から貰うことになる。
      そんな人間からどうすれば
      俺は金を貰えるのか?

      俺の近くには
      金に余裕の有るような
      人間は居ない・・
      そもそもの出会いが無い訳だ・・

      もし仮に居たとしても、
      その人間達は俺になんて
      金をくれんだろう。
      当たり前だ、
      渡す理由が無いのだからな。

      俺がそう言った人間達から
      金を貰うとなると、
      やはり働いて
      給料と言う形で貰うしか
      方法が無さそうだよなぁ・・)

オルアディは深いため息をつきます。

オルアディ(他にはえ~と・・
      そうだ、
      物と交換することでも
      金を手に入れられるよなぁ。
      そもそも商売がそうだ、
      金と物を交換する。
      つまりは金と
      交換できるような物が
      有ればいい訳だ。

      俺が金と交換
      出来るような物・・
      う~ん・・
      思い浮かばんなぁ・・

      そもそも俺は高価な物など
      持っていないからな。
      ・・当たり前か、
      俺の家は裕福でもなければ
      稼ぎが良いわけでもない。
      高価な物など
      買うことが出来なかったからな・・

      持っているのは
      どれも安物ばかり、
      とても金と交換
      出来るような物は無いし、
      もし出来たとしても
      二束三文だろうな・・

      でもそれでは
      意味が無いんだ、
      生活できる程の金が
      得られなければ。

      となると、
      この方法も駄目か・・

      後は・・
      そうだ!借りる!
      借りるが有ったか。
      ・・しかし、
      つまりは借金だからな。
      この方法はあまり
      イメージが良くない、
      だから出来ることなら
      避けたいんだよなぁ・・

      まぁそもそも、
      職も担保も無い俺に
      大切な金を貸してくれる人など
      いる訳が無いか。
      貸しても返ってくる可能性が
      無いんだもんな。
      親なら或いはだけど、
      この歳になって両親に
      迷惑はかけたくないしなぁ・・
      何にせよ
      この方法は駄目だな。

      あと他には何か無いか?
      金を手に入れる、
      金を・・)

オルアディは
閉じていた目をゆっくりと開きます。

オルアディ(・・盗む・・か・・。
      金が無いのなら、
      有る人間から奪う・・)

ハッとするオルアディ。

オルアディ(いやいや、これは駄目だ。
      人様の物を奪うだなんて、
      泥棒や強盗じゃないか。
      そんなことはしてはいかん。
      この方法こそ
      借金よりしたくない方法だ、
      うん)

心を落ち着かせる為に
大きく深呼吸するオルアディ。

オルアディ(ははは、
      どうかしているぜ。
      まさかそんなことを
      考えてしまうなんてな・・

      まったく、
      金が無いととんでもないことが
      頭に浮かんでしまうもんだ。
      気をつけないと・・)

オルアディは再び目を閉じます。

オルアディ(しかし、
      金を手に入れる方法を
      いくつか考えてみて
      分かったことが有る。

      給料、貰う、交換、借りる、
      そして・・奪う・・
      どの方法にせよ、
      金は人を介して
      手に入れると言うことだ。

      これと言った魅力も無く、
      おまけに人見知りで
      要領の悪い俺の周りには、
      お金持ちなんて人種は勿論
      そもそも人が寄ってこない。
      人付き合いなんて皆無だ・・

      周りに人が居ないんだ、
      それじゃあ
      どうやったって金が
      回ってこない訳はずだ。

      加えて俺は、
      金も、
      金に換えられるような資産も、
      何一つ持ち合わせていない・・

      貧しいのはある意味
      当然って訳だったんだな・・)

自分の現状を振り返り、
大きくため息をつくオルアディ。

オルアディ(さて・・
      どうしたもんかねぇ・・
      こんな俺が
      金を手に入れるには
      どうしたらいいか?

      色々考えてみた上でも、
      やはり一番堅実なのは
      働くことだ。
      そうすれば給料として
      金を貰うことが出来る。
      そして働き続けられれば、
      安定して金を
      貰い続けれるのだからな。

      ・・出来ればそうしたい。
      だからこそ、
      今こうして
      仕事先を探しているんだ・・

      しかし最近は
      単発の仕事さえ
      見つからないでいる。
      ましてや
      継続的に働ける職場なんて、
      明日もその先も
      見つかる保証は無い・・

      貰う方法はどうだ?
      貰うには相手が必要だ、
      しかし
      人付き合いの無い俺に、
      金をくれるような
      相手など居ない・・

      唯一親しい人間と言えば、
      両親と妻と子供くらいのものだ。
      その人達から金を貰うことなど
      出来る訳がない・・

      交換する方法はどうだ?
      俺は金と交換出来るような
      高価な物を持ち合わせていない・・
      俺の今の持ち物では、
      仮に交換出来ても二束三文・・
      生活できるような金を
      手に入れる方法にはならない。
      これも駄目だ。

      借りる方法は・・、
      この方法は
      なるべくなら避けたい。
      収入が無いんだ、
      返せる宛の無い借金など
      したくないからな。

      以前の職場で、
      借金で人生を
      駄目にしてしまった人達の話を
      いくつか聞いたが、
      どれも悲惨だったからな・・

      それを思えば、
      現状の俺の唯一の救いは
      借金が無いことだ。
      もし借金なんて有ったら、
      この日々の貧しさに加えて
      借りた金を返すことに
      奔走しなければならなくなる・・

      借金の為に
      毎日頭を悩まし、
      神経をすり減らし、
      更には借金取りに
      追われるような生活に
      なってしまうかも
      しれないのだからな・・

      そんなことは
      何としてでも避けたい。
      だからやはり
      金を借りる方法は無しだ。

      ・・となると)

オルアディは閉じていた目を開いて
ベッドからゆっくり立ち上がります。

室内のテーブルには
オルアディが置いた荷物の他に、
ガラス製の空のコップと
水が半分ほど入った
ガラス製の水差しが置かれていました。

オルアディはコップに水差しの水を
いっぱいに注ぎ、
一気に飲み干します。

そして大きく息を吐くと、
再びベッドに横になりました。

その頃デフィー達は、
食堂から自分達の部屋に戻り、
寝る準備を終えて
それぞれにベッドの上で
寛いでいましたが、
デフィーの表情は曇っていました。

オルアディにアギベデの実を譲ったものの、
オルアディの願いが叶わなかったことに、
デフィーは責任を感じていました。

フィリア「デフィー、
     大丈夫だよ」

フィリアが心配そうに声を掛けます。

シャイル「そうだよ、
     デフィーちゃんが責任を
     感じることは無いんだから」

デフィー「ありがとうございます、
     二人共・・
     でも、
     思ってしまうんです。

     ルフトシュさんから
     頂いたあの実に、
     願いを叶える効果が
     無かったことも
     ショックでしたけど、
     私があの実の話をしなければ、
     困っていたオルアディさんが
     その話を信じて期待することも、
     実を食べたのに願いが叶わず
     ガッカリさせてしまうことも、
     無かったんじゃないかって・・」

シャイル「それは
     デフィーちゃんの
     せいじゃないさ」

フィリア「うん、
     そうだよ」

シャイル「責任が有るとしたら、
     あの実を渡したと言う
     女占い師だよ。
     それにオルアディさんも、
     あの実に効果が
     無いかもしれないことを
     承知の上で食べたんだからさ」

フィリア「オルアディさん、
     あの実を食べても
     願い事が叶わなかったけど、
     怒らなかったし、
     そこまで落ち込んでは
     いなかったじゃない?
     だから、
     デフィーがそんなに
     気に病むことじゃないよ」

デフィー「・・・」

フィリア達に慰められるも、
暗い表情のままのデフィー。

シャイル「・・まぁ、
     そんな簡単には
     割り切れないか・・

     まったく、
     そのルフトシュって占い師は
     罪作りな物を
     渡してくれもんだよ。
     あの実に関わった者達
     すべてが、
     こんなにも後味の悪い
     気持ちになっているんだからね。

     あの実を渡された時に
     私が一緒に居たら、
     その女に
     突き返してやったのに」

デフィー「シャイルさん・・」

フィリア「・・ねぇ?
     あの実って、
     やっぱりインチキ
     だったのかな?」

シャイル「そりゃそうさ。
     何度も言うけど、
     食べただけで
     願い事が叶うなんて、
     そんな簡単で都合のいい果実が
     この世に存在するはず
     ないんだよ」

フィリア「・・そう・・だよね、
     うん」

シャイル「そうさ。
     仮にもし本当に
     そんな果実が実在したなら、
     多くの人が果実の存在を
     知っているだろうし、
     願い事を叶えたい者達による
     果実を廻った争いが
     起こっているはずさ。

     でもそんな話は
     聞いたことが無いだろう?」

デフィー「はい・・」

フィリア「うん」

シャイル「私もさ。
     そんな話は
     生まれてから一度も
     聞いたことが無かったし、
     私が生まれるよりも前に
     書かれた本なんかでも、
     読んだことが無いよ」

デフィー・フィリア「・・・」

フィリア「・・確かにそうかもね、
     僕もデフィーも
     あんな見た目の果実を
     今まで見たことが無かったし、
     アギベデの実なんて名前も
     聞いたことが無かったからね」

デフィー「ええ。
     それにシャイルさんが
     今言われたような話も、
     聞いたことが
     有りませんでした」

シャイル「だろう?
     アギベデの実とやらが、
     もし本当に願い事を
     叶えてくれるような
     すごい果実だったなら、
     名前だってもっと
     有名だろうし、
     果実に関わる話だって
     耳にしていても
     おかしくないはずさ。

     でも
     そうじゃないと言うことは、
     願いを叶えるアギベデの実
     なんてものが、
     実在しないと言う証拠に
     他ならないと思うんだよ」

デフィー・フィリア「・・・」

シャイル「だからやっぱり、
     あの実はインチキだったと
     言うことさ」

フィリア「そうだよね、
     食べただけで
     願い事が叶うなんて、
     出来過ぎてるもんね」

シャイル「ああ。
     そんな実を渡されてしまった
     デフィーちゃんは、
     本当に気の毒だったね・・」

そう言いながら
何かを考えているシャイル。

フィリア「?
     どうしたの?」

デフィー「?」

シャイル「うん・・
     得体の知れないあの実を
     食べたオルアディさんは、
     願いが叶うことも
     無かったけど、
     体調を崩すようなことも
     無かった・・

     あの実は見た目が
     少し変わっていたけど、
     食べても何の効果も
     無かった訳だよね?

     それに私達だって
     モヤモヤとした嫌な気分が
     残っているけど、
     何か損害が有った訳ではない。

     そうなると、
     輝く見た目をしただけの
     何の効果も無いあの果実を、
     食べると願いが叶うだなんて
     わざわざ嘘をついてまで渡した
     ルフトシュとか言う占い師は、
     一体何がしたかったんだろうと
     思ってしまってね・・」

そのことを考え、
戸惑いの表情を浮かべる
デフィーとフィリア。

シャイル「・・まぁなんにせよ、
     今回のことは
     旅をしていれば
     こんなことも有ると、
     一つ学んで賢くなったと
     思うしかないね」

フィリア「そうだね」

デフィー「はい」

シャイル「よし!
     そしたらこの話はもうおしまい。
     それじゃあ、
     明日も早いし
     そろそろ休もうか?」

デフィー「はい」

フィリア「うん」

消灯して就寝するデフィー達。


翌日の朝、
デフィー達は宿屋の主人から
一通の手紙を受け取ります。

それは宿屋の主人が、
早朝に宿を出たオルアディから
デフィー達に渡すよう頼まれた手紙でした。

手紙には、
デフィー達に話を
聞いてもらったおかげで
無事に解決法が見つかったこと。
お返しの件を
忘れないで欲しいこと。
そして
見つけた解決法を
実践する為に、
早朝に宿を出たことと共に
お礼の言葉が書かれていました。

デフィー達は、
困っていたオルアディが
解決方法を見つけたことに喜びます。
それと同時に、
オルアディが解決法を見つけられたのは
アギベデの実のおかげで、
もしかしたら
願いを叶えると言う効果は
本物だったのではないかと言う
疑念が沸き起こります。

しかし、
アギベデの実自体が無くなり、
その実を食べたオルアディも
居なくなってしまった今となっては、
真相は分かりませんでした。

その数日後、
この町から少し離れた土地に住む
資産家の若い夫婦宅に、
オルアディが金品を盗みに入り
捕まってしまいます・・

その事実を
デフィー達が知るのは、
それからしばらく先のことになります・・。

デフィー、フィリア、シャイルの
幸せを探す旅はまだまだ続きます。
次はどんな出会いや出来事が
待っているのでしょうか?
そして三人は
幸せになることが出来るのでしょうか?

幸せになりたいエルフの冒険
第十二話につづきます。

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