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あら恋、13年ぶりにフジロックへ出演する。

トオクノ桃源郷、PYRAMID GARDEN

あらかじめ決められた恋人たちへが、2011年のフィールド・オブ・ヘブン以来、13年ぶりにフジロックへ出演した。エリアは、場外の苗場プリンスホテルよりもさらに手前、山側にあるテントサイト兼ライブスペース「PYRAMID GARDEN」。出番は最終日のステージトリ、24:10~。夜明けまでダンス・ミュージックが流れる屋根ありステージ「RED MARQUEE」と、場外エリアにある「ROOKIE A GO-GO」、「CRYSTAL PALACE TENT」以外では彼らが最後。実際、この日のオーディエンスのうち、あら恋を見てフジロックを締めくくった人も多いのではないだろうか。

ツアーバス発着地至近、他のステージとの音被りもないチルアウト向きの場所であるため、テント泊の来場者には人気のスポットでもある。Candle JUNEによる見事なキャンドル装飾が施されているステージでは、ヨガのワークショップやアンビエント系のライブが行われるなど、ラインナップもほかとは差別化が図られているのが特徴。そこに、爆音のインスト・バンドとして知られるあら恋が出演するというのは意外で興味深かった。

シャトルバス待ちで「天使たちのシーン」を歌う小沢健二の音漏れなどは聞いたことがあるものの、実際にエリアまで足を伸ばしたのは今回がはじめて。場外に出るだけではなく、入場ゲートから公道に出て橋を渡り、ぐるっと回ったあとに苗プリの門をくぐるので(豚汁を売っている民宿を通り過ぎる笑)、果たして辿り着くのか? と不安になりながら、なんとか到着。
ちなみにテントエリアは専用のキャンプサイト券必須だが、ステージの鑑賞は当日のリストバンドをしていれば来場OK。にしてもこんなに遠いとは思わなかった(笑)!

ここがPYRAMIDGARDENだ!レーザーが放たれているのがステージ。写真がブレているのは歩き疲れたからです(言い訳)

13年前、フィールド・オブ・ヘブンでのキオク。

ちなみに13年前のあら恋@フィールド・オブ・ヘブンも現地で目撃している。当時、あら恋は代表曲「Back」「ラセン」を含む『Calling』をリリースした直後。まさにライブバンドとして評価を上げていた時期。そのときの出演メンバーは、池永さん、劔さん、クリテツさん、キムさん、PA宋さん、DUB PA石本さん(なのでオータケさんとGOTOさんはあら恋としては初出演)。ちょっとした雨もありながら、堂々と爆音でDUBを鳴らすあら恋の姿にいたく感動したのを思い出す。難波ベアーズを拠点に、関西のアンダーグラウンドでノイズと傘を振り回しながら鍵盤ハーモニカを奏でていた池永さんが、“ブレ”ずにたどり着いた場所として。

それからライブメンバー脱退や加入などがあったものの、地道に、着実にアルバムをリリースし、コロナ禍を除けば年10~15本程度のライブを続けているあら恋。何せ、この13年の間に、シングルやライブDVDも含めて9作をリリースしている(曽我部さんとの「GONE」がアナログ7inchでも出ているのをカウントすると10枚)。今年1月にも、ニュー・アルバム『響鳴』をリリースしているから、じつにコンスタントに活動していると言えるのである。

最新アルバム『響鳴』。ボーカル曲なしの完全インスト作。最高のジャケット。

あら恋、継続と探求の強さが見えたライブパフォーマンス


一方で、バンマス・池永さんは作家として数多くのCM、映画、TVドラマの音楽を担当するようになり(長澤まさみ出演のKUBOTAのCM、クレジットはないけれどあれはどう聴いても池永ワークス)、最近ではコラボ作として、曽我部恵一のアルバム『ハザードオブラブ』を丸々DUB処理したアルバム『HAZARD OF DUB』が発表された。しかも配信と共にアナログでリリース、かつジャケットはレジェンド・田名網敬一という組み合わせ!

曽我部恵一VSあらかじめ決められた恋人たちへ名義の『HAZARD OF DUB』

コロナ禍においては、ヒプマイ・ナゴヤディビジョン「開眼」制作タッグでもあるMOROHA・AFROとの「日々」といった、印象的な楽曲・映像作品を残している。SNSで極端かつ積極的なアクション・リアクションはしないにせよ、時代の変化やそこでの感情の動きとしっかりと向き合いながら、自分たちの轟音DUBサウンドを探求し続けた結果として今がある。隆盛しきってしまったストリーミング・サービスをうまく活用できているかと言えばそうではないだろうし、新たなリスナーを獲得するためのタッチポイントが少なかったのは事実だろう。まぁ、それを言い出せば私はライターとして何をサポートできていたのか、という話にもなって耳が痛いのだけれど。

だが、大切なのはあくまで音楽である。その音楽が錆びれないように苦心し、磨き続けてきたのを、この日のPYRAMID GARDENで鳴らされたサウンドを聴けば一発で納得できたのは間違いない。熟練と洗練とパンク精神が入り交じるいつも通りの爆音から、繊細なピアニカの音色と、UKダブ~オルタナ~シューゲイザーを通過したダンス・ミュージックとしての気持ちよさがしっかりと刻まれていた。プログレッシブでサイケなオータケさんのギターは、ロックスター然とした派手な弾き様も含めて確実に目を惹くし、いつも重厚感のある劔さんのベースは野外でも骨太で格別だ。百戦錬磨のGOTOさんのドラミングは楽しいし、ピッチをしっかり取った幽玄なテルミンと乱打されるパーカッションのトライバルな高揚感はさすがクリテツさんという感じ。
池永さんの躍動感のある演奏はこの日も冴え渡り、鍵盤ハーモニカの一音一音に精魂込める姿、そして「フジローック!!」と珍しく固有名詞入りで行われた咆哮は琴線を揺さぶっていく。

アンコール「ラセン」。オータケさんは上裸で登場

セットリストも、最新アルバム『響鳴』から3曲、そして『燃えている』から10分超えの「火花」、代表曲「前日」「Back」、そしてまさかのアンコールで「ラセン」。ちなみにアンコールは本来予定されておらず、観客の高まった熱が現場を動かしたものだったという。それに見合うだけのパフォーマンスであったし、ワンマン並の満足度が得られる75分だった。
キャンドルがあしらわれたステージ、深夜帯、少々風はあったものの星が見えるほどの涼しく爽やかな天候と、恵まれたシチュエーションだったのも功を奏したと言えるだろう。
多くのオーディエンスからの拍手や喝采がライブのテンションをさらに上げていたし、終演後、物販のTシャツがけっこうな勢いで売れていたことは、ライブに対する高い満足度を大いに感じさせた。

こちらセットリスト。ラセンはアンコール。改めて見ると、ユニット名は長いが曲名は短い。
メンバーの盛り上がりが窺える躍動的なショット。ブレているのは踊っているからです(言い訳)

変わっていく時代と、変わらぬ熱。あら恋は「燃えている」!

メンバーたちと合流して打ち上げ、その現場で少し話をしたけれど、池永さんをはじめ、みんな一様に満足そうな顔を浮かべていた。Candle JUNEさんもあら恋のことを絶賛してくれていたが、あの舞台を用意してくれたスタッフの人たちには感謝しかない。「また出ないかなー」と、13年待った甲斐があるものだった。

池永さんが前回のフジロックのあと、どのようなキャリアを思い描いていたのか、詳しくはわからない。リリースのタイミングで毎回話を聞いているけれど、生業としての音楽や、作品としての残す(=CDにする)ことにはそれなりにこだわっていると思う。一方で、闇雲に大きな舞台でとか、爆発的に売れたいとか、プロモーションをこう、みたいな話はあまり聞いたことがなくて、自分のイメージする音楽をいかに体現できるかがいつだって最優先だった。
もちろん、シーンや世論に対して絶望したり、憤ったり、シリアスな気分を正直に吐露されることもあった。だけど、音楽のことをずっと大切に思う姿勢は不変で、それを手放さずに創り続けてきて、そこで勝負しようとしてきたのは事実だ。

あら恋と出会ったのが2002年とかの話なので、20年ほど月日は流れた。だが、13年ぶりのフジロックで、普段はシャイな池永さんが、音楽と一体となるかのように没頭して、畏怖すら感じるほど鋭く鋭く尖っていく姿を目に焼き付けることができたのは本当に良かったと思う。信頼し、影響を受け続けている音楽家の軌跡として、決して外せないシーンになった。

また13年後――にならなければ、それで良いです。







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