『千夜千字物語』その31~バベルの塔
2043年、東京都は100周年迎える。
そこで東京都は新宿公園にバベルの塔を建てようという計画を企画した。
参加者の条件は東京都在住であること。ただこれだけ。
早速東京都は東京都全地域で募集を開始した。
第一次では1000人。その後工事が進めば
二次、三次と募集していくことにした。
募集してから1ヶ月、応募者はわずか2名。
100周年のメイン行事ともいえるこの企画が
このままでは大失敗に終わってしまうということで、
東京都とは苦肉の策としてバベルの塔完成の暁には
参加者全員に生涯納税免除を特典として付け加えた。
すると翌月には一気に募集枠を遥かに超える人数の応募があり、
1,000人は抽選により選ばれることとなった。
精鋭のスタッフ、最新鋭の重機、
十分すぎる作業員で塔は順調に作られていった。
早くも都庁を超え、あべのハルカスをも上回った。
作業員も二次、三次と募集して上海タワーを超えて
ついにアジアNo.1まで上り詰めた。
ドバイのブルジュ・ハリファを抜いた時、皆は歓喜に沸いた。
「よし、このまま天を目指すぞー!」
「おー!」
しかしその自信が傲慢になり、
東京都の制止を無視して天を目指すようになった。
高くなればなるほど人材は必要となったが、
作業員の頑張りを見ていた都民の中から
我も我もと人が集まってきた。
作業員は膨れ上がったが不思議と混乱はなかった。
それもこれも一つの大きな目標が
自然と一致団結させていたのだった。
高くなればなるほど作業効率は悪くなり
さすがに建設スピードも落ちてきてはいたが、
互いに励まし合い着実に天へと近づいていった。
富士山を超え、チョモランマを超え
もくもくと天へとその高さを伸ばしていくと、
何やら至る所でおかしなことが起こり始めた。
現場のあちこちで人々が揉めていた。
二人が三人、三人が四人と
仲裁に入ってはその揉め事に巻き込まれていく。
「ごじゃっぺ言うな(でたらめ言うな!)」
「ぬーあびてぃるぬ?(何言ってんの?)」
「ちばけな!(ふざけるな!)」
よく聞けば様々な方言が飛び交い仲間割れしていた。
作業は中止を余儀なくされた。
とうとう神の逆鱗に触れてしまったのだ。
かつて天を目指して塔を作っていたが、
一つの言語をバラバラにされて
作れなくなったときのように。
ではなぜ作業員を東京都在住で
集めたのにそうなってしまったのだろうか。
それは東京都在住の半数近くが地方出身者だからだった。