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食品工場の自動化が難しい理由3つ

 人材不足が叫ばれて久しいが、工場はそのあおりをモロに受ける職場の1つだろう。そして食品メーカーの工場というのは、その中でもさらに厳しい環境にあるのではないだろうか。

 どれほど大きい食品メーカーでも、工場のラインを動かしている人の多くはパートやアルバイトが中心です。特に食品工場の場合、長く働いてくれいているパートの人が多い。端的に言い換えれば高齢化が顕著。
 無理もない。若い人はそりゃホワイトカラーで働きたいよね。

 私の勤務先も当然ながら、工場の人手は不足しています。特に地方の工場からの悲鳴は大きい。かといって、食品という人の口に入るものを作る人をやみくもに採用するわけにもいかないのは、想像しやすいでしょう。

 こんな話をすると「機械を投資して自動化すりゃいーじゃん」という話が当然湧いてきます。これも当然だし、実際に可能そうな部分に関してはどんどん人から機械への置き換えは進めています。

 ただ、食品工場の自動化って、外部の人が思う100倍むずいんだわ。

 たまーに原料を入れてねるねるねるねすりゃいーじゃん、的な人とか、もっと儲かるもんにシフトすればいーじゃんとかいう人いるけどさ、無理なんよ。無理。資金的にもそうだけど、なにより技術的にメチャクチャむずかしーの。
 
ほんと、20年後まともに動いてる食品工場っていくつあるのかな。
 それくらい、色んな企業が事業存続への課題を突き付けられると思う。

 半分泣き言のようなエントリだが、なぜ食品工場の自動化が難しいのか、思考の整理と食品業界の現状を知っていただくために書いていこうと思います。よろしく。


1.原料が多すぎる&不均一すぎる

 あなたの食品が入っている棚を開けてみましょう。
 食品の表示を見ましょう。
 すっげー原料の数だと思います。当然ですが、全部混ぜてます。

 原料は粉だったり固体だったり液体だったりします。粉はそれぞれ比重が違います。固体はそれぞれ大きさが違います。液体はそれぞれ粘度が違います。そして、Aというソースを作った後にBというソースを作ることがあります。原料はもちろん違います。

 原料は保管状態も荷姿も違います。ボトルに入っている液体、冷蔵庫においてある一斗缶の袋の中に入っている液体、クラフト袋に詰められた粉、形の不揃いな野菜。

 これらを自動で保管庫から出して?
 自動で計量して?
 自動で投入する?

 ……無理だよぉ

 もちろんあらゆる限りの効率化はしますよ。でも完全自動化は無理。
 例えばニンジンをみじん切りにするだけとかならそういう機械もあるけど、加工品で使うニンジンって基本大きさがマチマチだったり、農作物を扱うとどうしても一定の不良品は弾かなきゃいけない。そうすると、ニンジンを投入するところは人手が必要になる。ひたすらニンジン入れマンを配置する必要がある。

 大雑把な作業ではなく、細かい作業で不定形だとさらに無理。
 
例えばじゃがいもの芽取りを考えてみよう。じゃがいもの固体・品種・保存期間によって芽の数・深さ・大きさが違い、さらに取り除き忘れると害のあるもの。機械でやれたら最高だけど無理。
 ……となると、こんな感じになるのだ。

コープぐんま様のサイトより引用。ビバ人海戦術。

 こんなん自動化出来たらサラダ界の神になれるよ。
 え、自動化できる? お金は出せないから50百万円まででお願いします!
 加工度の低いものは利益が出にくいから、よほど量をこなせないとそんなところに投資判断は出来ない。ぶっちゃけ人を使った方が今は安い。

 じゃあ上に挙げたような加工度の高いものは? それこそ無理。ほぼ人のアンドロイドみたいな機械が出てこないと無理。つまり人じゃないと無理。

 TechMagicっていうベンチャーが味の素とかキユーピーとか日清食品とかから資金調達してるけど、つまりこの辺が最先端ってことやね。まだまだ先は遠い。

 正直言うと、これは僕は凄いと思う。
 でも、「まだこれくらいのレベルなの!?」と驚く人もいるだろうなと思っている。はい、これくらいです。

2.腐る

 食品工場の一番のネックです。自動で計量・投入・処理が出来ました。
 やったね! 10日連続で動かすぞ!

 無理です。

 いや、酸系のもの扱ってたり、無菌部分は出来るよそりゃ。でも、ライン全体は無理。

 食品工場が他のメーカーと違うのは、食品は腐るのです。
 配管の隙間と隙間、パッキン、投入口、充填口、全てが菌の温床です。なので、どんなに調子が良くても必ず洗浄工程が必要となります。
 CIP? 自動洗浄ね。よく知ってるね。でも、全部を洗えると思うなよ。
 結局は分解して人力で洗浄しなきゃいけない部分が出てくるのです。

 食品企業における微生物リスクは非常に大きいです。一番有名なのは雪印乳業の黄色ブドウ球菌による健康被害でしょう。雪印乳業はあのダメージを今も回復できていません。

 「市販のパンは腐らない~添加物が入ってるからだ~」という古の悪口がありましたが、なんのことはなく、家に比べて工場は数段清浄レベルが違うんです。サニタイズの手順、菌叢になる場所、しっかりマニュアル化され、常にアップデートされています。それを守れるのはどうしても人の手を使わなければならず、自動化出来ない理由の一つになっています。

3.少量多品種すぎる

 それでも、前述したとおり大手企業は可能な範囲ではどんどん自動化を進めています。特にロングセラー商品で売れているものであれば、投資をしても回収のめどが立つのでどんどん新しい機械を使って省人化を進めていきます。弊社でも、最も売れている商品を作っているラインはびっくりするほど人がいません。

 しかしなぁ……基本食品メーカーって、アイテム数多いのよ。

 売れている商品でも、こまごまとしたリニューアルや期間限定商品、味のバリエーションや荷姿違いなどがあります。
 そして当然、新商品の場合はある程度既存カテゴリーであっても新技術、ないし新原料が投入されるケースが多いです。となるとどうなるか。人の手がかかるんですなぁ。

 結局自動化出来るのって製造のノウハウが溜まるから出来るんですが、食品業界のように絶えず新商品を出していかない環境になると、最適化するまでに時間はかかるし、最適化される頃には売れなくて終売、みたいな話が死ぬほどあるんです。

 工場見学ではどこもピカピカキラキラなヒット商品のラインばかり見せますが、新商品のラインではおっちゃんが一生懸命配管組みしておばちゃんがたくさん原料の小分けをしています。そういうラインって見学者通路なんて一切ないから関係者以外人目につかないんですけど。

 以上、まだまだこまごました内容はたくさんありますが、食品工場の自動化が難しい理由を並べてみました。
 泣き言ばかりのエントリーですが、人海戦術でクリア出来るのはマジであと20年が限度だと思うので、何とかしたいという気持ちはあるんですよ…。


 



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