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食品の消費期限/賞味期限と安全率について

 賞味期限が切れてしまった食品が冷蔵庫や戸棚から出てきたとき、「コレ食べれるの?」と悩んだ経験のない方はほとんどいないのではないかなと思います。

「1日くらいなら……」とか、「1週間も過ぎてる……」とか、「5年前だ……(絶望)」とか、まぁいろんなケースと思惑があるかと思います。僕も独身寮を出た時に、押し入れから入社した4月に買ったX年物のペヤングが出てきたことがあります。
 さすがに泣く泣く捨てました。フードロスはよくないよ。

 それはさておき、よく言われる話ですが世の中「消費期限」というものもございます。そのあたりの整理と、食品メーカーの人らしくですね、この手の話題の時に出てくる「安全率」という話を交えてお話ししましょう。


1.安全率とは?

 ある商品の賞味期限を決めるとき、表示されている賞味期限にプラスで商品の品質が保たれている期間を取ります。 例えば賞味期限1ヶ月(30日)の商品は、1.3倍の39日保つことを確認して30日と設定したりします。

 なぜかというと、例えば30日OKで31日でNGの商品を30日賞味期限で設定した場合、製造のブレだったり何かの理由で28日でもNGのロットが出来る可能性があるからです。

 そして製造以外にも、例えば輸送条件、保管条件などでも商品の品質というのは大きく変わります。輸送はピンと来ないかもしれませんが、例えば東京から大阪まで商品はトラックで運ばれるわけですが、その運ばれてる間の振動というのは結構バカにならないダメージがあったりします。

 そのため、賞味期限は色んなファクターを加味した上で、余裕をもって設定します。この時に設定する係数を「安全率」と言います。
 なおこの係数はメーカーごと、カテゴリーごと、商品ごとに全然違いますし、メーカーに聞かれても答えてはくれません。

2.消費期限とは?

 しかし表示が「消費期限」の製品については安全率はギリギリを攻めるケースが多いです。

 消費期限とは「この期限内にまでしか保証しません」という期間です。ですので「消費期限」は極論、期限を過ぎた商品を食べた人がどうなろうと責任を問われないので、安全率に余裕を持つ必要はありません(そもそも、消費期限が設定される食品は得てして期限が短いので、1.5倍あったとしても数時間だったりもするのですが)。

 そしてほとんどの場合、消費期限の設定根拠は微生物的要因になります。つまり、この期限より先は菌が増えて食中毒を起こす可能性がありますということですね。

 ですので、消費期限を過ぎた食品を食べるのはオススメしません。マジで。1分ならイケると思います。5分もまぁ問題ないでしょう。でも1時間だと? 2時間だと? そのバーは、誰も設定してくれません。

 菌は時間経過とともに、直線ではなく、指数関数的に増えます。ちょっと前に大丈夫でも、今はダメということが往々にしてあります。
 結局すべては自己責任になってしまうのですが、消費期限切れ食品は、少なくとも僕は食べません。

橙が直線的な増え方、緑が指数関数的な増え方。
緑みたいにお金が増えたらいいのに。

3.賞味期限について

 では賞味期限は何で決まるかというと、これはざっくり2パターンになると思います。 ①微生物的な理由 と、②おいしさ的な理由です。

①微生物的な理由

 冷蔵商品ではこの理由が多いです。
 消費期限と考えは近いですが、消費期限ほど切羽詰まった設計ではないことが多いです。ですので、安全率の設計は基本あるものと考えて良いでしょう。例えば14日の賞味期限のもので1日過ぎてても「僕は」食べます。 もちろん推奨はしませんが。

②おいしさ的な理由

 常温製品はこちらの理由が多いと思います。
 要は食品として安全ですが、期限より先のおいしさは担保しません、というやつです。

 食品は当然ですが、どんどん劣化します。なので「ここまでは製品としては許容範囲だけど、こっから先はあかんやろ」というラインがあります。
 我らがじゃぐ先生の大変わかりやすいツイートを置いておきます。

 この場合は「許容範囲」のブレが大きいので、安全率も微生物的な理由のものよりゆるく見てたりします。
 賞味期限が数ヶ月の製品であれば1日2日過ぎていても食べられますし、極論レトルト商品は菌的リスクはないので半年過ぎても1年過ぎても菌的には食べられます。缶詰・瓶詰製品もだいたいそう。
 美味しさは保証しないし、過酸化物質とか出来てる可能性はあります。

 以上をまとめると、こんな形の表が出来ます。

③賞味期限を「おいしさ」で決めるとは
 せっかくnoteなので、これも追記しておきましょう。

 先述した通り、基本的に食品は製造してから時間が経つほど劣化していくことが前提です。

 で、官能評価で賞味期限をする場合は、例えば5点満点の評価として
・出来立てのものを5点
・この商品の名前を付けて売るに値する最低限のレベルを3点

 みたいに決めるわけですね。
 そして1ヶ月間保存したものを「これはまだ5点」とか3ヶ月保存したものを「4点」とかつけていくわけです。

 そんな感じで1ヶ月ごとに官能試験していって、10ヶ月とかで
「うーんこれはもう2点」
 とかになったとしたら
「9ヶ月までは3点だったね」
「じゃあ安全見て賞味期限は6ヶ月にしよっか」
 みたいな感じで決まっていきます。 もちろん試験は担当の複数人でやりますので、個人差はそこでキャンセルされるイメージですね。

 これは官能検査の場合で、当然ですが商品ごとに複数のパラメータを見ますし、分析で数字が出るものは分析結果を参考にしますし、色や粘度、見栄えみたいなものが賞味期限の設定根拠の場合もあります。
 意外に多いんですよ、色が理由の商品。

4.ただし、大前提がある

 ただし上記の話は全て「メーカーが決めた保存方法に従っていた場合」です。
 冷蔵しろって書いてある商品を常温で保管してたら賞味期限内でもアウトです。特に凍結品。溶けたらもう一回再凍結しても、もうかなり怖い。

 また、開封したらその時点でもう消費/賞味期限の設定は無くなったものと思ってください。
 
開けたらお早めにお召し上がりください。いいから食え。

5.結局、どうすればいいの

 正直、本当は「食べて大丈夫かそうでないか」というのはかなり食品の設計や微生物的な知識・経験が要求されるところです。僕はこの辺り結構勉強している方だと思いますが、それでも結構悩むときがあります。

 ですので、基本的にはメーカーの定めた期限内に召し上がっていただく前提で、賞味期限の商品の場合は期限×1.1なら大抵は大丈夫じゃないかな…という感じですかね。

 やはり基本は賞味期限が切れないように買い物をし、使い切っていく。それが最もフードロス削減につながると思います。↓の記事でも書きましたが、食品残渣の半分は家庭から出ているのですから。

 あと、常温品でも冷蔵すると賞味期限が当初より伸びる商品とか、そういうのもあるんですが、それはさすがに上級レベルな感があるのでここでは割愛します。ケースバイケースが過ぎるので。

 それでは、期限を守って楽しい食事をお楽しみください!

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