見出し画像

雨、鉄を鳴らす 1

はじめにーこれは10年ほど前に書いて、休みまた書いたお話し、きっと誰にも読まれることのない、話。せっかくなので残す。ー


 昨晩より降り続けた雨は若葉を無残にも散らし、鮮やかな緑が歩道を埋め尽くしていた。今では皆それぞれの部屋へと帰り、様々な日々の後始末をしている。匂う薄紫の紫陽花と青草の湿り。鉄を打つようにして降り注いだ露の玉がそこかしこに残っている。
夕暮れ、「こっち」という子供の声、ここからは見ることができない。女の子だろうか、まだはっきりと言葉にはならないから、何を指しているのかまではわからない、私には。
兎にも角にも、この話は、赤のうちに溶け込むことで終わりを迎える。見知らぬ女の身の内に還っていくこと。そして、私は私へと溶解していく。それで終わりだ。It’s done…

そして、
白の室の中にいる私は、一晩中続く隣人の痙攣騒ぎに巻き込まれまいと、イヤホンの音量を上げて硬い布団を引き寄せている。夜明けまでまだ二時間ほどあった。

 昔、一人遊びが好きだった。兄弟は二人いたが、それぞれ年が離れていたから、遊び相手はいつも私自身だった。机に置いた手のひらの上に頭をのせるように突っ伏して目を圧迫する。目蓋を閉じたまま見開くと、ドットであったり、ラインであったり、馬が走る赤い世界が見えた。ある日いつものように覗いてみると、赤い蹄が火の粉になって村を燃やしていた。炎が広がって何もかもが染まっていく。怖くなって顔を上げてから一度も、赤い世界をみることはなかった。

だから、


——————-


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?