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【和訳/解説】Sufjan Stevens - So You Are Tired


Sufjan Stevens
待望の新作『Javelin』より、
So You Are Tired の和訳です。


Sufjan Stevens (スフィアン・スティーヴンス)

米・ミシガン出身のSSW
1999年のデビュー以来、精力的な活動を続ける
USインディ界最重要人物の1人
儚くも美しい詩的な歌詞と、繊細な音楽的土台の上で、作品ごとに表情を変えるフレキシブルな音楽性により、数多くのファン・批評家から絶大な信頼を得ている。
また、2017年公開の映画『君の名前で僕を呼んで』に提供した楽曲 Mystery of Love がアカデミー賞にノミネートされた実績も持つ。


作曲からプロデュースまで、制作におけるほぼ全ての工程を一人でこなしたとされる今作『Javelin』
リリースから1ヶ月ほどしか経っていないにも関わらず、すでに数え切れないほどの称賛の声に包まれており、彼にとっての新たな最高傑作と言っても全く過言ではないように感じます。

そんな今作の1stシングルとして9月2日に先行リリースされたのが今回紹介する "So You Are Tired" です。

豊かなコーラスと呼応するSufjan Stevensの柔らかな歌声、様々な楽器が絡み合った美しい旋律。
完璧に整えられたこれらの音楽的土壌に、愛する人に去られた悲しみと、徐々に込み上げてくる戸惑いの気持ちを丁寧にまとめ上げた歌詞が絡み合う。
そんな美しき別れの歌です。

後方に解説・注釈Spotify/Apple Musicのリンク等も用意していますので、ぜひご覧ください。

※堅苦しい訳やコーラス部分の和訳を繰り返し使うなどの形式が私自身あまり好きではないため、一部噛み砕いた表現や意訳を含んでいます。
予めご了承ください。


歌詞

So you are tired of us
So rest your head
Turning back fourteen years
Of what I did and said

So you are breathing disaster
I did what I was told
But I was a man born invisible
Was it something I said or some kind of joke?

So you are tired as the sun
Are you with or without a friend?
Bring me back everything caught in your shield
Let everything else descend

So you are seething with laughter
Was it really all just a joke?
I was a man indivisible
When everything else was broke

So you are tired of even my kiss
So go back to your den
Throwing out everything left in your field
When there was nothing left to defend

So you are dreaming of after
Was it really all just for fun?
I was the man still in love with you
When I already knew it was done

So you are tired of me
So rest your head
Turning back all that we had in our life
While I return to death

和訳

「僕らの関係」に疲れてしまったのなら
もう一度頭を休ませて
この美しき14年もの歳月に
僕が捧げた日々や、僕が口にした言葉達に
どうか想いを馳せて欲しい

それでも君はため息を零す
指摘されたことは全て直した
それなのに僕は透明なままなんだ ※1 ①
悪かったのは僕の言葉?それともくだらない冗談?

君は太陽のように疲れ切ってる
ちゃんと友達と一緒にいる?
それともまだ独りで過ごしているの?
君の盾に囚われた僕のすべて
そのすべてを返してほしい

今の君にできるのは
笑顔で怒りを隠すことくらい
くだらない冗談 本当にそれだけが別れの理由?
僕は君無しじゃ生きていけないんだ ※1 ②
全てが壊れてしまった時はね

もしも僕とのキスにさえ疲れてしまったのなら
心の中へと逃げ戻ればいい
もしも守るべきものがなくなったのなら
すべてを捨て去ってしまえばいいんだ

そうして君は「二人の未来」を夢見ている
この関係はただの遊びだったの?
僕は変わらず君のことを愛してるよ
もう手遅れだなんて分かりきってるのにね

そう、
君は『僕』に疲れ切っていたんだね ※2
それなら穏やかな気持ちで最後
共に過ごしたあの日々を振り返ってほしい

僕という存在が消え去る、その瞬間まで ※3


解説・注釈

※1 ① それなのに僕は透明なままなんだ

誰の目にも留まらず、静かに独りの人生を歩む人。
透明な人、透明な存在。
そのような人達は"気づかれていない"だけで、この世界に数え切れないほど存在し、その多くは大した変化を迎えることもないまま、静かにその生涯を終えていきます。

恐らくは今楽曲の語り手である『僕』自身も、『君』と出逢うまではそのような透明な存在であったはずで、やっと出逢えた『君』という存在-自分の人生に彩りを与えてくれた存在-を何よりも大切にしよう。
そう誓っていたはずです。
(彼の想いは、直前の"指摘されたことは全て直した"という表現からも見てとれるかと思います。)

しかし、そんな彼の想いとは裏腹に、鮮やかに彩られた彼の人生は突如として終わりを迎えてしまいました。
『君』を失い、再度自分は誰の目にも留まらない、透明な存在に戻ってしまったのだ
別れを告げられた(迎えた)時点での彼にはそう嘆く以外の手段がなかったのです。

※1 ② 僕は君無しじゃ生きていけないんだ

①最愛の人を失った、その喪失と向き合うことを
避け、ただ只管に自身の置かれた状況を嘆くという行為に逃げていた頃の『僕』

②『君』という存在の喪失に真から向き合うことにより、その存在がいかに重要であり、自身にとって必要不可欠なものであったのかを悟った後の『僕』

①,②は invisible (透明) と indivisible (不可分の)という類音語を使った対句表現が用いられています。
これによって「別れを告げられた側」しか味わうことのできない、独特で苦しい心情の移り変わりを上手く表現しています。

この感性を簡潔に言語化する能力は流石の一言です。

※2 君は『僕』に疲れ切っていたんだね

今楽曲は
「僕らの関係」に疲れてしまったのなら
という歌い出しからスタートします。

その後の彼が語るのは、彼の抱える困惑について。

こんなにも素敵な日々を忘れてしまったの?
どうして居なくなってしまったの?
原因は何?
真剣だったのは僕だけ?

様々な疑問が彼の頭の中を駆け巡ります。
しかし、どれだけ記憶を辿ろうとも脳裏に浮かんでくるのは「幸せだったあの頃」だけ。
『僕』はすべての答えを追い求めましたが、ついに叶うことはありませんでした。

そこで彼は気がついたのです。
『君』が疲れ切っていたのはあの美しかった日々でも、僕とのキスでも、二人の関係でもない。
『君』が疲れ切っていたのは『僕』という存在
そのすべてだったのです。

※3 僕という存在が消え去る、その瞬間まで

今楽曲が収録されている『Javelin』は、今年4月に逝去したStevensのパートナーに捧げられた作品です。
しかし、その死別が今楽曲(So You Are Tired)にどの程度の影響を与えたのかを知る術はありませんし、全体の歌詞から推測するに、今楽曲は死別だけでない、さらに多くの普遍的な(それでいて突如とした)別れについて歌った楽曲であるはずです。

別れとは多様なものであり、だからこそ、それらを語る上で可能な限り内省的な表現を排し、普遍的で誰にでも当てはまるものに仕上げようとする表現者は多く、Stevensも今楽曲における殆どの部分でそれを意識した言葉の選択をしていました。

ですが、敢えてStevensは今楽曲を締めくくるこの一節で初めて、亡くなったパートナーに対する想い(僕が死して君の元に辿り着くまで)を綴った、極めて「内省的な表現」を用いたのです。

別れには必ず「対象」が存在します。
それはどれだけ普遍性を保ち、個人的な感情と距離を置いて描こうと、変わることはありません。
Stevensにとってはそれが亡きパートナーであり、その彼との別れだったのです。

別れが多様なものであるからこそ、アルバムの中核を担う1stシングルの最後に、自身の感情を赤裸々に歌詞へと昇華させたという事実は、きっと我々が思う以上に大きかったのではないでしょうか。

最後に

いかがだったでしょうか。
今楽曲は喪失を共に乗り越えてくれる「励ましの歌」ではないかもしれません。
しかし、その想いの近くに寄り添い、共に歩んでくれる歌であることは間違いありません。
この和訳が誰かの一助になることを祈っています。

それでは。

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