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わたくしの小さな相棒と、サードプレイスとしての本屋

サードプレイスとは、カフェや公園、コミュティ活動の場など、自宅、学校、職場とは別に存在する、居心地のいい居場所のことを指す言葉である。

先日、とてもいいサードプレイスに出会えたので、この経験をシェアしたいと思う。

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その日は朝から大荒れの天気で、気圧の変化に弱い私はゲンナリしていた。いつもはショートスリーパーの息子も、大雨の日にはよく眠る。夫を会社へ送り出したあと、息子とふたり、昼過ぎまでぐっすり寝てしまっていた。

目覚めると抜けるような青空で、私たちはのろのろと支度をし、近所の商店街へ出かけたのだった。ドラッグストアで必要な物を買い足し、さあ帰ろうか、というところで息子が「おなかすいた」と言った。

時計を見ると中途半端な時間である。軽食を作るのも面倒だし、まだ低気圧のなごりで頭がぼうっとする。コーヒーでも飲みたいな、と思った私は、商店街にあるブックカフェに立ち寄ることを思いついた。

そのブックカフェは飲み物や軽食のメニューが豊富で、コーヒーを読みながら店にある本を楽しむことができる。以前訪れた際には、子どもに向けた絵本のコーナーもあったはずだ。イヤイヤ期まっさかり、魔の2歳児を同伴してもなんとかなる……かもしれない。

そんなことを考えながらカフェに入り、注文を済ませ、絵本コーナーの近くの席に着く。すると息子は驚くほどスムーズに食事を済ませ、真剣な面持ちで、絵本コーナーへ向かった。

「なんか読んであげようか」と聞くと「だいじょーぶ」という。やがてひとりで子供イスに座った息子は、黙々と絵本を眺めている。いつもならすぐに退屈して騒ぎ出すのに。

ブックカフェの絵本コーナーには小上りがあって、周囲を絵本で囲むような形になっている。それはこの店全体に言えることで、店の中心に置かれたソファー席とテーブル席のぐるりを囲み、大きな本棚が店全体を包んでいる感じだ。

きっと息子は、この店のデザインが気に入ったのだろう。絵本の世界に没頭していた。私は息子とつかず離れずの距離を取りながら、コーヒーとハーブティーをおかわりしてしまった。その合間に詩集を読んだり、画集を眺めたりしながら。そして、気づけば2時間近く経っていたのである。

息子が気に入ってずっと読んでいた本を購入し、店を出ようとすると、店員のお姉さんが息子に「楽しかった?」と聞いてくれた。息子は満面の笑みで「うん!」といい、お姉さんは私に割引券を手渡しながら「またきてね!」と言ってくれたのだった。

私は息子と共通のサードプレイスを見つけたことで、小躍りしていた。自宅から自転車で5分もかからないところに、こんな居場所があったとは!

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実際、本屋はサードプレイスには最適な場所だと思う。気分が煮詰まってくると、私はきまって街の本屋に向かう。回遊魚みたいに、膨大な本の海をなかをうろうろ泳ぎ回っているうちに、閉塞感から解放され、元気が湧いてくるのである。

それにしても、わたくしの小さな相棒は、互いがそれぞれの時間を楽しめるくらいには成長したということだろうか。ちょっと前まで赤ちゃんだったのに。

息子が赤ん坊の頃、彼との時間は「私と息子だけの世界」という感覚が強かった。それはそれで完全体な時間だったと思うし、今思い返すと、大変だけど甘やかだった。

今だってたった2歳半。まだまだ親の庇護は必要だけども「自己」と「親」がしっかり分かれてきている気がする。遊びに行っても一緒に楽しめる。家にいても、それぞれの時間をすごしている。まさに小さな相棒だ。

そう遠くない未来には、彼は本物の相棒を見つけ、熱い友情を交わしたり、恋する力におののいたりするのだろう。そう思うと、子と相棒でいられる時間はほんのわずか。

しかし、それでいい。バッテリーが解散したら、それぞれの人生を開拓していけばいいのだから。それまでは一緒に楽しもうや、相棒。時々、パパもね。

(Day.13)

▼昨日の記事。「物語」が私たちにもたらすもの。▼





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