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足立康史の代表選挙出馬における外交安全保障政策マニフェスト評価

本稿では、足立康史の外交安全保障における内容を評価をしていく。外交・安全保障政策における主題である「国民と領土領海領空を守る タブーなき『安全保障戦略』の構築」については、概ね賛同できるが、具体的な内容に物足りなさを感じる。

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「中国の覇権主義的行動、ロシアによるウクライナ侵略など、安全保障環境は一層不確実性と厳しさを増しているものの、自民党政権では、内閣法制局とともに積み上げてきた論理体系に基づく憲法解釈を変更することは出来ず、国民と国土を守るために真に必要な体制を構築するには限界があります」

「政権交代を目指す責任野党として、 そういった縛りに囚われること無く、いわゆる『芦田修正論』を含むタブーなき憲法解釈の議論をリードするとともに、『平和安全法制』よりも集団的自衛権行使の要件を厳格化するこれまでの党内議論(合衆国軍隊等防護事態)を転換し、自衛権について法律事項で確定させるなど、自民党以上に積極的な安全保障戦略を構築します。『専守防衛』の定義の内、防衛力に係る『必要最小限』に限るとの規定を憲法解釈を含めて見直し、自衛権について法律事項で確定させる」

⇨個別的・集団的自衛権は国連憲章第51条によって明文化され、また、それ以前から是認されてきた慣習国際法であり、これを日本国の法律事項によって「確定させる」ことができるのか、疑問が残る。もちろん、日本国内において「確定させる」ことはできるだろうが、マニフェストに一貫してみられる内向き志向を助長しているように思われる。また、「専守防衛」そのものを見直すのか、「専守防衛」の中核的概念であるとされる「必要最小限」という概念のみを見直すのか、これによって大きな差が出てくると考える。

「ポジティブリストからネガティブリスト方式へ転換するなど、 自衛隊法を抜本的に見直し、国民と国土を守る能力を備えた実効性のある自衛隊の体制を構築する」

⇨「安全保障戦略」を謳いながら、依然として「一国平和主義」的な内向き志向に囚われているようにみえる。そもそも、国民を守るのは自衛隊の本来の任務ではない。自衛隊が守るのは日本の国家体制そのものであり、国民を守るのは警察であろう。この点において、ポピュリスト的な面が否めない。ただ、現状の自衛隊は、警察予備隊から連綿と続く警察組織的伝統を断ち切れていない。世界的に、軍隊は国家体制を守るためのものであり、自衛隊もグローバル・スタンダードへと転換していくべきだろう。
⇨ネガティブリスト方式への転換は、グローバル・スタンダードへの転換であり、軍事法廷の設置は必須である。ネガティブリストへの転換は自衛隊の裁量を増やし、それは同時に超法規的行動を誘発する恐れのあるものだ。これを防ぎ、健全な民主主義社会を維持するために、軍事法廷の設置が求められる。

「中国はじめ力による現状変更を目論む覇権主義国家に対抗するため、日米同盟を基軸に、クアッドにおける安全保障の枠組 み強化、AUKUSやファイブ・アイズへの参加を進め、英連邦の国々や台湾はじめ価値観を共有する海洋国家との『海洋国家ネットワーク』を構築する。また、我が国のシーレーンにとって要であるインド太平洋地域でのプレゼンスを拡大するため、 量と質を担保した積極的な海外直接投資を推進するとともに、 TPP11拡大をはじめEPA、FTAに積極的に関与し、自由貿易圏の拡大を目指す」

⇨「海洋国家ネットワーク」から、海洋国家である韓国が除かれているようにみえる。もちろん、すべての国家を書き連ねることはできなかったと考えられるが、台湾を明記しながら韓国を除くことは、一貫性のない、ポピュリスト的選択であるといえる。「覇権主義国家」へ対抗する上で韓国を無視することは、現実のパワーバランスを無視した、ある種のイデオロギーに基づいたものと誤解されかねない。
⇨AUKUSへの参加については触れられているが、これは日本が原子力潜水艦の保有を視野に入れた戦略を持つことを意味するが、この点を熟慮しているだろうか。「主権国家には軍事戦略、すなわち、統合防衛戦略が必要」(兼原信克)※1だが、「安全保障戦略」を謳いながら、その構成要素である「軍事戦略」「防衛戦略」に明示的に触れていないことが懸念される。AUKUSやファイブ・アイズへの参加は、「軍事戦略」にあたることを認識しているのだろうか。

総合評価
全体として、大きく前向きな外交安全保障戦略であることは間違いない。芦田修正への転換を見据えたタブーなき議論は、安全保障環境の厳しさを認識し、本気で対応しようとする足立康史の覚悟を感じる。ネガティブリストへの転換も同様である。これらの転換は、維新内のみならず、全国会議員を見渡しても、足立康史にしかできない仕事であろう。ただ、触れられていない部分も多い。経産省出身の足立康史がどのような経済安全保障観を持っているのか気になるところである。今後の足立康史に期待する。

※1【参考文献】
「日本外交の診断 兼原元国家安全保障局次長と語る 最終回 亡国につながる道」
https://japan-indepth.jp/?p=65595


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