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「きのう何食べた?」ご近所さんも孤食も。

よしながふみ「きのう何食べた?」(講談社)

 ドラマseason2、期待大!!料理のお話だけど、誰かと食べる料理だけでなく一人ご飯もたくさん出てくるし、仕事や家族・人間関係の繊細な感情を描く本作が本当に大好き。

 私は料理があまり好きじゃない。真夏と真冬はできるだけやりたくないし、作っても大体が適当なものばかりだ。健康的な食生活を心がけてはいるけど好きな物に偏るし、正直面倒だ。職場の同僚たちは、家族の食事作りに頭を悩ませていてすごく大変そう。自分の食欲がない時でも家族のために栄養バランスを考えて毎日作らなければならないなんて!本当に頭が下がる…。私には絶対できない仕事だ。
 
 料理は苦行。

 長年そう思ってきたけれど、この漫画は私のその偏見を少し変えてくれた。最近だと20巻の第160話がとても印象に残っている。

  シロさんと同じマンションの隣に住む高齢女性の話である。彼女はシロさんが越してくる20年以上前からその部屋に住んでおり、最近夫を亡くし、長女が離婚して戻ってきたところから話が始まる。生活サイクルに変化があったことで、隣(シロさんとケンジ)から漂ってくる夕食の匂いに気づき始め、影響され、対抗意識が出てくるのだ。

「今日は焼き魚! へえええ 渋い献立が続くこと 確かにマメだわねえ お隣さん!」141頁
「この匂い まさか 揚(あげ)…!?」149頁
「見上げたもんだ あの青二才め… 揚(あげ)ときたか…!!」153頁

 私も同じような経験がある。単身者向けの古いマンションの角部屋で窓を開けていると特に、近隣から漂ってくる料理の匂いに敏感になるのだ。ゴマ油、焼き肉、焼き魚、カレー、ニンニク…。
 耳をすましても話し声は聞こえない。そんな時、「一人で食べてるのは私だけじゃないんだな」と実感して不思議と心が楽になる。

 私は一人での食事は慣れてるし全く寂しさは感じないけれど、時々「一人の方がいいなんて私は変なのかな」と思うことがある。ちょっと捻れた疎外感だ。けれど、夜中にご近所さんが料理をしているのがわかると、何だか分からないがホッとする。彼・彼女がどんな気持ちで料理しているかは知らないが、きっと自分のたべたいものを自分だけのために作っているはずだ。私と同じように。別にそれでいいじゃないの。

 自分の知らないところで、いつの間にか誰かに小さな影響を与えていることがある。私のご近所さんも、漫画のシロさんとこの女性も。

 そしてこの作品は、一人が好きな私でも「誰かのために料理するっていいものだな」と思わせてくれた。この回では、隣に負けじと副菜を増やしたり揚げ物に対して感心する彼女に笑ってしまうが、結果として長女がエビフライが食べたいと言い出し「楽しみだな!」と母娘の笑顔で締めくくられる。とても幸せな気持ちにさせられる話なのだ。

 できるだけ健康的に生きていくには、やらなければいけないこと。きっと、おいしいと言ってくれる人がいればやりがいもあること。でも、自分一人のためであってもそれはそれで気楽で幸せなこと…。
 
 気負わず、料理に向き合っていくよ!

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