事業目的の考え方

前項では企業目的、すなわち企業の存在意義の考え方について、私見を述べてきた。
本稿では、企業目的を実現するための手段、事業目的について整理したい。

企業目的実現の手段

これまでくどくどと述べてきたとおり、企業目的はその企業の存在意義のことであった。
では、どうやってその目的を実現するのか、それがまさに事業である。
その事業を行う目的が「事業目的」である。
「目的」という名称がついているが、企業目的との関係では手段の関係にある。

事業目的のありかた

会社が事業をするなんて当たり前ではないか。
ある意味そのとおりである。

しかしながら、企業目的の手段となっていない事業はあやうい。
利益を上げることそのものが目的となってしまえば、利益を上げるためには手段を選ばなくなったり、利益のほとんどを経営者が搾取するといったことになりかねない。
極端に言えば、振り込め詐欺集団の利益構造がこれにあたる。上層部に利益を収受させるために、高齢者等を騙して莫大な利益を上げるのである。
利益を上げることが目的であればこれが究極の姿であるが、同時に「役に立つ」企業の対極にあることもまた明らかであろう。

企業目的を目的とした手段としての事業を行うことによって、初めて存在価値が実現できるのである。
お客様のためになる事業、社員に適正に還元できる事業こそが、本来の事業である。

事業目的の要素=科学性

科学性は、次の2つからなる。
この2つは車の両輪であって、必ず2つが同時に存在しないと企業目的を達成できない。

・商品・サービスを世に出すことによって、利益を上げること(商品・サービス第一主義) 
言い換えれば、企業から見た「お金の入れ方」

・得た利益を適正に配分すること(利益の配分) 
言い換えれば、企業から見た「お金の出し方」 

商品サービス第一主義

どのような商品やサービスを提供することで利益を上げるのかは、まさに事業の肝である。
事業そのものが利益を上げられないものであったり、他社に簡単に淘汰されるような事業であれば、企業目的を達成することはおぼつかない。
逆に言えば、経営者は、どんなに苦しくとも生き残り、利益を上げていかなければならない責任があるのである。

社会性との関係で、自己の定義した「お客様」に確実にリーチする商品やサービスを提供していく必要がある。
極度に限定してしまえば、「お客様」の一部にしかリーチできないし、新たな事業展開の足かせになってしまう。
また、事業の中身が見えないほど散漫であれば、本来届くべき「お客様」に的確に届かないことになってしまう。
事業の中身がわかる(「現業を表現している」という意味ではない)ことは必要不可欠である。

利益の配分

事業であげた利益は、社会に役に立った証であるのと同時に、企業目的実現の原資となる。

挙げた利益をどう使うかという目的なくして、企業目的は実現しない。

得た利益を、社員に配分したり、お客様への還元したりして初めて企業目的を実現できる。さらに、事業そのものを強化することに積極的に使うことによって、企業目的実現を継続、拡大することにつながるのである。

マクロにみると、企業が商品等を市場に流すことによって、金銭を得て、その得た金銭を適切に使うことでお金が循環する。
あたかも、企業を心臓として、体内という社会に血液を循環させるのと同じである。
経済規模は循環すればするほど拡大するのであって、この流れは決して止めてはいけない。
不況下でお金が入ってこなくなった企業が、お金を使えなくなることで、より不況が深刻化するというデフレスパイラルが深刻な経済状態に陥らせる。現代の経営者ならほとんどが経験しているだろう。

社内留保に使う?

事業目的としての利益の配分で、「社内留保に使う」と高らかに歌っている会社が散見される。

しかし、社内留保は、要するに血液の循環を心臓で止めると宣言しているようなもので、企業目的実現のための手段としての事業目的とはいえない。
社内留保がまったく不要というつもりはない。「目的」ではあり得ないと言っているのである。

同じように、「強い会社を目指す」ことも目的ではあり得ない。
いずれも、なんらかの事態に備えた手段に過ぎないのである。

非営利企業の科学性

科学性=商品サービス第一主義=金の儲け方
といった捉え方をされているせいか、非営利企業(NPOなど)にとって科学性は関係ない、あるいは忌避すべきものという意見(思い込み)があるように思われる。

しかし、実際は真逆である。

非営利企業こそ、科学性を極めなければならない
先に述べたように、どんな企業であっても利益を循環させることはマストである。

商品やサービスを提供した先から直接お金を受け取る、というビジネスモデルでない事業であればこそ、そこに高度な科学性が必要なのである。
寄付で成り立つ事業、会員からの会費で成り立つ企業、スポンサーからの支援で成り立つ企業など様々あり得るが、直接利益を受けるモデルよりもステークホルダーが多い分、こうした人たちも「お客様」として関わる全ての人にとって有益な事業を設定しなくては、継続的に企業目的を実現することは不可能である。

お金を出してくれる人と、サービス等の提供を受ける人が異なるからこそ、これらのステークホルダーをWin=Win=Winにしていく科学性が求められるのである。
そして、その社会的意義は極めて大きいはずである。

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