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時間どろぼうした話

「ミヒャエル・エンデって人のモモっていう本、検索したら在庫あったんですけど見当たらなくて…」

「検索いたします」

ミハャア

「ミヒャ はひふへほのヒにちっちゃいヤです」

「ひゃ でございますね」

ミハャア
ミヒャエルエンデー もも

「岩波少年文庫です」

ミヒャエルエンデー もも イワナミ少年
401-0

「確認致しますので少々お待ちください」

右に風が吹いているような短髪なのに短髪とも言えぬ清潔感のお兄さんは慌ててメモを持って番号の棚へ行く


しばらくして、お兄さんはもう1人のお兄さんを連れてきて何かを話し、また私に謝りを入れてどこかにいく


途中から仲間になったであろう賢そうなお姉さんも一緒に探している 小規模のドラクエ


どんな本なのか冒頭や厚さやあらすじを確認したかっただけとはもう言えない 引き返せない

児童書一つ、宝探しのような、そんな気持ちで私は空っぽのレジの前で立ち尽くしていた

私にとっての宝を私抜きで?って思ったけれど宝探しの映画を観ているとき私はその宝探しに参加していないんだなとそわそわする脚を納得させる

人まみれ 混雑のピーク 日曜日 昼過ぎ 誰かが出るのを待って駐車場を何周もする車

広いけど人のせいで狭くなった書店をしなやかに駆ける店員



空っぽのレジの前の私を横目に何番の紙でお願いしますだの女の子だから包装紙は可愛いのがいいかなだのしおりもいらないですだの何人もが来ては去る


「ほんと全然時間は大丈夫ですよ!」

罪滅ぼしの言葉を可能な限りの早口で唱える


スマホでKindleの本を読む スマホで本を読むことはなかなかないから読みすすめた試しがない

忘れたなあと私はまた一から同じ小説を読む


やっと初めて読むところまで来たなあと一息


「たいっへんお待たせいたしました!!」

顔を上げたら、ハの字になった眉毛でミヒャエル・エンデのモモを一冊私に向かって掲げていた


「それ、買っていきます」


友達がおすすめしてくれたけど内容もわからん本をカバーもしおりもなしで買う


「なんか感慨深いですね、あって嬉しかった。ありがとうございました」


心なしか最初のときより髪がテラテラと汗か脂かわからぬ輝きを放っているお兄さんも笑顔になって、私はまた引っ越し前に本を増やしてしまうのだ






モモ

時間どろぼうと、ぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子とふしぎな物語



結果的に私にとって宝物となった“モモ“の冒頭を帰宅し読んで微笑んだ



私が奪った彼ら3人の時間をこの女の子が返してくれますようにと願いながら、30分後に唐揚げになる鳥もも肉に味付けをした

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