とある老紳士との会話 - 江田島でのオリーブ栽培日誌

「別荘の近くに自分のオリーブ園を持つのが人生の夢でした」と、昨年とある老紳士に相談されました。御歳89歳。樹が育ち実をつけるまでそれなりに年月を要しますので、じつは2度お断りしたのですが、強いご希望があり、園地の委託管理という形で契約させていただき、昨春にオリーブ10本と柑橘2本の小さなオリーブ園を作り、管理しています。

「島に来ているので会えますか?」と老紳士からのご連絡を受け、先日久しぶりにオリーブ園でお会いしました。昨春に植えたオリーブの苗木が順調に育ち、花芽をつけていることをご説明すると、嬉しそうに目を細め、しばし一緒に花芽を眺めました。89歳の老紳士と41歳のわたし。

「相談と言うのはね」老紳士が切り出しました。じつはわたしは、老紳士がご高齢なこともあり、このオリーブ園を今後どうするか、というようなお話しなのかと想像していました。「レモンを1本、みかんをあと2本、あいてるところに植えてほしいのです」と、御歳89歳の老紳士は言いました。

「それから、物置きをふたつ、畑のなかと、別荘の敷地内に置いてほしいのですが頼めますか? 力仕事はもう出来ないけど、道具やらを入れておきたくてね」と老紳士。わたしは驚き、ほっこりしてしまいました。御歳89歳の男性が果樹苗の成長を見ていきたい、と。すごいなあ。

昨春に植えたオリーブの苗木は樹高150cmほどになりました。一緒に樹を眺めながら老紳士「高さなんですけどね、3m位でとめてほしいのです。脚立に乗らず手を伸ばして届くくらいで収穫したいから」と。この老紳士は、89歳になりながらも、数年先の未来を確かに、それが「たしかにあるもの」として、いま、楽しみに眺めている。そのお姿に心を打たれました。

「わたしがだいたい2mでしょう?手を伸ばして収穫できるくらいでいいので、3mくらいの樹がいいですね」と老紳士。ご自分を「2m」と言うお姿に思わず微笑んでしまいました。この老紳士が望むかぎり、ここのオリーブ園(と柑橘)の管理にがんばろう、と改めて思いました。

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