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新釈 走れメロス 他四篇

京都を舞台に愛すべきダメ大学生たちを主人公にした連作短編集だ。

山月記(中島敦)、藪の中(芥川龍之介)、走れメロス(太宰治)、桜の森の満開の下(坂口安吾)、百物語(森鴎外)の5作品をリブート作品である。

どの話も本当に愛すべきクズたちの物語だ。
歴史的なモラトリアムを得て、去っていく友人達に「さらばだ、凡人諸君」と見送り続け、己の才能に溺れ終いには弘法大師堂の天狗となった齋藤秀太郎。
彼女を撮るということに快感を覚え、元彼との復縁話の脚本を描き実際にその映像を作ってしまう執着の強すぎる男、鵜山徹。
変人ばかりが集う詭弁論部の中でもさらに変人な芽野と芹名の奇妙な友情。
女の言うことに従い続け成功を収めたが、そこに自分が存在するのか?幸せながらももがき苦しむ男。

登場人物ひとりひとりがあまりにも魅力的で眩しすぎる光を放っている。

青春の鬱屈や輝き、淡い幸せ。
京都を舞台に馬鹿らしくも愛おしい。
どこか懐かしくなる五つの物語。

芥川龍之介、坂口安吾、森鴎外の三作は恥ずかしながら読んだことがなかった。
これを読むと自分の無知が非常に恥ずかしくなる。

原作と読み比べて読むのも面白いだろう。
全編をととして森見登美彦の作品でありながら、近代の文豪たちの作品でもある。
それが自分と同じくダメ大学生を主人公にリブートされている。
本当にダメ大学生だ。ダメ大学生の私から見てもダメ大学生だ。

いくらモラトリアムを得たくてもそんな長期にわたって学生で入れるほど神経は図太くない。
(いや、金など気にしなくていいのであれば一生学生でいたいのだが…。)

どんなに私が変態的に恋をしても、彼氏の言うことを信じ過ぎたりはしないしその人を主人公にした映画を撮ったりもしないだろう。
(もしかしたらその人を思い浮かべて作曲しだしたりするかもしれないが…)

何かに本気になれるバカほど愛おしい天才はいない。
やはり森見登美彦作品は何度読んでもそう思わせてくれる。

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