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登記研究897号の記事を斬る

皆さん、こんにちは。伊藤塾講師の蛭町です。直前期は、出題予想論点を軸に大胆に学習対象を絞りこみ、精度の高い知識を確保するのが理想となります。

出題予想は、登記の専門雑誌や新聞などの公表されている情報から社会・経済・実務の動向を把握し、過去問から分析・把握した出題の手口がどのように変化するのかを想像して行います。

このように出題の予想に使う登記の専門雑誌の中でも、「しにせ」といえるのは、株式会社テイハンの「登記研究」です。テイハンは、法務省・法務局OBの方々が運営し、主な執筆者となっている雑誌で、おそらく皆さんも「質疑応答」とういう実例がテキストの根拠として記載されていて知っているかも知れません。

登記研究の「質疑応答」は、管区協議で全員一致なら先例照会され、過半数なら質疑応答に照会されるという説もあるぐらいで、実務上は、準先例といって過言ではない位置づけがされており、これにより登記研究は、最も権威のある登記専門誌となっています。

さて、その登記研究897号(令和4年11月号)では、改正民法と不動産登記実務の7回目の連載記事が掲載されており、解釈上、その動向が注目されていた複数の連帯債権者XYのために1個の抵当権を設定できるか否かについて見解が示されました。

債権者を異にする数個の債権のために1個の抵当権を設定できるか否かについて、登記実務は、不用意に1個の抵当権の設定を認めれば、その後の債権譲渡などにより登記簿が複雑化し手に負えなくなるため、その可否の基準として「附従性」を持ち出し、複数の債権者が債権を共有していれば1個の抵当権の設定を認めることにしました。

債権の共有特則は、多数当事者の債権・債務関係であり、多数当事者の債権であれば、数人の債権者のために1個の抵当権を設定しても附従性には反しないとの解釈が確立したのです。

問題は、債権法の改正で合意による不可分債権が廃止され、その役割を連帯債権が担う改正がされたため、XYが連帯債権者である場合に、XYのために1個の抵当権を設定できるか否かが問題となります。

登記研究編集室の見解では、 連帯債権各人が債権を有するものとして、債権者を異にする数個の債権のために1個の抵当権を設定すべきではないとする昭和35年の先例(昭和35年12月27日の付け民事甲第3280号局長通達)に変更はないとしています。

しかし、これでは合意による不可分債権の代わりを連帯債権が果たせないだけでなく、連帯債権が債権共有の特則として複数債権者の関係が債権共有であり、附従性に反しないとの従来の解釈にも抵触することになります。不用意に1個の抵当権の設定を認めることで登記簿の複雑化を防ぎたいなら、もう少し丁寧に説明しなければならないはずで、これは実務上も議論になる論点になるものと思われます。

記述の過去問では、複数債権のための抵当権の設定は、昭和57年・平成6年に同一債権者のための複数債権担保、かつ、平成6年は連帯債務の1個の抵当権の設定が出題されており、(あ)(い)で書き分けるなどの対応を再度確認しておいて頂ければと思います。

伊藤塾司法書士試験科講師 蛭町浩

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