見出し画像

本年度の本試験の出題予想としての株式交付のポイント~内閣府・規制改革推進会議の「規制改革推進に関する答申」より~

こんにちは。
商法・会社法・商業登記法の教材作成者の杉山です。

内閣府の規制改革推進会議の第19回会議(令和6年5月31日)において、「規制改革推進に関する答申」がまとめられています。

この中で、株式交付について、今後、法務省が会社法改正を進めるべきものとされています(株式対価M&Aの活性化に向けた会社法の見直し〔規制改革推進に関する答申p107~108〕)。

タイムスケジュールとしては、法務省が本年度中に法制審議会への諮問を行い、速やかに結論を得て法案を国会に提出するものと想定されていますので、当然のことながら、この答申の内容は、本年度の司法書士試験の出題範囲ではありません。

しかしながら、「法改正が予定されている事項についての現行法の規定」が本年度の本試験において出題されることも十分に想定されますので、答申の内容を確認しておくことも意味のあることだと思われます。

それでは、以下の①から④までの答申の内容を確認していきます。司法書士試験受験生としては、特に、それぞれの矢印以下に杉山が追記した現行法の規定がポイントとなります。

①買収会社が上場会社である場合、当該上場会社の株式流通市場における株式売却の機会が担保されていることを踏まえ、当該買収会社の反対株主の買収会社に対する株式買取請求権を撤廃する。
現行法においては、株式交付親会社(買収会社)が上場会社であるかどうかにかかわらず、株式交付親会社の反対株主は、簡易株式交付をする場合を除き、株式買取請求をすることができます(会社816条の6第1項)。

②現行法上、株式交付は、制度利用可否を一律に判断する観点から、国内株式会社を買収する場合のみに利用が認められているところ、スタートアップ等の積極的な海外展開ニーズが高まっていることを踏まえ、外国会社を買収する場合にも利用可能とする。
→上記記載のとおり、現行法においては、株式交付子会社(買収対象会社)については、日本国内の株式会社のみが認められています(会社2条32の2、774条の2、774条の3第1項1号)。

③現行法上、株式交付は、一度の制度利用で買収会社が買収対象会社を子会社化する場合のみに利用が認められているところ、既に子会社である株式会社の株式を追加取得する場合や連結子会社化する場合にも利用可能とする。
→上記記載のとおり、現行法においては、株式交付は、「他の株式会社をその子会社…とするため」のみに用いることができるものとされています(会社2条32の2、『一問一答・令和元年改正会社法』p191~192)。

④現行法上、株式交付は、買収対価が株式のみである場合には買収会社において債権者保護手続が不要となっているところ、株式と現金を組み合わせた混合対価の場合にも、必ずしも過大な財産流出が生じないことを踏まえ、同手続を撤廃する。
→上記記載のとおり、現行法においては、株式交付親会社は、株式交付に係る対価が株式(に準ずるもの)のみである場合以外の場合には、債権者保護手続をする必要があるものとされています(会社816条の8第1項、会施規213条の7)。すなわち、株式交付に係る対価が株式のみである場合には、債権者保護手続が不要であるものとされています。

上記の①から④までの改正についての基本的な考え方としては、以下の2点となります。
・潤沢な現金を有していないベンチャー企業等であっても、自社の成長力を担保として、自社の株式を対価とする株式交付によって大規模なM&Aを行うことができるようにする必要がある。
・現行法における株式交付については、外国会社を買収するためには利用することができず、また、履行すべき会社法上の手続の負担が重くなっているところもあるため、制度の一部を見直す必要がある。

繰り返しとなりますが、株式交付については、「法改正が予定されている事項についての現行法の規定」として、本年度の本試験の出題の格好の素材となりうるものですし、さらに、令和元年改正会社法の施行から数年が経過し、本年度の本試験が「格好の出題のタイミング」でもあると考えています。

司法書士試験受験生の皆さんにあっては、択一式問題(会社法及び商業登記法)だけでなく、記述式問題(商業登記法)での本格的な出題に備え、今一度、株式交付の基本的な内容について見直しをしていただきたいと思います。

伊藤塾司法書士試験科 杉山潤一


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?