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ヘアカタの“アレ”、僕は好きじゃない。【「似合う」の定義を考える②】

操作イトウです。

今回は、文面の7割ほど書いていたにもかかわらず、構成とオチが決まらなかったことで、ずっとお蔵入りにしていた話。
【「似合う」の定義を考える】のお話は前回も収拾がつかなくなってしまいましたが、今回も拗らせまくっています。懲りずに読んでいただければ幸いです。

本題は、昔からヘアカタログ雑誌の隅に必ずある、あの「顔型別の似合わせ表」についてです。
僕は美容師として、“アレ”があまり好きではありません。もちろん参考にする方が多いから載せられているのですが、個人的には、お客様には“アレ”を信用し過ぎないでほしいと考えています。

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こういうやつ↑

「似合う」の定義についての考察は、以前にもお話しています↓

■そもそも、なぜ小顔がイイの?

美容やファッションが絶え間なく進化し続けている、現代。多くの人が「小顔になりたい」と切願し、最新の美容医療やマッサージ、鍼など、努力を怠りません。ですが、そもそもなぜ人は「小顔」にしたいのか?

これは、洋服の似合わせに由来しています。
そもそも「洋服」は、西洋の文化です。洋服は西洋人が、“より美しく見えるバランス”で設計され、もちろん現代の洋服もその延長線にあります。そのため、日本人が同じ洋服を同じように取り入れても体型が違うため、西洋人よりも似合いにくいと言えます。

「西洋人のようなスタイルの人」のことを、俗に「モデル体型」と呼びます。この言葉通り、西洋的な「小顔」で「手足が長い」スタイルの方が、洋服は似合う傾向にあります。これは言い換えると、「頭が小さい方が、お洋服のバランスもよく見える」ということです。

小顔になる方法についてはコチラ↓

■「顔型表」「ひし形シルエット」ってなに?

多くの美容師さんがInstagramなどで、ヘアスタイルは「ひし形シルエット」になるとイイ、と提唱しています。これは「顔型表」と共に、ヘアカタログの雑誌などでもずっと提案され続けている理論です。
なぜ、ひし形なのか?そもそも、ひし形って何なのか?
そこには理由があります。

▼「錯視」で見え方が変わる→スタイルよく見せることもできる

「ひし形シルエット」は「錯視」を利用した理論です。「錯視」は写真や映像を見ることが多くなった現代では、様々な場面で活用されているため、至る所で知らず知らずのうちに、自分の視線は誘導されています。

視線誘導は様々な分野で活用されています↓

例えば、東京都内で東京タワーを見つけた時には、“てっぺんの先っちょ”を見たくなるはずです。人の目は何かを見る時、無意識に“先端部分”に目線が行く習性があります。これは対象物の全体像を把握するためで、東京タワーの先っちょを見ることで、大雑把に「全体の大きさや形」を目算しているのです。

同じく人は「人を見る」場合も、全体とその先端からバランスを捉えています。身体の先端は「頭」「両手」「両足」と言ったところです。

小顔がスタイル良く見える理由は、「頭」を基準に身体のスタイルを測っているからです。西洋から伝わった「かっこいい、美しい」の基準は、「八頭身」と呼ばれるようなバランスです。つまり「モデル体型」は、身体全体の先端部分にあたる“頭”の大きさから算段されているのです。

▼顔の先端部分と「錯視」で頭の大きさが変わる

先程の「錯視」は、「頭、顔」にも反映されます。正面から見た“顔の先端”に当たるのは、「頭のトップ」「耳」「顎の先」です。
例えば下の絵は、同じ顔にヘアスタイルだけを変えたものです↓

顔が小さく見えるのは、どっち?

右絵の方が、お洒落でバランスよく、小顔に見えるのではないでしょうか。

左絵は、頭の骨格に合わせてヘアスタイルを描いています。通常、日本人は頭の骨格の関係で左の絵のようなヘアスタイルになりやすい特徴があります。
日本人の頭の形は、四角く骨張っていて(この角を「ハチ」と呼びます)、「ハチ」が張っていると「ジャガイモ」のようにゴツゴツした頭に見えやすくなります。そして頭が四角いと、伸びた髪の毛もそのまま四角くなり、頭が大きく見えてしまいます。

日本人の四角い頭は、“先端”が「ホームベース」のような五角形になるため、重心が上がり、頭が大きい印象になります。対して右絵は、シルエットがひし形になるように描いています。すると、ハチが目立たず重心が下がり、シュッとした印象に見えるようになります。

このように、ひし形シルエットになると小顔に錯視することができるため、お洒落に見えやすくなる、という理論なのです。

■ひし形を「顔型表」に当てはめると…

ひし形シルエットは「顎の先」に『点』があるため、必然的に顔の輪郭に左右されます。
顔型は呼び方が異なることもありますが、「丸顔」「卵型」「ベース型」「逆三角形」「面長」の5パターンに振り分けられています。

このうち「卵型」は万能型とされています。「どんなヘアスタイルも似合いますよ」ということです。つまり、卵型に見えた方がいいということです。

そのため、他の顔型が卵型に見えるようにするには、
丸顔」は、トップのボリューム感を出しつつ、頬が目立たないようにする
ベース型」は、頬が目立たないようにする
逆三角形」は、頬下にボリュームを足す
面長」は、顔横に広くなるボリュームを足す
となります。

これが、「顔型」の基本的な考え方

▼「ベース型」は選択肢が少なくなるんだが…

ですが、この理論には欠点があります。
「顔型表」では、ショートヘアのスタイルが「ベース型」に似合うと表記されることはほとんどありません。ショートヘアは明確に「卵型」「逆三角形」が似合う、と判定されます。

理由は、ショートヘアではエラを隠すことができないからです。隠すことでしか修正できない、とされる「ベース型」は不利なのです。

「ってことは、ベース型はショートにしちゃいけないの?」「じゃあメンズの場合はどうすればいいの?」
これではベース型はショートヘアが似合わない、になってしまう。

▼「顔型表」は、コンプレックスを隠すためのスタイル提案

そもそも、顔型表は「コンプレックスを隠す」ことを前提にしています。「似合う」と表記されているのは「この顔型のコンプレックスが目立ちにくい」という意味です。

つまり“エラを隠したい”ベース型の方に「エラが出ないスタイル」として該当していて、コンプレックスを隠したい方への提案として書かれています。そのため「顔型表」は、“隠したい”と考える「ベース型」の方に向けたカバー法や方法論だと言っても、過言ではありません。

とりわけ「ベース型」のエラは、顔が大きく見えがちです。たとえ周りから褒められたとしても自分は恥ずかしいし、コンプレックスを抱きやすく、輪郭を気にしてしまうのは自然な流れです。

対して「卵型」「逆三角形」の方達は、顔の輪郭にあまりコンプレックスを抱いていないことが多い。「卵型」「逆三角形」の方達は、輪郭が悪目立ちすることがあまりないから、「顔型表」もあまり参考にしていないのではないでしょうか。

■「顔型表」は絶対なのか?

例えば、モデルさんはみんな美男美女ですが、顔の大きさにも顔型にとらわれているわけではなく、また西洋人が皆「卵型」な訳ではありません。モデルさんにはベース型な方もいるし、面長の方もいる。そして顔型に限らず、ステキな方は沢山います。

本来、コンプレックスをカバーするヘアスタイルと、似合うヘアスタイルとは直結していないのです。

ロエベの最新コレクション。モデルさんの「顔型」は様々↓

▼森星さんは「ベース型」。でもショートが似合うのはなぜ?

森星さんは「ベース型」ですが、積極的なショートスタイルが話題になりました。
彼女が「顔が美しいから」「スタイルがいいから」というのは言うまでないことです。前述した通り、モデル体型の方が美しく見えやすいのも事実です。

ですが彼女の場合、エラが張っていることで、むしろマニッシュな印象が強まってカッコいいのです。見た目のキャラクターに合っていて、とても良く似合っています。
彼女は、むしろ輪郭を「私の個性」としてプラスに捉えているのです。

このことから、「ショートスタイルはベース型だから似合わない」とは言い切れません。中〜上級者向けであることには変わりありませんが、洋服やメイク、アクセサリーとの合わせ方などによって、似合うスタイルにすることはできるのです。

■ファッションの楽しさが削がれている気がする

森星さんのように似合うショートスタイルでも、「顔型表」を参照すると「エラが出ているから」という理由で「適正ではない」と判定されます。

コンプレックスを隠すことだけが、素敵なヘアスタイルではありません。適正で決めつけると、どんどん選択肢が削られていって「結局できるのはコレかコレだけ」と、手札に残るのは無難なヘアスタイルばかりです。

▼「ものさし」に盲信したら、つまらないファッションになる

イエベブルベ診断」なども、これに当たります。ファッションが苦手な方に向けた「最初のものさし」としては良い提案です。カテゴライズして選択肢を狭め、その中から選択することで、チグハグにならないようにすることができます。

ですがそれに囚われすぎると、次第に自由さが無くなってしまう。「似合わない色」と断定されると手札が限られて、新しいチャレンジはできなくなってしまう。

ことファッションにおいて、その提案は絶対ではありません。
ファッションが苦手な人がすがる「ものさし」。ですが、あくまで「ものさし」です。受動的で積極的じゃない選択は、ファッションとしてどうなのかと思うのです。

それらの理論を全否定するつもりはないのですが、それは一つの指標でしかなくて、「妄信的になるほど絶対的なルールではないですよ」と言いたい。「似合わないとされる色」を似合うようにする手段は、他にもあります。ロジックは大いに助けになりますが、ロジックから逸脱してもカッコよく、美しくなることはできるのです。

■「似合うかどうか」より「やりたい」かどうか

ファッションは良い/悪い、正解/不正解の二項対立で語るものではありません。簡単に説明できないからこそファッションだし、前例を破ってこそファッションであって、小さな意外性の積み重なりです。
僕は、「やりたい!」「真似したい!」と感じた衝動こそファッションであると思います。エラが張っていても、チャームポイントだと思っていれば、隠す必要はないのです。

…と、またこねくり回して拗らせてしまいました。やっぱりオチが見つかりませんでした。すみませんでした。
また形になってきたら、【「似合う」の定義を考える】の続編をお話すると思います。


ではまた。

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