読書感想文(プチ鹿島『ヤラセと情熱 水曜スペシャル『川口浩探検隊』の真実』)
過去にも書いた気はするけれど、自分はいわゆるヒルマニアで、ヒルカラナンデスを毎週楽しませていただいている。
ヒルカラナンデスとは、ナンチャンが司会のあれではなく、ラッパーのダースレイダー氏と時事芸人のプチ鹿島氏が、毎週金曜日の午後1時にゴキゲンに時事ネタを中心に愉快な床屋政談を、時には床屋政談レベルにとどまらない深い話をしてくれるYouTube番組だ。
2021年の秋くらいから拝見させていただいているが、現代日本をどう捉えるべきか考える上で、自分にとってはとても重要な視点を提供してくれている。
さて、そんなプチ鹿島さんの書籍で、ヒルカラナンデスでも紹介されていたが、自分は「川口浩探検隊」とはだいぶ世代がずれていて、ある程度雰囲気は知っているが、一番最初に思い出すのは「GS美神のノベライズで横島が川口浩を見てたって話があったなあ。あのノベライズ面白かったなあ。」くらいしか接点がなかったので、読んでもよくわからんのではないか、ということで見送っていた。
見送っていたのだが、やっぱりヒルカラナンデスで、ダースレイダー氏も「川口浩探検隊見たことない人でも面白いですよ」とおっしゃっていたり、Twitterで色々な方が絶賛しているのを見て、ちょうど読書熱が高まっていたということもあり買ってみた。
いやー、買ってよかった。金曜から読み始めて3日で一気に読み切ってしまった。もう、単純に圧倒的に面白いのだけれど、ただ面白いだけではなく、エンターテイメント業界に携わる人間にとって沢山の重要なことが書かれている。「面白いものを作る」ということがどういうことなのか、携わっている人たちはどういう気持ちでどう動いているのかがこれだけ多層的な視点で、臨場感をもって書かれた本も相当珍しいのではないか。
元ネタを見てないのではっきりは言えないけれど、題材がそもそもよいのは間違いはないのだろう。それをエンタメ的な視点から物事を批判的に見るという技術に関して抜群の手腕を持ったプチ鹿島氏が取り扱う、ということで最高の作品に仕上がっている。
プリプロも現場もポスプロもすべてそれぞれの自負と苦労を持っていて、それを一つにまとめ上げるのに必要なことは何なのか。作品はどう見られて、社会においてどう受容されて、受容される際に作り手はどうあるべきなのか。組織論の話も出てくるし、逆に一人の人間として働くうえでの参考になる話がたくさん詰まっている。
いくつか印象的なところを引用する。
「政治家だろうと鮮魚店だろうと会社員だろうと、どんな仕事にも"世の中には見せていない部分"はあるだろう」
「現場はどんどん面白くなっちゃうんですよ。視聴率に関係なく、もっと何かできないかって探求してしまうんです。」
「「僕がお茶を買いに行ってきます」と同じ感覚で「俺がワニを抱えます」というように。これは仕事論であるとともに、組織にいる人間が環境に順応していく過程を考えると怖い話でもある。」
「あうんの呼吸。これは大事だ。覚えておいて。」
もちろん、作り手たちの言葉すべてに首肯できるわけではない。倫理的に眉を顰める部分も多いし、共感できないところも多々ある。しかし、川口浩探検隊がエンタメであったからこそ、彼らのやっていることには常に「純真さ」が付きまとっている。ただただ「面白いものを作りたい」、「面白いものを作っている人をサポートしたい」という純粋な熱意の発露。そうでもなければ、きっとあんな現場で仕事は出来ない。さらに言えば、その現場に残り、そして20年以上の時を経て情熱をもってインタビューをしてくれるプチ鹿島氏に答えてくれる方たちだからこそ、この仕上がりになったのだと思う。
同時に、この裏には「とてもじゃないけれどそんなことにはついていけない」と脱落した人が沢山いるし、そういった人はきっと強い不条理も感じていると思う。その不条理も同時に大切だけれど、少年プチ鹿島を惹きつけるためには、その純真さが必要だったのだろうな、ということを、プチ鹿島の視点を通すことで体験できる、そんな本でした。
エンタメ業界に関わる方は読んどいて損はないなあ、と思う次第です。
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