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規模の大きめなデザイン組織に入った。それもデザインシステム担当みたいな感じで。

もう半年前なので今更になってしまったけど、6月にGMOペパボ株式会社へ入社した。

2018年から2022年まで所属した株式会社スペースマーケットでは自社ソフトウェアのUIをデザインしてて、自主的に学んだり仕事をする中でいくつもの面白い経験と視野を獲得できてきたように思っていたところで「今も面白いけど、もっと色々なデザイナーと刺激し合いながら仕事したら今以上に面白い感じになるのでは」となったのが転職の理由だった。

ペパボには以前からWebの分野を中心にデザイン組織として骨太な取り組みをしている印象があって(紹介資料に「ユーザーの体験は直接デザインするものではない」といった旨が書いてある辺り特に好感を抱いた)、こういった方々と一緒に働けたらなと思っていたら良い感じに話が進み、自分も熱意が高まり、そして今に繋がっている。面談の時点で話が合うような感触が得られると嬉しいですよね。

ペパボでは色々な事業をやっている(本当に色々で、「これもペパボのプロダクトか!」というのがいくつもあったので皆あらためて注目してほしい)けれど、自分はいずれの事業部にも属さず、会社直属の「デザイン部」に籍を置いている。デザイン部は事業を横断する感じで動く管理組織のような位置付けで、各事業部のデザイナーなど多くの人と関わって働けるので「もっと色々なデザイナーと刺激し合いながら仕事したい」思惑に合っているような感じです。

実際に入社してからの様子は、複数のプロダクトとその事業部ごとにデザイナーがいるために全体で見るとデザイナーが多くて、日々のデザインに関する雑談なども盛んだし今のところとても楽しく仕事している。とりわけ筆者はデザイナーの知り合いが少なかったのもあって、本当にこんな色々なデザイナーがいる会社あるんだな…と謎にしみじみした。

今のところはデザインシステム専任みたいな位置付けで、ペパボ全体での集合知的なデザインシステム「Inhouse」を良い感じに活用できるような取り組みを進めつつ、いくつかの事業部におけるUIデザインを手伝うような働き方をしている。自分の意識としてはお手伝いってよりも真正面からプロダクトをより良いものにするべく一緒に取り組んでる感じで、UIやソフトウェアのデザインが好きな自分にとってはモダン寄りなものからレガシーなものまで携わっている今の状況が面白いし充実した感じがある。

「集合知的なデザインシステム」とは説明したものの、現代のWeb・ソフトウェア開発におけるデザインシステムは何とも言えないものになっているように見える。よく言われる「コンポーネントだけでなく原則などを含めた云々」みたいなのも、別に「デザインシステム」なる概念を正しく定義できているわけではなく「それっぽい」というだけだし、ラダリングっぽくこれまでのコンポーネントライブラリやブランドリソースとの違いを喧伝することで「従来よりもすごいことをしている」「先進的な環境がある」と主張しているのに過ぎなかったりして、というかそもそもデザインシステムに共通規格のような定義はないものとして認識している。

そんな今「デザインシステムという曖昧な概念をなぜわざわざ援用するのか自覚的なデザインをしたい」とこの2、3年くらい考えているのだけれど、ペパボの取り組みは1つの解となるように感じているし、そうなっていくよう意識的に取り組んでます。

一般的に「デザインシステム」として真っ先に参照される筆頭はAppleのHuman Interface Guidelinesだと思われるが、実際のところAppleは「Design System」と呼んでいないし定義もしていない(そりゃあ、guidelineなのだからそれ以上でもそれ以下でもないし)。HIGは「デザイナーとデベロッパのための包括的なリソース」として扱われているものの、基本的にAppleプラットフォームのソフトウェア開発においてはガイドライン(HIGやApple Style Guide)とUIライブラリ(UIKitやAppKit)などがあるだけで、包括的概念としての「Design System」は無い認識だ。

一方で「やはりデザインシステムなる概念は曖昧で眉唾物だし、距離を置いて否定的に向き合うべきか」と考えたこともあったのだけれど、今なら「批評的に観るのは重要だが一定の価値を見出すことも可能では」と解答できる気がしている。

Appleのようにパーソナルコンピュータ黎明期からソフトウェアやGUIのデザイン史に痕跡を残してきた企業ならいざ知らず、多くの企業では目の前の目標達成に向けた取り組みがデザイナーの仕事の多くを占める。そういった企業では、ブランドに接地した長期的なデザインのアプローチに対してリソースを割ける余裕がなかったり、合意や理解を得るのが大変だったりするわけで、身に覚えがある方も多いんじゃないだろうか。

この状況に対する打ち手として、デザインシステムという定義の曖昧なバズワードを援用しつつハックするというか、デザインの全体性を保つためにガイドラインを充実させていったり、再利用性の高いコンポーネントライブラリを構築したり、ボトムアップ的なアプローチとしてデザイナーの知見をデザインシステムに少しずつ集めていくのはある程度有効な手段なんじゃないだろうか。
ガイドラインやコンポーネントライブラリなど個別の要素に対しても丁寧に取り組みつつ、それだけで得にくかった推進力を、デザインシステムという概念に乗っかって全体性を意識付けたり、デザイナーの横断的な組織体制を展開するとか。
ブランドとの接続や全体性の担保を頑張ることの必要性を組織へ示しやすくなるのであれば、デザイナーが本来の創造的な仕事に取り組みやすい環境にしていける点で検討する価値があると思う。

ペパボのデザインにおいては各事業部ごとの最適化を図ったがあまりブランドとしての全体性が後退しないよう、ペパボと各事業部らしさの両立を目指したデザインシステムを設計している。実際にInhouseがどんな仕組みでその両立を実現しているのかについては

に詳しい。

デザインシステムの現物は

で一般公開してます。公開してるのはまだ一部に留まっているのだけれど、ちゃんと清書して外部の誰からも突っ込まれないような隙のないものを目指す、というよりかは今後カジュアルにどんどんガイドラインを掲載して、更新して、ドキュメントとしてすぐ参照できる感じにしたい。

もちろんデザインシステムによるプロダクトや開発プロセスへの効果はある程度定量的に組織へ提示する必要があり、今でもInhouseではガイドラインやコンポーネントライブラリと並行してより良い定量指標を模索中だ。
こう書くと、組織の規模的にも取り組み方的にも強固なシステムを構築するような印象が先行してしまい、デザインの範囲を狭めるものと受け取られるかもしれないけれど、むしろ集合知を活用してデザインの範囲を広げる感じで、デザイナーがより活動的になるための参照点や補助線のようなデザインシステムを指向している。

こういったガイドラインや、あと実装についてもGUIとかHTML(HyperText Markup Languageの略ですからね)の基礎を踏まえた筋の良い設計や情報に対するアクセスのしやすさ、セマンティックなマークアップなどを心がける文化があって、議論も活発に行われている。最近だと「UIデザインのためのライブラリは結構あるけどWebデザインのためのってあんまないよね」みたいな会話がきっかけとなって、コーポレートサイトやLP、ブログなどオーセンティックなWebデザインを良い感じにやりやすくする仕組みを作ってたりして。

色々なデザイナーが使うことを想定したコンポーネントライブラリやガイドラインを作っていると様々な個別事例が浮き上がってくるし、そういったものをどのように一般化できるか考えたり、実際に各事業でのデザインに取り組んでいるデザイナーとのやりとりから今まで自分になかったセンスや視野を獲得してる感触とかもあって、日々何かしら違う自分になりたいと思っている筆者にとっては素敵な環境だと思う。

この流れだと採用について触れないわけにはいかないだろうな、まあどの道触れるんだけども…。ペパボには自分以外でも最近入社したデザイナーが何人もいて、入社して半年程度の自分の目にも今かなりアツいデザイン組織であり、会社だと思う。とりあえず僕と話したい奇特な方はぜひカジュアル面談やりましょう。

もっと軽いノリで入社しました記事を書こうと思ったのにこんな感じになってしまった。デザインも言語も、ある複数の人間の間での共通的な知識の集積という点で近いし、何ならデザイン自体言語のようなものかもしれない。集合知的なデザインシステムの中でデザインを記述しようとすると「わかりやすく簡潔」にするのは困難さを伴うし、でもそれを大事にしつつこれからもデザインしていくのだと思います。

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