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小説を読めなくなってしまったと思っていた私が、読めた。読めて、以前のようにきちんと楽しめた。この本は私を小説を読める体質に戻してくれた、記念すべき一冊だ。

 noteで、私の「ボブ・ディランとジョン・レノンでは世界を語れない」の感想をいただきました。ありがとうございました!

橘鶫TachibanaTsugumi様

 鳥描きから小説家・緒真坂氏への一方的な書簡


 最初に述べておく。
 先ず、これは私にはとても珍しい読書感想文だ。これまで物語に関係する記事以外は一定期間が経つと削除していたが、これは残すつもりだ。
 理由は記事を読んでいただければ分かると思う。

 『ボブ・ディランとジョン・レノンでは世界を語れない』の感想

 この本には三つの話が収録されている。内容は私の拙い文章よりも、緒真坂(いとぐち まさか)氏自身による下記の記事を参照いただく方がずっと良いと思う。表題作の冒頭も読めるので是非。


 三つの話を読んだ私の頭に最初に浮かんだフレーズは、「これは人の感情の”ズレ”に潜む哀切を描いた小説だ」というものだった。ちなみに三つの話のうちひとつは語り手がロボットなので厳密にいうと”人の感情”ではないかもしれない。それでもそのフレーズは、この記事を書くために自分の心の動きを丹念に追ってみてもやはり変わらないものだった。
 本でも映画でも、何故か私はあまり主人公に感情移入することはない。どちらかというとその主人公の近くにいる人物や、ちょっとした登場人物の心の動きを想像するのが好きなのだ。そうすることで、物語の世界はまるっと自分のものになる。
 しかしこの本は違った。
 物語の語り手も、その周囲に居る人も皆どこかズレている。ズレてはいるが一人一人はとてもまともだ。それぞれの価値観を大切に日々を生きている。ああ、人と人は、こうやってすれ違ってしまうのだと思った。
 私は登場人物のうち誰にも自分を重ね合わせることはなかったが、誰の考えをも否定できなかった。理解できてしまったのだ。誰かがある言葉を放って誰かが傷つく。言葉を放った人の気持ちも、受け取った人の気持ちも両方理解できる。どちらが悪いとも言えなかった。
 「仕方ないよね、貴方と貴方は違うんだもの。偶々だよ、仕方がない。」完全に傍からそのやり取りを眺める視点のまま物語の進行を見守り、それでも物語の最後には言いようのない哀しさが胸に満ちる。しかし、読後の感触はそれ程重くはない。その哀しさとも切なさともつかない感情は、そのままそっと日常に寄り添う。
 つまりは優しい小説だった。読めて良かった。

本を手に取ったったきっかけ
 

 私がこの本に出合ったのはnoteの中だ。
 私はかつて文学少女だった。平均的な日本人よりは本を沢山読んで生きてきたと思う。書店でアルバイトをしたこともある。かつて、と書いたのは今はそうではないからだ。あることをきっかけに、何故か小説というものが読めなくなってしまった。
 それでも活字中毒気味ではあるのでエッセイやノンフィクションなどの本を読んで暮らしていた。noteに来たのも手軽に活字が拾えるからというのが最初の理由だ。ずっと一方的なreaderだった。(フォローしている人はおらずその時偶々目についた文章を読んでいた。スキもつけていなかった。)
 しかしある時おそらく、私の中に決定的に物語が不足してしまったのだ。でも読めない。だから書き始めた。自分だけの物語を大好きな鳥の絵に乗せて。
 衝動的に書き始めたので当然戦略もなく毎日ただただ頭に浮かんだ物語を書きだしていた。そんな文章でもぽつりぽつりとスキがつく。当初私はスキの有無は気にしていなかった。しかし、書き始めてからひと月くらい経ち、記事が50を超えた時、複数回スキしてくれている人の存在に意識が向き始めた。こんな私的な物語を読んでスキしてくれる人が居る。
 私は初めてスキの通知を見直し、印象に残った数名のnoteにお邪魔した。その中の一人が緒氏だった。先ず、本を出されている小説家だということで驚いた。フォロワーも沢山居た。
 何かの間違いだろうと思いその時は何の足跡も残さずそっとページを離れた。しかしその後も何度かスキをいただき、私はついに緒氏の記事を読み始めた。
 そこには、かつて文学少女だった私が憧れていた「大人の暮らし」があった。もしかしたら自分が選んでいたかもしれない生活。パラレルワールド。私は初めてスキをつけた。そしてそれからまたしばらくして、フォローさせていただいた。
 その緒氏が5月に新刊を出すのだということもnoteの記事で知った。その時まともに小説を読めなかった私だが、その帯に惹かれた。
 「僕は決めたのだ。成長しないと。」
 そう書いてあった。
 そして先に挙げた記事を読んで、これは読めるかもしれないと思ったのだ。
 それから少し後に、あとがきが公開された。それを見て私は驚いた。
 「読書好きで、小説が読めないようなひとにも読める小説を書きたいと願っている。」
 自分のことだと思った。

 結果、感想を書いているのだから、読めたのだ。
 小説を読めなくなってしまったと思っていた私が、読めた。読めて、以前のようにきちんと楽しめた。この本は私を小説を読める体質に戻してくれた、記念すべき一冊だ。

最後に
 

 私がただスキをつけるだけでなくフォローを決めた決定的な記事を紹介してこの記事を終えよう。短いので(なんならPCの場合はサムネがすべて)ぜひ読んでいただきたい。


”妻くん”のファンになると共に、こんな短い文章で人を惹きつけることができるのだなあと、自分に欠けている才能を目の当たりにした。

おまけ
 

 本の表紙に空がある。
 その題字の間に鳥らしき影がある。
 私はついついそれを見つめてしまうのだ。
 この記事につけたイヌワシの絵はその空を眺める姿だ。
 タイトルを「いい天気だ」という。

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