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渋谷系音楽を求めて(私的90年代の音楽)

 先日、中村総一郎さんとClubhouse Room 『渋谷系音楽を求めて(私的90年代の音楽)』というRoom(番組)をした。渋谷系と言われる曲をかけて、すこし話した。その際、何となく知っているような気になっている渋谷系というジャンルについて調べてみた。
  以下の文章は、そのときのことをまとめたものである。

              *

 渋谷系という音楽ジャンルだが、誰が言い出したのか。そして何を指すのか、という話を始めると、じつは定義が難しい。
 1990年代、HMVにいた太田浩さんが「SHIBUYA RECOMMENDATION」で、のちに渋谷系と呼ばれるCDを推していて、それが発端ではないか、といわれている。私も当時、雑誌でそんな記事を読んだ。
 現在、その太田さんのインタビューがネットに載っている。
「渋谷系という言葉を最初に使ったのはセゾングループが発行していたタウン誌『apo』らしいですが、名称の是非はともかく、渋谷で何かが起きているとメディアが煽ったのは大きかったと思います」
(中略)
「それまではHMV渋谷の邦楽の売り上げは全体の7、8%だったんですが、93年には20%近くまで伸びたんですよ」
(中略)
「他店やほかの街でも同じ商品が買えるのにわざわざ渋谷に来て、HMVで予約したり買ってくれる人もいたんですよ。あの頃は新譜が出るたびに平台に商品をどう並べるかを考えるのが楽しくて、ディスプレイや特典にも力が入りましたね」
(中略)
「ただ、ここまでお話ししてきましたけど、自分自身も当時は、渋谷系という言葉は極力使わないようにしていましたけどね(笑)」
 最後のインタビューにあるとおり、太田さん自身は「渋谷系」という言葉はあまり使っていなかったようだ。
 若杉実さん「渋谷系」というタイトルがそのものすばりの本がある。その本には、次のように書かれている。
「渋谷系ということばはどこからやってきたのか。結論からいえば、「風の便り」でやってきた。ようするに口コミによるものである。」
 先ほどのHMV太田さんの話にも出てきた『apo』の編集者は山崎次郎さんという方で、その山崎さんのインタビューも載っている。そのインタビューで、山崎さんはこう答えている。
「メディアに初めて載ったのがあのときでした。ただ、ぼくが考えたわけではなく、編集の人とやりとりするなかで、向こうから渋谷系っていうんですよね、と教えてくれたんです」
 渋谷系とは、要するに、誰が言い出したのかははっきりせず、「こういう音楽が渋谷系っていうらしいよ」ということがうわさになって、伝聞形式でどんどん広まっていったというのが、真相のようだ。

 とはいえ、渋谷系についてもうすこしカチッとした定義をしたい。
「ミュージックマガジン」2007年9月号が渋谷系の特集で、渋谷系ど真ん中の1人、ピチカートファイブの小西康陽さんがインタビューでこのように語っている。
「自分が作ったものではない音楽への愛情が根幹にある音楽。それらをみんな渋谷系と言っちゃえばそうなると思う」
 Twitterにも似たような内容のものがあった。
「レコードコレクターが作った引用まみれのオタクの理想の音楽」(J.K.McDonald)
 つまり渋谷系の音楽とは、すでにそこにある音楽、過去の音源の発掘も含めて、新鮮で独自の解釈を与えていく作業を経てできあがった音楽の総称、ともいえるだろう。

 私が選んだセットリストは次のとおり。

 ① ブライアン・ウイルソン「ゴッド・オンリー・ノウズ」
 ② フリッパーズ・ギター「ドルフィンソング」
 ③ フリッパーズ・ギター「星の彼方へ」
 ④ ブリッジ「ウォーターメロンビキニ」
 ⑤ カジヒデキさん「パッションフルーツ」
 ⑥ カヒミ・カーリー「elastic girl」
 ⑦ フィッシュマンズミックス

 ① いきなりブライアン・ウイルソン? と思うかもしれないが、「自分が作ったものではない音楽への愛情が根幹にある音楽」が渋谷系なのである。この曲の次にかけるのが、フリッパーズ・ギター「ドルフィンソング」。フリッパーズが「ゴッド・オンリー・ノウズ」のイントロを引用しているので、この順番にした。
「ゴッド・オンリー・ノウズ」は、ビーチ・ボーイズの名盤「ペットサウンズ」に入っている曲だが、ここでは、ブライアン・ウイルソンの「ペットサウンズライブ」という2002年、ロンドンのロイヤル・フェスティバル・ホールで行われたライブアルバムから。

② ③フリッパーズ・ギター「ドルフィンソング」「星の彼方へ」
 2曲とも、1991年、3rdアルバム『DOCTOR HEAD'S WORLD TOWER -ヘッド博士の世界塔-』から。

④ 「ザ・ベスト・オブ・トラットリア・イヤーズ」から。
 ブリッジは、サウンドはもちろん、タイトルがおしゃれ。60年代ポップスのフレバーがたっぷり。Windy Afternoon、Paper Bikini Yaya、Salt Water Taffeeなど、たまらない。

⑤ 「STRAWBERRIES AND CREAM」から。この曲だけ1900年代ではなく、2009年発売のアルバムから。カジヒデキさんは、先ほどのブリッジのメンバー。いつだったか、新木場STUDIO COASTで行われた、コーネリアスのライブにいったとき、ライブ会場にいた。握手してもらったことがある。奥さんのSchokoさんもいっしょだった。2009年の音だが、ぜんぜん変わらない。変わるコーネリアス。現在も、さほど変わらない小沢健二。そしてまったく変わらないカジヒデキ、という気がする。

⑥ カヒミ・カーリー「elastic girl」
 1995年の「My First Karie」から。カヒミ・カーリーもライブにいったことがある。ライブ中、ひっきりなしに煙草を吸っていて、客席から「からだによくないよ」と声が出ていた記憶がある。耳元でささやくような甘く優しいウィスパー・ヴォイス。

⑦ フィッシュマンズミックス 
 これは、フィッシュマンズで私の好きな曲をCDJで、どんどんつなげてミックスしたもの。フィッシュマンズは「空中キャンプ」から人気が出て、当時は渋谷系のCD紹介に入っていたと思うのだが、現在ネットで調べたところでは、あまり渋谷系のカテゴリーに入っていないようだ。「空中キャンプ」のあと、「LONG SEASON」「『宇宙 日本 世田谷』とテクノ系が喜ぶ音に移行していったからだろうか。当時の「エレキング」で、めちゃめちゃ絶賛されていたのを覚えている。

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 90年代。私的には、この時代が一番渋谷のレコード屋に通っていた。一週間に数回、足を運んでいた。もっとも目的は、渋谷系のCDを探すためではなく、テクノのアナログ12インチレコードを買うためだったが。なぜ渋谷だったのか? テクノのアナログレコードは、渋谷がいちばん豊富に揃っていたからである。センター街を歩く人々の多くがアナログレコードの袋を下げていた。そういう時代だった。いまでは、その風景は見られないし、私もたまにしか渋谷にいかない。
 当時、渋谷HMVにも行ったが、そこで渋谷系のCDを買った記憶はない。フリッパーズ・ギターが好きで、フリッパーズ・ギター関連のCDを買っているうちに自然に渋谷系と呼ばれる音楽が揃っていった。
 フリッパーズ・ギターをどうして知ったのか、記憶にないが、「シティ・ロード」などの情報誌だったように思う。当時、鬼子母神近くにあった池袋タワーレコード(覚えているひとがいるだろうか?)に解散後のベスアルバム、「colour me pop」が出て、びっくりするくらい山積みされていたのを覚えている。

 最後に「ミュージックマガジン」2007年9月号が渋谷系の特集のインタヴューで、小西康陽さんがこんなことを言っている。
「なんか渋谷系って三日天下だったんだなって(笑)ただ、思想というか在り方としてはその後もずっと残っていってると思うんです」

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