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レポート | 傾聴を通じてひらかれる医療の関わりしろ

みなさん、こんにちは! いとちプロジェクトにインターン中、大学1年生の小林歩記ふきです。今日は皆さんに、私たちが取り組んできた「喫茶いとち」の取り組みについてご紹介します。

喫茶いとちは、昨年度もかしま病院内で実施された「院内喫茶」の取り組み。前回は、およそ1ヶ月間、もともと喫茶室として使われていた場所で実施しましたが、今回は場所を変えて、病院内で「待ち時間中」の患者さんへドリンクを振る舞う形式で実施しました。詳しくはこちらを↓

今回の実施期間は2024年5月の1か月間。毎週月曜日~金曜日の午前中に、診察やお会計、お薬の調剤などの待ち時間中の方々に、ちょっと一息ついてもらいたいということで実施しました。きっかけとなったのは、4月から院内調剤が始まったこと。病院初の取り組みだったため、オペレーションが慣れるまで時間がかかり、当初は60分弱待つこともあったようです。

病院には、薬を待つ人以外にも、診察やお会計などで長時間待っている人もいます。ただでさえ病気に対して不安な気持ちになっている患者さんやご家族がさらに長時間待たなければいけないという現状。マイナスな気持ちをより一層強めてしまうという懸念がありました。

そこで院内喫茶のアイディアが出てきました。昨年の11~12月にも実施していますし、イライラが溜まりやすい待ち時間に一服できる場所をつくることができれば、いとちとして、患者さんになにかしら貢献できるのではないかという話になり、実施につながりました。

だったら前にも使った喫茶室でやろう、というのが一番わかりやすいのですが、なんとその喫茶室が4月から「調剤室」になってしまったためこの部屋は使えません。そこで、待合スペースの一角に仮設的にカフェを設け、待ち時間中の方に飲み物を提供しようということになりました。

かわいいシールも貼り付けて雰囲気アップ↑

1時間近くの待ち時間でイライラしている人もいると思い、インスタントではなく本格的なドリップコーヒーにしました。また、コーヒー以外にも、アイスティー、レモンティー、麦茶、緑茶、水といったバラエティー豊かな種類を用意することにもなりました。

また、かしま病院を利用している方の多くが、この鹿島地区の住民です。地域の方々との接点を持つためにも積極的に話しかけようということになり、談話スペースとして簡易的な机と椅子をセット。さらに、いとちプロジェクトについても知ってもらいたい(あわよくば一緒に活動に参加してもらいたい)と考え、活動の様子を記した「いとち通信」も机の上に置いてみて、さあ、いとち喫茶、開店です!

診察室でなくても交わせる会話

始まる前は心配もありました。病院というのは基本的には不安定な心の状態でやってくるところ。ドリンクを受け取ってくれるのだろうか、私たちとおしゃべりまでしてもらえるだろうか。心配は尽きませんでした。

そんな心配を抱えたまま迎えた5月1日。私の心配とは裏腹に、列ができるほどの盛況ぶりでした。

来てくださった方に話を聞くと、「香ばしいにおいがして…」「待ち時間が長くて飽き飽きしちゃって…」「列ができていて気になっちゃって…」なんて理由を、皆さん話してくださいました。ほかにも「ドリップでわざわざコーヒーを淹れてくださるのですか?!」と驚かれている方も多々いましたし、「レモンティーが珍しいので飲んでみたい」といった声もあり、準備の成果が出たとうれしい気持ちになりました。

ハンドドリップで丁寧に淹れていきます

開店直後はあまりの盛況ぶりに会話があまりできませんでしたが、5月の後半になるにつれて客足が落ち着いてくると、一人ひとりとじっくりと会話ができるようになってきました。

私が意識していたのは、「カフェスタッフ」ではなく、「コーヒーを飲む人」となって自然なおしゃべりをすることでした。スタッフになってしまうとどうしても役割を強く意識してしまい、目の前の方と「スタッフ/客」という関係になってしまいますが、私は、たまたまお客として隣あった状態でお話ししたいと思っていました。

印象的だった、あるやりとりを紹介します。かしま病院に信頼できるかかりつけ医がおり、普段から診察を受けているものの、珍しい病気にかかっているため薬を手に入れるのに難しさがある、という方でした。たまたまコーヒーをお出ししたら、「いとちプロジェクトって何をやってるの?」と聞かれて、下のような会話が始まりました。

女性:「いとちプロジェクト」っていうのは、なにをやってるの?

私:「病院側から地域に出ていくことで、皆さんの生活背景やコミュニティを知ろうっていう活動なんです。病気と暮らしが深く関わっているかもしれないので、地域のことを知るのはとても大事だと考えて・・・」

女性:「それはありがたいね。私が普段飲んでる薬って珍しくてほとんどの薬局で取り扱ってないの。自分に合う薬局がなくて困ってるのよ」

私:「え~、そうなんですね。以前はどんな薬局だったんですか?」

女性:「前に行っていたところは、丁寧に薬の説明をしてくれたり、他の薬との飲み合わせについて注意を伝えてくれたのよ。私が心配なことも質問にちゃんと答えてくれたからよかったわ」

私:「話をしっかり聞いてくれる方が安心できますよね」

女性:「でも、今行っている薬局は、話す態度もさっぱりしてて、『薬の説明文を読んでください』って言われるだけ。読めば分かるけど、説明してくれた方が安心感があるのよね。薬局を変えるのも考えたんだけど、持病の薬を取り扱っているところもないし困っちゃうわ」

私:「他の薬局で安心できるところがあるといいですね」

女性:「そうなの!! 本当にねぇ」

一人ひとり、丁寧に声をかけさせていただきました

女性はかしま病院で診察を受けているものの、珍しい薬を服用しているため鹿島地区ではない地域の薬局に通っているそうです。「そこにしか薬がないから」という理由だそうですが、対応には満足いっていないようでした。

そのやりとりのあとは、薬の話だけでなく、出身地や鹿島のことなどを笑顔で話してくれました。だいたい15分ほどお話ししたでしょうか、少しすっきりしたような顔で「ありがとうございました! またね」という言葉をかけてくださったのが印象に残っています。

やりとりを読み返すと改めて強く感じることですが、この方が無意識に求めていたのは「安心して自分の話を聴いてもらえる場所」なのではないかと思います。もちろん、医学的な側面から薬についての説明をしてもらいたいという思いはあったでしょう。一方で、この方の『薬についての説明を声に出して読んでもらいたい』『心配事を聞いてもらいたい』という言葉の背景には、安心したいという心理的なものがあったのではないかと思います。

この方以外にも、日々抱えている楽しい話、もやもやした思い、そうした話を長時間話してくださる方がいました。話すことで元気が出ている人、話すことで少しずつ心の整理がついている人がおり、そのたびに “傾聴” の力を感じました。

私と同じインターン生の高橋さんも傾聴

喫茶いとちのコーヒーだけではない価値

病院にくる方の多くが、「自分の話を聞いてほしい」という思いを持っている。そんなことを表すデータを二つほど紹介します。

まず一つ目は、株式会社メディアコンテンツファクトリーが、全国の20代以上の成人男女を対象に行った医療機関受診に関する意識調査です。ここで紹介する調査は「医療機関を変更するきっかけ」についてアンケートをとっています。

複数ある回答のうち、「医師が自分の話を十分に聞いてくれない」「医師の対応・態度が不快だった」と答えた人の割合は、じつに40%にも上ります。患者自身の話をしっかり聞いてくれて、悩みに寄り添ってくれる姿勢が求められている、ということです。

一方、病院を変えた理由として「待ち時間が長い」をあげている人も34%おり、「待ち時間」の対応も必要だということがわかります。ただ、この「待ち時間」も、「なぜこんなに待っているのか理由がわからない」からこそイライラしてしまうのかもしれないと感じました。「時間がかかる根拠」を丁寧に説明したり、待ち時間にべつの価値を提供する時間(飲み物や傾聴など)があったりすれば、待ち時間のストレス軽減につながると感じます。

二つ目のデータが、内閣府が行った「60歳以上の高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」です。この調査では、60歳以上の高齢者に「家族以外に相談あるいは世話をしあう親しい友人がいるか」という質問に答えてもらっています。

結果は、「友人がいない」と答えた人が31.3%。3人に1人の割合です。これは、アメリカの14.2%、ドイツの13.5%、スウェーデンの9.9%と比較してもかなり多い割合です。日本の高齢者の3人に1人は、家族やケアマネージャーしか話し相手がいない、もしくは、一人も話し相手がいないのです。

飲み物があったことで、会話のきっかけをつくりやすくなりました

傾聴という取り組みの重要性

たまたま待合室で出会った高齢者が、待ち時間などにおしゃべりをしている姿をよくみますが、別の側面から見ると、日常的にやってくる病院が、高齢者の方々の「居場所」となっているわけです。居場所を求めてきているということは、やはり、一人暮らしなどで不安やストレスを抱えている可能性があるし、それを1人で抱え込んでしまっているのかもしれません。

先ほどの調査からも、高齢者が「自分の不安な気持ちを話し、医師にその想いを受け止めてほしい」という気持ちを抱えていること、そして、その一方で話し相手がおらず「孤独」になっている現状を紹介しましたが、もしかすると、自分の話を傾聴し共感してくれる相手を「医師」に求めて病院に来ていたのかもしれません。

一人ひとりと向き合い、傾聴しながらコーヒーをお届けしました

非医療系人材が支える健康とは?

そうしたことを考えたうえで、もう一度、自分が参加した「喫茶いとち」を振り返ると、喫茶いとちというのは、高齢者の方々の話を受け止める傾聴の場だったように思います。それを、積極的に、医療系ではない人たちが組み立てていったというのがポイントだと思います。

喫茶いとちに関心を持つことができるように本格的なドリップコーヒーを用意したこと。会話がしやすい環境のために椅子と机を用意したこともそうですし、スタッフ自身も利用者と同じ立場で会話をするために椅子に座っていたこと、自分なりに相手の話に共感したり相手のことを褒めてみたり、話しやすい雰囲気を作ろうとしたこと、相手の話にはできる限り、耳を傾けようとしたこと。

全部、いとちのメンバーが積極的にこちらから仕掛けたことです。たしかに最初のきっかけは、「院内調剤の待ち時間対策」の取り組みでしたが、長時間にわたって自分の抱えている思いを吐き出していける傾聴の場に、メンバーが意識して仕上げていったということが言えると思います。

ここで重要なことは、そうした場を、非医療の部署である事務系・広報スタッフたちがつくったということだと感じます。健康という幸せの土台を作るにあたって、すべててを“医療職”の人が担う必要はなく、今回の喫茶いとちのように医療職でない人にも担える部分があるということです。

医学生でもない法学部の学生である私にも、耳を傾けることはできましたし、診察後、笑顔になって帰っていただくこともできました。非医療系の人材だとしても、だれかの健康を私たちもどこかで支えることができるということだと思いますし、そうした医療系ではない人たちの医療的な取り組みを地域の方々と耕していくということも、いとちのミッションなのかもしれません。

これからも、私のインターン期間は続くので、いろいろなことにチャレンジできればと思います。

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