【TIFF日記】「私たちの居場所」
2019年の東京国際映画祭(TIFF)で、自分にとっては2本目にして最大の山場。『私たちの居場所』という邦題よりも、BNK48のファンであれば『Where We Belong』という英語タイトルのほうがなじみ深いはず。
AKB48の姉妹グループで、タイのバンコクを拠点に活動しているBNK48が、自ら映画制作に乗り出した「BNK48 FILMS」の第1作。2019年1月に開催されたBNK48の選抜総選挙で2位のジェニスと、3位のミュージックがダブル主演。ちなみに総選挙1位のチャープランは、出演映画『ホームステイ ボクと僕の100日間』が、ちょうど日本で公開中だったり。
しかも10月29日の上映回は、上映後のQ&Aにジェニスも登壇するとあって、チケットは発売後15分で完売する人気ぶり。……というか、キャパがやけに少ないと思ったら、MX4Dの劇場じゃねーか! 主催者側が明らかに劇場の割り当てをミスってる気がするけど、そんな争奪戦を勝ち抜いて、自分もなんとか観ることができました。
そもそも、日本から出たこともない自分がBNK48にハマったのは、2018年のTIFFでドキュメンタリー映画『BNK48: Girls Don't Cry』を観たからで。それだけにTIFFでのBNK48関連の映画上映は、気合が入るというもの。
さて、映画本編について。物語の構図自体はシンプルだ。高校生のスー(ジェニス)はタイの田舎町での生活から抜け出すために、フィンランドへの留学を計画している。友達のベル(ミュージック)は、そんなスーに協力する反面、彼女がいなくなることに寂しさを抱えていて……。映画はこの2人の微妙な心の触れ合いと、家族やクラスメートとの関係を、じっくりと描いている。スーやベルの表情の変化を、アップの長回しで丹念に追っているのが印象的だ。だがそこに、半ば呆けて過去の恋愛を夢想しているベルの祖母や、すでに亡くなっているスーの母の挿話が加わることで、映画はまた別の次元へと広がっている。
予告編を見た段階で、ただのアイドル映画だとは思っていなかったけれど、それでも青春映画の範疇には収まるんじゃないかと思っていた。もちろんアイドル映画の要素もあるし、青春映画と呼ぶのに何の問題もないのだけど、実際の映画はもっと大きな何か、家族や社会をも超えた、もっと大きな観念にまで至っていて。それはおそらくコンデート・ジャトゥランラッサミー監督の作風なのだろう。とにかく、決してたやすく“消費”できるような類の作品ではないので、正直、今でもこの映画をどう受け止めたらいいのか、戸惑っている自分がいる。
以下、映画の内容にやや深く言及する形になるので、ネタバレを気にする方はご注意を。
映画の後半に、霊媒師の登場するシーンがある。これが物語にとっても大きな転機となる場面で、霊媒師役の俳優さんの演技も含めて、映画の中でも特に強く印象に残るパートだ。
そしてこの場面が存在することで、映画のタイトルである「私たちの居場所 Where We Belong」という意味もまた、大きく変わってくる。この言葉は当初、文字通り自分の居場所を探しているスーとベルに対するものだと思っていたし、それ自体は間違っていない。だが同時にこの言葉は観念的、あるいは宗教的な意味での「我々が存在する場所」「我々の魂の居場所」といった概念まで含んだ、スケールの大きな言葉だったのだ。
そういった大きな広がりを持つこの映画の全体像を、正直言って自分はまだ受け止めきれていない。なので二度、三度と繰り返し観て、より理解を深めたいと切実に思っている。それだけの価値がある作品なのは、間違いないのだから。それだけにぜひ日本でも、一般公開されることを期待したいのだが……。
ここからは、映画のディテールについて、もう少し。個々の場面はどれもエモーショナルで素晴らしい。舞台となっているタイの地方都市が海と山と古い建物が並ぶ美しい場所で、地方都市ならではの生活感が、登場人物たちと見事に溶け合っている。
なかでも先に記したように、アップの長回しで映し出される主演2人の表情に引き込まれる。スーを演じるジェニスのいつも泣いているような、困っているような曖昧な表情と、ベルを演じるミュージックのいつも怒っているように見える感情豊かな表情が好対称で、ふだんのアイドル活動とは異なる魅力を放っている。
さらに、地方都市あるあるのダサファッションが、この2人に絶妙にハマっているのだ。ジェニスのダサトレーナーも味わい深いが、ミュージックのジャージ姿が強烈なハマり具合でスゴイ(笑)。ヤンキールックは世界共通なんだろうか。
また本作には、ジェニスとミュージック以外にも複数のBNK48メンバーが出演している。スーとベルの友人たちが結成しているガールズバンド「ストラトスフィア」のメンバーは分かりやすいと思うが、それ以外にもスーとケンカしている友人として、オーンが登場。女優の経験もあるだけに、安定感のある演技を見せている。個人的には、ネットカフェの場面で出オチ的に登場するプーぺがツボだった。ああいうキャラはホントに似合うよね(笑)。
それにしても、『BNK48: Girls Don't Cry』にしても今回の『私たちの居場所』にしても、BNK48が全面的に関わる映画はクオリティファーストというか、じつに志が高い。それ自体は敬意を表するものの、ポピュラリティの面ではちょっと心配になってくる。もっとお気楽なラブコメとかでも別に構わないんだけど、そういうのは地元のTVとかでやっていくのだろうか?
上映後のQ&Aに関しては、BNK48のファンサイト「BNK TYO」さんが、素晴らしいレポート記事をアップしてくれているので、そちらをぜひご参照を。
東京で映画祭に出た翌日には、バンコクで新曲発表のステージに立つジェニスは大変だなぁ。
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