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西暦2084年のネオパリは『ライフ イズ ストレンジ』の壮大な前奏曲【たぶん自分しか推してないゲーム】

今回は公開が遅くなってしまったのと、ゲームの知名度向上の意味も込めて、最後まで全文を読めるようにしています(システム上、有料に設定されていますが)。

 『ライフ イズ ストレンジ』といえば、SF青春アドベンチャーゲームの傑作だけに、日本でも推す人は大勢いるはずだ。かく言うオレも、もちろんその1人。

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▲パッケージ写真は毎度おなじみ駿河屋さんより転載。

 この『ライフ イズ ストレンジ』は、フランスのディベロッパーDONTNOD ENTERTAINMENTの第2作にあたる。では、DONTNODのデビューを飾った第1作は?

 この質問にすぐ答えられるのは、ふだんから海外ゲームの動向をこまめにチェックしている人だけだろう。なぜならDONTNODのデビュー作は、日本で発売されていないのだから。世界的なパブリッシングを、日本のカプコンが請け負っていたにも関わらず。

 今回のテーマ【たぶん自分しか推してないゲーム】というよりは、そもそも日本で推せる人間が少ないゲームとして、自分は2013年に発売されたDONTNODのデビュー作『リメンバー・ミー(Remember Me)』を取り上げたい。……もちろん、ピクサーのCG映画とは無関係なので、念のため。

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▲日本版がリリースされなかっただけでなく、海外版も秋葉原の店頭ではなかなか見かけなかった覚えが(360版だけ?)。ちなみに写真の私物は、ebayの代行輸入で入手したもの。

未来のメモリーハンターは、ザコを殴って体力回復するのがお仕事!?

 『リメンバー・ミー』の舞台は、西暦2084年のネオパリだ。この時代では人間の記憶をデータ化することに成功しており、人々は首の後ろにある端子から巨大企業のサーバーに接続して、自分や他人の記憶を売買することができる。

 主人公のニリン(Nilin)は超一流のメモリーハンターとして、他人の記憶を自由に奪い、さらにリミックス(改変)する能力を持っている。だが、この社会で第一級の犯罪者である彼女は巨大企業に捕らえられて、自身の記憶をすべて奪われてしまった。ニリンはこの管理社会に反逆する地下組織のリーダー、エッジと連絡を取りつつ、社会を変えるため、そして自分が何者であるかを思い出すために、巨大企業を相手に戦いを挑むことになる……。

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▲主人公のニリン。画像はSteamのゲームページより転載。

 以上のような設定の、アクションアドベンチャーゲームである本作。じゃあ実際のゲームはというと……これがなんというか、建物の壁を登って天井を駆け抜けてジャンプするという、まるで『アサシン クリード』みたいなパルクール移動と、警備兵やミュータントを相手にした格闘バトルが、その大半を占めている。

 本作の格闘バトルは、パンチとキックの2種類を連続して繰り出すコンボ攻撃が中心となっている。そしてユニークなのが、体力回復や必殺技(S-Pressen)のゲージ回復がコンボの各攻撃に割り振られており、プレイヤーは「コンボ・ラボ」と呼ばれるメニューでそれを自由に組み合わせて、自分だけのコンボを作り出せるという点だ。

▲コンボ・ラボによる編集システムを紹介した動画。当時のTGSに合わせて公開された動画だけど、会場には出展されてなかったような気が……。

 さて、このコンボ編集システムを使った戦闘が、実際にどうなるのかを解説してみよう。最初のうちは普通に敵を殴り倒せばいいのだが、ゲームが進むにつれて特殊な敵が登場するようになる。ふだんは姿を消してこちらから攻撃できないが、敵全員をスタンさせる必殺技を繰り出すと動きを止めてダメージが与えられるヤツとか、全身にバリヤーのようなものを身につけていて、殴るたびにニリン自身にもダメージが入るヤツとかだ。

 そこでプレイヤーとしては、コンボ編集で簡単なコンボ(パンチ連打とか)にその時必要な要素を集めて、ザコ相手に延々とそのコンボを繰り出すことになる。体力を温存しつつ必殺技のゲージが溜まったら、それを発動させて強敵やボスを一気に攻撃。それでも強敵やボスが倒れなかったら、またザコ相手にコンボを延々と繰り出し続けてゲージを溜めるという……うーむ。

 敵の種類に応じて必殺技を使い分けたり、倒す順番を考えたりと、この戦闘システムの出来が悪いわけでは決してないのだけど、戦闘中の体力回復手段がコンボでザコ敵を殴り倒すしかないこともあいまって、どうしても作業的な手順になってしまいがち。そしてなにより最大の問題が、この後に説明する「記憶」をテーマにしたゲームのストーリーと、ゲームプレイの大半を占めている戦闘や移動のシステムが、すっかり乖離してしまっている点だ。これがもう少し統一感のある形でまとまっていれば、ゲームプレイ全体を通して楽しめただけに、ここは惜しいところだ。

他人の記憶をVTRのように巻き戻して改変する「リミックス」システム

 このように移動と戦闘はやや微妙だが、サイバーパンクなテイストで描き出された未来社会や、そこで繰り広げられるニリンの戦いと葛藤を描いたストーリーは秀逸だ。特に「リメンバー・ミー(私を思い出して)」というタイトルの通り、ニリンの過去が次第に明らかになっていく、後半から終盤の盛り上がりは本当に素晴らしい

 ややネタバレだが、未来社会の根幹を占める謎がニリン個人へと収斂していく展開は、壮大な設定のわりにスケールが狭い気もするが、これが「記憶」にまつわる物語である以上は必然的な流れだし、その狭さゆえに物語が感動的になっているのも間違いない。

 そして「記憶」がテーマになっている本作では、記憶そのものに関するゲームシステムも用意されている。

 前述したようにニリンは他人の記憶を奪って、その人物の過去の行動を「追憶」という形で見て、謎解きに利用できる。記憶を主題にしたゲームらしいシステムだとはいえ、同様のシステムは『バットマン:アーカム』シリーズなどにもあっただけに、それほど新鮮味があるわけではない。

 だがもうひとつのシステムである記憶の「リミックス(改変)」は本当にユニークだ。ニリンは対象人物の記憶の一部分を、まるでVTRのように自由に巻き戻したりスローにしたりしながら見ることができる。その中で記憶の一部に「グリッチ」と呼ばれるノイズの走る部分を発見したら、そこが改変可能なポイントになる。このポイントを改変することで、その記憶の結末がまったく別の展開に書き換わってしまうのだ。

▲記憶をリミックス(改変)するシステムを紹介した動画。ちなみに、この動画は開発途中で公開されたものなので、記憶の改変自体は製品版とほぼ同じなんだけど、移動&探索のシステムがかなり変わってて、プレイ後に見たら驚いた。当初はわりと『アサクリ』そのまんまのゲームシステムを計画してたんだなぁ。

 たとえば、別れた妻に向かって酒ビンを投げつけた男の記憶に介入して、あらかじめ酒ビンを床に落としておくと、男は酒ビンを投げる代わりに銃を手に取って、別れた妻に突きつける。この時、銃の安全装置がかかったままだと妻を撃たないが、記憶を改変して安全装置を外しておくと、妻を撃ち殺してしまうというわけだ。

 これはあくまで「記憶の改変」であって、現実の妻が銃殺されてしまったわけではない。だが男は自分が妻を射殺したというニセの記憶にさいなまれて、ついには自殺してしまう。他人の記憶を支配することで、現実そのものを変えてしまうことの恐怖が、本作のテーマになっているわけだ。

 この記憶のリミックスでは、いくつかの改変の組み合わせによって予想外の展開が発生(実績が解除されたりもする)するのも面白いところ。たとえば上記の男の例だと、銃の安全装置を解除するのが早すぎると、妻を殺す前に銃が暴発して男自身が死んでしまったりする。このあたりのフラグの立て方による展開のバリエーションも、じつに面白い。 

『リメンバー・ミー』の“失敗”が新たな傑作を生んだ

 上で紹介した記憶のリミックスは、本作の白眉と言えるゲームシステムなのだが、いかんせん、その数が少なすぎる。ぶっちゃけると、ゲーム中でリミックス可能な記憶の数は、全部で■.5個しかない(0.5がどういう意味なのかは、実際のゲームで確かめてほしい)。1つのシチュエーションに対してフラグの組み合わせによるバリエーションが増えると、用意すべき展開も膨大になるため、あまり数が作れなかったというのが本音だろう。

 個人的な意見を言わせてもらえば、他に比べてそれほど特徴的ではない移動や戦闘のパートは思いきってリストラして、記憶操作による展開の変化だけにリソースを集中させた、アドベンチャーゲームにしたほうがよかったのではないか。時間を巻き戻して改変することで、複数の人物の運命が変わるといった具合に……。

 と、ここまで書けばもうお気づきだろう。今言ったような反省に基づいて制作された、DONTNODの次回作こそが『ライフ イズ ストレンジ』なのだ。実際、『ライフ イズ ストレンジ』を手がけた2人のディレクターは、双方とも『リメンバー・ミー』の開発にも深く携わっている。ちなみにDONTNOD自体、『リメンバー・ミー』の不発で資金難に陥り、一時は倒産寸前だったそうだが、『ライフ イズ ストレンジ』が予想外のヒットとなったことで持ち直したのだという。

 ここまでの流れだと、まるで『ライフ イズ ストレンジ』を生み出したことだけが、『リメンバー・ミー』の存在意義のように受け取られるかもしれないが、決してそうではない。上の文章で移動や戦闘のシステムを批判しているが、それは目玉である記憶の「リミックス」に比べれば没個性という意味であって、ゲームトータルとしての出来は平均以上だと思う。

 繰り返しになるが、『リメンバー・ミー』のストーリーは非常に魅力的だ。衒学的なセリフ回しや記憶世界の描写など、個人的には『アサシン クリード』の現代編が目指そうとして結局は上手くいかなかったSFストーリーを、綺麗にまとめたような印象を受けた(これを褒め言葉だと同意してくれる人も少なそうだが……)。とはいえ、本作の英語の難易度はわりと高め(オレも物語を完全に理解したとは言い難い)なので、せめてテキストだけでも日本語化されて発売されていれば、もっと広く愛されるタイトルになったと思うだけに、そこは残念だ。

 『ライフ イズ ストレンジ 2』の国内での発売日も決まって、DONTNODのゲームもようやく日本で受け入れられたように見える。だがしかし、第3作の吸血鬼RPG『vampyr』相変わらず日本未発売だ(Steam版には有志による日本語訳があるようだが)。

 さらに、海外ではバンダイナムコがパブリッシャーとなっている2020年発売予定の最新作『Twin Mirror』は、国内でもちゃんと発売されるのだろうか(と、書こうと思って検索したら弊社では発売しませんのお知らせが出てきて腰が砕けた)。

 オレみたいな日本のDONTNODファンがやきもきする状況は、どうやらまだしばらく続きそうだ……。


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