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【TIFF日記】「ノンフィクションW 大林宣彦&恭子の成城物語 完全版」

2019年の東京国際映画祭(TIFF)6本目。今年観る予定の中で唯一の邦画は、大林宣彦監督と恭子夫人のドキュメンタリー。本当は、同日に上映された大林監督の最新作『海辺の映画館 キネマの玉手箱』も観たかったんだけど、チケット争奪戦にあっさり敗北しちゃったので、仕方ない。

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 本作はもともと、WOWOWオリジナルの60分番組として、2019年8月に放送されたもの。自分はこの番組を見るために、アナログ時代にいったん解約して以来、10数年ぶりにWOWOWと再契約しました。

 そうしたらTIFFで、83分に再編集した「完全版」を上映するというじゃないですか! チケット発売日の争奪戦になんとか打ち勝つことができたと思ったら、11月のWOWOWでこの「完全版」も放送するとのこと。……いやまぁ、これも本作の好評ゆえ、と考えることにしましょうか。

 自分がこのドキュメンタリーにこだわるのは、もちろん大林映画の大ファンであることが1つ。なにしろリアル中二の時に『転校生』が公開された、尾道三部作直撃世代なもので。ただ本作に関してはもうひとつ、自分にとって重要なフックがあって。それが本作の撮影と演出を務めている高橋栄樹監督です。

 高橋栄樹監督はミュージックビデオの世界で長らく活躍されている方で、特にこの10年ほどは、AKB48のMVで次々と傑作を発表されています。じつは自分は、この1年ほどの間に高橋監督のMVにすっかりハマってしまい、それがひいてはタイのBNK48にハマる遠因にもなっていたり。

 ちなみに高橋監督は尾道を舞台にして、乃木坂46の生田絵梨花さんが主役の個人PVを監督しているのですが、これがまたオレみたいな叩き上げの大林映画ファンから見ても、トリビュートとして文句なしの完成度で。そんな高橋監督によるドキュメンタリーとなれば、そりゃ期待が高まるじゃないですか。

 実際のところ、本作は高橋監督だけでなく、犬童一心監督が企画・構成を手がけており、上映後のQ&Aによると、大林恭子さんを採り上げようと提案したのは犬童監督とのこと。犬童監督は近年の作品の印象が強かったため、8ミリ時代から親交のある大林チルドレンだったというのを、書籍「フィルムメーカーズ」の対談で知った時は意外でした。

 さて、上映会場のTOHOシネマズ六本木に到着すると、会場付近に早くも高橋栄樹監督の姿が。「Q&Aは上映後だよね?」と思っていたら、犬童&高橋両監督は、僕ら観客と一緒に客席で自作を観ておりました。こういった光景は映画祭ならではだけに、なんだか嬉しかったです。

 犬童監督によると、近年の大林ドキュメンタリーにありがちな「反戦」「厭戦」の視点からまとめるのを避けて、恭子夫人との関係を中心に映画人生を追ったとのこと。その結果、商業映画以前の大林監督を知らない人にも分かりやすい一方で、コアなファンにはおなじみの話になっちゃったかな、という気も。

 とはいえ、お2人の若かりし頃の姿と、結婚から60年経ってもラブラブな現在の様子を、同時に見られるのは新鮮で。なかでも、プロポーズの時の様子を語る監督と、その後ろでひたすら照れている恭子さんを、ワンフレームに収めたカットは印象的でした。

 そして本作でいちばん胸に迫るのは、新作の編集中に体調を崩して倒れた大林監督が、ベッドの上で「戦争中は何でも命がけだったんだから、自分の好きなことをやれるのは幸せ」と語るカットで。僕らの記憶にあるダンディーな姿とは異なり、抗ガン治療で一気に老け込んだ大林監督が、それでもなお全力で映画を作り続けている執念に、ストレートに胸を打たれます。

 ところがQ&Aによると、この場面には裏話があり。目の前で倒れた大林監督を介抱していて、とてもカメラを回すどころではなかった時に、なんと大林監督自身が「カメラを回していいよ」と指示したのだとか(確かに映像には「回していいって」と恭子さんが声をかけるところが映っている)。倒れてもなお、他人の映画の撮れ高を気にするその姿勢には、本気でシビれました。

 本作の中でも描かれているように、恭子さんは大林監督の8ミリ映画『絵の中の少女』に出演している、言わば元祖大林ヒロインで。そんな恭子さんがプロデューサーとして監督を明るく支える姿を記録したこのドキュメンタリーは、大林ファンにとっても深く思い入れできる、愛らしい作品だと思います。


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