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Netflixのインタラクティブ動画は「ゲーム」なのか?

 ふだんのプロの仕事ではなかなか書く機会のないテーマについて書けるのが、このマガジンのメリットだと思っていて。今回はまさに、そういった内容だと思います。

 以前、仕事の取材でゲームクリエイターさんも話題にしていた、Netflixのインタラクティブ作品について、ちょっと真面目に考えてみることにしましょう。……いやまぁ、ネトフリの月額料金が値上げになるので、この機会に多少なりとも元を取っておこうというのも、このテーマを思いついた理由のひとつですけどw ただ、アドベンチャーゲームの未来を考える時に、こうしたインタラクティブ動画も一度、ゲーマー目線でキチンと検証しておきたいと思ったのです。

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ドラマやアニメのストーリー展開を、視聴者が自分で選択できる!

 インタラクティブ作品は、Netflixが2017年から提供しているサービスで、ドラマやアニメの途中で選択肢が表示されて、直後のストーリー展開を視聴者が自分で選択できるというもの。物語が分岐するという意味ではアドベンチャーゲームの一種とも言えますが、最大の特徴はすべて動画で構成されている点。一部の作品では選択肢を選ぶ際でも動画が止まることなく、シームレスに展開が移行して、まさに「分岐する映画」という感覚で楽しむことができます。

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▲Netflixのインタラクティブ作品は、基本的なUIが共通していて、ゲージがなくなるまでの間に、画面下部に表示される選択肢をタップする形式です(ゲージがなくなると自動的に決定)。選択肢は2択が基本ですが、最近の作品では3択や4択も登場するなど、少しずつ進化しています。

 Netflixのインタラクティブ作品でまず驚くのは、UIの操作感が非常に優れている点です。展開が変化するということは、当然ながらどこかで動画をつなぎ合わせているのでしょうが、実際に視聴していてもそうした違和感を覚えることはありません。比べるのもアレですが、その昔発売されていた、DVDのチャプター機能を使ったストーリー分岐動画などとは、快適さが段違いです。

 この快適さの理由は、オンデマンドのストリーミング配信というシステム自体がそうした処理に強いのに加えて、インタラクティブ操作のUIがNetflixの視聴アプリと一体化している点にもありそうです。インタラクティブ作品の開始当初は、視聴できるのはiOSなど一部のアプリに限られていたようですが、2021年現在はAndroidやパソコン、PS4など大半の再生アプリで対応しているようなので、Netflixの会員ならほぼ誰でも楽しめるはずです。

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▲バッドエンドを迎えた場合、直前の選択肢まで巻き戻されて、別の選択肢を選び直すことになります。また、ここまでの選択を一覧できるバックログ機能もあり、過去にさかのぼって自発的に選択をやり直すことも可能です。

今はあくまでドラマやアニメの「特別版」だが、ゲームとしての可能性も十分アリ

 Netflixのインタラクティブ作品は、日本では2021年2月現在12作品が配信されています。当初はキッズ向けのコンテンツとして開始された経緯もあり、その内訳はアニメ8作品、実写4作品となっています。これらの作品は多少の例外があるものの、基本的にはもともとNetflixでシリーズ展開されているアニメやドラマの「スペシャル版」として制作されています。

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▲Netflixのインタラクティブ作品は、サムネイルにこの火花のマークが表示されています。

 いきなりですが、無料記事部分で結論めいたことを先に書いておきましょう。実際にいくつかの作品を「プレイ」してみた感想としては、Netflixは今のところ、インタラクティブ作品をあくまで既存のアニメやドラマの特別版として、ファンに新たな楽しみを提供したり、シリーズに新たな視聴者を獲得するきっかけとなるようなポジションに、半ば意識的に留めようとしているのでは、と感じました。動画配信の枠をあえて越えないようにして、それ以上の複雑さを避けているような印象を、なんとなく受けたのです。

 ただし、上にも書いたようにNetflixのこのインタラクティブ動画のシステムは非常に優秀で、シームレスな分岐だけでなく、フラグ管理的なことも可能になっており、よりゲーム性の強いフロー構造にも十分に対応できるはずです。そういった意味では、ゲームクリエイターが参加してその個性を発揮した作品を手がけたり、既存のアドベンチャーゲームのNetflix対応版を制作したりということも、(映像部分をどう作るかはともかく)決して難しいことではないと思うのです。もしNetflixにその気があるのなら……ですが。

 現時点でのNetflixインタラクティブ作品を体験してみたいという人には、個人的にはアニメ作品のいずれか、もしくは『You vs Wild』の(映画版『猛獣を追え』ではなく)シリーズ版をオススメします。

 実写長編の『ブラック・ミラー: バンダースナッチ』『アンブレイカブル・キミー・シュミット』はいずれも非常に興味深いもので、特に『キミー・シュミット』は現状のNetflixインタラクティブ作品ではその魅力をいちばん上手く活用していると思うのですが、その内容を余すところなく楽しむにはどちらも、やや敷居の高いところがありまして……。そのあたりの解説は、下記の有料部分にまとめていますので、興味のある方はぜひご覧ください。

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