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30代未経験デザイナー転職活動奮闘記

30代の友人から「やったことない仕事に挑戦しようと思うんだ」と聞いたら、勇気づけられる同世代はそこそこに多いように思う。

かく言う私もそのうちの一人で、はじめてのことに挑戦する人の背中は格好良いし、さらにそこに少し歳を重ねていたりするとどう転んでもドラマチックになりそうな予感がしてしまう。

おそらくどの業界でもそうだが、Web制作界隈においても『未経験からの転職』はよく議題にあがる。特に30代以降の未経験者の転職である。
”遅咲きのデビュー”は身近な人間からは応援されがちだが、転職市場ではそうもいかない。実務未経験者の就職というのは企業側にとってはリスキーで、求職者側にとってはハードなのだ。先述した「どう転んでもドラマチックになりそうな予感」は、紆余曲折の予兆にほかならない。

それでも32歳の5月からせっせとWebデザインを学んできた私はいよいよデザイナーに転職してやる!と決意し、1年後、33歳の夏に『30代未経験の転職活動』をスタートさせたのである。

本記事にはその活動内容と、そこから得た教訓を記す。

丸裸で火山口に突進していくような戦法だったので、おそらく、いや絶対誰の役にも立たないが、私自身の努力を公開することで、今、未経験転職活動でつらい思いをしている方の励みになったり、「勇気をもらえた」「こんなに頑張っていてえらい」等の賞賛を得ることを目的としている。

未経験求人はとんでもなく少ない

私の夫は転勤族で、いつこの土地を離れるかわからないし、保育園に預けている息子の成長もしっかり見ておきたい、という理由で、もともと私は時短勤務のパートか派遣で仕事を探していた。と、同時に「パートか派遣だったら正社員より転職しやすいかも」と甘く見積もっていた部分もそれなりにあった。

しかし、活動を開始してみると私の認識は大きくずれていることに気がついた。

私が体験した求人を見てみよう。
『未経験可!しっかり先輩がサポートします!』と明るく書かれた求人には「サポート体制がないので、実務経験がないと応募不可」と返され、『実務経験が少しでもあればOK』というものは「"実務経験=制作会社での実務経験"であって、"個人で受けた仕事"は含まれないんですよ」とエントリー段階で断られた。いずれも派遣雇用での求人の話だ。

パートで探してみても「未経験可」で絞った途端、検索結果画面は水を打ったように静まりかえり、そこに「時短」を追加するとほとんど白紙のようなページが登場するようになる。

業界全体が「未経験者」、もっと言えば「時短勤務などの条件をどんどん上乗せするような未経験求職者」はお断りなのである。

私がデザインを勉強する中で、Twitterやコミュニティで出会ってきた人々はみな努力の塊のような人たちだった。乳幼児を抱えながらイヤホンでデザイン動画を視聴し、夜子どもを寝かしつけてから静かにパソコンを動かし、隙間時間を見つけては課題のレビューを受けている人たち。そんな人たちを”未経験”というだけで面接すら行かせてもらえず、切り捨てる場面にこの2カ月間の転職活動中に何度も出くわした。

SNSをのぞいても、いわゆる”業界に長く携わる辛口な先輩の皆々様”が「未経験は厳しい」「30代から挑戦なんて相当別のスキルがないと無理」「勉強と仕事は違う」とそこかしこでつぶやいていた。

私はその言葉を見るたびに「絶対に成功してやる」と何度も心に誓った。
努力をした人が報われる社会であってほしい、と心から思った。
とにかく熱意と怒りだけで活動していくしかなかったのが、正直なところかもしれない。

あまりに受からなさすぎて、迷走する

見つけ出した数少ない未経験可の求人にいくつか書類を送付しても、通過連絡はとんと来ず、私は途方に暮れた。ポートフォリオは転職エージェントの方に添削してもらったものだから、ある程度の水準はクリアしていると考えられる。そうなると悪いのは年齢か?条件面か?
何通も連続で不採用通知を受ける日々が連続すると、もう何が悪くて何をしたら良いのかわからなくなってきた。
年齢だったらどうしようもないし、条件面も最低限譲れないものだけ入れているし…

もしかして、私は転職できないのではないか?
不安の波がじわりじわりと脳を侵食した。

余談だが、私は当時派遣の事務をしながら転職活動をしていた。「私はデザインのスキルを持っているんだ!事務なんてもう辞めてやる!」というやや偉そうな、しかし強い誇りの気持ちを持って活動していた。
そんな私にとって、「業界の蓋を開けてみたら自分のスキルなんて”30代未経験”という大きなマイナス要素に比べれば大したことはなく、デザイナーになんて到底なれる器ではなかったのかもしれない」という嫌な予感は私の自尊心を大変に傷つけたし、これまでの学習時間や今後のことを考えると「私は何もできないのかもしれない。楽しくもない職場で好きでもない仕事をして、ずっと悶々生きていくのかもしれない。」という絶望感があった。

人は不安になると、まま変な方向に思考が向きがちである。ご多分に漏れず、不安になった私は「とにかく受かるルートを探そう」という迷走を始める。
「なんとなくデザインっぽいもの」が作れそうな事務仕事に応募してみたり、広報っぽい分野だからデザインもついでに出来ないかな…と採用業務に応募してみたり・・・
とにかく『デザインって書いてないけど、付随業務としてデザインっぽい業務が発生しそうな気もする』レベルのものに矢継ぎ早に応募し始めた。

矛盾するようだが、「迷走」と言ったものの、この「デザイン業務も付随でできそう」な道を探すのは上手に使いこなせば、悪くはないルートである。特に実務未経験者にとっては、『デザイン実務』などが応募資格に不要かつ競争率の低い脇道ルートのようなものでもあり、複数部署を兼任しがちな小さな会社に慣れていて、社内交渉も比較的スムーズに実行できるような人には向いているように思う。
ところが、一方の私はこれまで正面玄関のど真ん中を突き進むような就職の仕方しか経験してきていない。今回の転職活動で気持ちを新たに、脇道を選択できるようになれれば良かったものの、面接に向かうと「でもやっぱりデザインがやりたい!」「事務じゃなくてデザイン。広報じゃなくてデザインがメインなのだ!」と正面突破の場違いな闘い方しかできず、当然求人を出している企業は「いや、事務がほしいんだよね」という反応にしかならず、つまり結果的に書類選考は受かるものの、面接はまったく受からないという状況に陥ってしまったのである。

自分でも「なにかがおかしい・・」とは思いつつ、しかし何もできずに「落ちたら新しいどこかに応募」の魔のループをたどっていた。今振り返るとこのころが最もしんどく、「私のしたいことは何なんだ?よくわからないからコーチングを受けるか?もう心もしんどいからカウンセリングの方が良いか?」とぐるぐる考え続ける日々が続いた。

自己分析と企業研究で軸を定める

私は過去に、3年間採用担当業務に従事していたことがある。
主に新卒採用に力を入れた会社だったので、就活中の学生たちから質問を受けたり、セミナーで就活のアドバイスをする場面も多かった。
その際に私が何度も口にしていたのは「自己分析と企業研究、まずはそこをしっかり時間をかけてやっていくことが大事」というものである。自分を知ることでやりたい仕事や就活の軸が決まり、企業研究をすることでその企業が自分にマッチするのかを考える。これはもう就活の基本です。これをちゃんとしないと目的も方針もはっきりしません。

あれだけしつこく偉そうに言っていたにも関わらず、私自身は今回の転職活動で自己分析も企業研究もまったくしていなかった。

ぐるぐる迷走を続けていた時期に、ポートフォリオの添削もお願いしてもらっていた転職エージェントであるウェブスタッフの方が出演するYoutubeライブを見て、それにはたと気づいた。
気づくまでに多大な時間と心身のエネルギーを消耗したが、ここでやっと原点回帰できたのである。「そうだ、自己分析と企業研究だ」

そこから、再びウェブスタッフのエージェントの方に連絡をとり、自分のやりたいことと受ける先の企業について調べ始めた。
30代の転職がうんぬんかんぬん考える前に、大学生でもやっている基礎中の基礎をおさえるべきだったのだ。

「自社商品やサービスを展開する企業に、デザイン面で力になりたい」という軸

デザイナーで就職、というとまず最初に”制作会社”が選択肢として出てくる。私も転職活動で何社か制作会社に応募し、面接まで受けたところもあった。
制作会社は少し前までは『超激務』の印象が強かったが、少なくとも私が受けた複数の制作会社はその体制が多少なりとも是正されている印象を受けた。
ところが、私は制作会社を受けるたびに、実のところ「なんかしっくりこないなぁ」と感じていた。
この「しっくり来ない」についてもっと考えればよかったのだが、いかんせん自己分析も企業研究もしていない不届き者だったので、当然何も見えてこない。「たまたまここの会社が違ったのかな?」と感情をリリースしてしまっていた。せっかく受けたのに何も得られないなんて、今考えればもったいない話である。

それが、自己分析と企業研究をすることで少しずつ理解できるようになってきた。

私はもともと食品メーカー出身である。特に当時所属していた会社は、商品に対して絶対の自信があった。「最高の技術と知能を集結させた"世界で1番の最強商品”を売り出している」という強い誇りを持って、社員は尽力していたのである。(もちろん実務上つねにキラキラ輝いていることなんてなかったが、まぁそれはどこの会社も一緒だろう。とにかく自社商品にはみな期待と誇りを持っていた)
私はこの企業の姿勢はとても好きで、仕事がしんどいときも「世間の役に立つ仕事をしている」という自負がつねにあった。だからこそ、働き続けられたと言っても過言ではない。そしてこれこそが私の軸だったのである。

つまり、私は「自社が持つサービスや商品を世に広げていこう」とするチームの中で、その商品を育てていく一端を担っていきたかったのだ。

それに気づいてからわずか1週間ほどで、日用品ブランドを展開する事業会社のWeb担当として採用が決まった。
偶然のたまたまが重なり合った結果であり、あまりにあっさり決まったので私自身拍子抜けな部分があったくらいだが、自分の中で納得いく就業先だったので「よし、ここで働くぞ」とすぐに心が決まった。

こうして完全アウェーの未経験転職活動は、自分の軸を確認してすぐに突然幕を閉じ、ひとまず「内定」を手にしたのである。

30代未経験でもデザイナー転職はできるのか?


ここ2〜3年で急速に普及していった『在宅ワーク』という働き方の中で、特にWebデザイナーは人気があるように思う。テレビCMでも「未経験からWebデザイナー!」と謳っているものを見かけたりする上に、なんだか華やかでオシャレでキラキラした世界を想像してしまう。

はっきり言ってしまえば「未経験からのWebデザイナー転職」は、そういうものとは無縁である。
「身につけたスキルで生きていきたい」と思う人にとって、書類選考や面接で何度も落とされる過程は自分のスキルへの自信を失わせる。やっぱり出来ないんじゃないか、と何度も思う。

それでも私はあえて言いたい。
未経験でも30代でも、デザイナー転職はできる。

コツコツと頑張ってきた姿は必ず誰かに伝わる。
99人が「いらない」と言っても、伝わってほしい1人に「いる」と言われれば、それで大成功なのだ。

ただ、正しくその努力を伝えるためにはある程度の準備をしておく必要がある。以下にそれらを列挙する。

ポートフォリオを作って添削してもらう

ポートフォリオは「自分を売りこむための重要なツール」である。これだけあれば良いわけではないが、デザイナー職の書類選考にはポートフォリオの提出が必要となる場合が多い。
一度作ったポートフォリオは、採用のプロの目線で添削を受けてブラッシュアップしてから選考に臨むと自信につながる。私はウェブスタッフで添削してもらった(無料)。その後の転職活動の相談まで親身に乗ってもらえるのでお勧めしたい。
ウェブスタッフのポートフォリオ添削はこちら

自己分析と企業研究をする(最重要)

私含め、新卒の頃に一度しっかり自己分析と企業研究をした人でも、転職活動で改めてできることは少ないらしい。ここを考えないと途中で軸がぶれ、私のように行きたい企業すらわからなくなることもある。一度しっかりGoogleスプレッドシートでもノートでも何でも良いので書き出してみて、自分の進みたい方向性や受ける企業について考えてみると良い。それを知ることで、選考で語る言葉にも説得性が出るし、いざ内定が出た時に迷うこともなくなる。

選考後に振り返りをする

手応えのなかった選考は一刻も早く忘れてしまいたい。その気持ちは痛いほどわかるが、選考時の手応えだけでなく、面接官と話してみたり会社の雰囲気を見て感じたことなど、自分の率直な気持ちも併せて振り返ると良い。「フィーリング」と言うとフワフワしてしまうが、自分の直感や『なんか微妙だな』という感覚は案外正確だったりする。もちろん、面接でうまく返せなかった質問があれば掘り下げて考え直し、次回の選考から対応できるようにしておくのも大切だ。


最後になるが、私の尊敬できる方々から教わったことをお伝えしたい。
未経験転職とは、新たな世界にチャレンジすることである。自分がやってきた自己分析、企業研究に沿って就職先が決まっても、もしかしたら1社目は思ったような環境ではないかもしれない。自分の中でしっかり固めたと思っていた軸も、未知の世界ではまた別の視点がいるものかもしれないし、入社してみないとわからないことも実際多い。しかし、そんな場合でも落ち込むことはない。盗める技術だけ盗んで、また次の職場に行けば良いのである。「未経験」という重い足枷はその頃にはなくなっているので、多少前回の活動よりは軽やかに歩みを進められるだろう。

私たちはスキルをどんどん身につけていける。ひっそりと家で1人パソコンと向き合い、格闘してきた時間はその第一歩である。
スキルは何歳からでもつけられるし、挑戦する人はやはりみな格好良い、と私は思う。
自分で能動的に努力することを知っている人は強い。目の前の1社から落とされたからと言って、これまでの努力やスキルが消えることはない。
ありがたいことに、世の中は企業や働く人で溢れている。その中で自分の努力を認めてくれる人を、また探しに行けば良いのである。
簡単なことではないが、出来ないことではない。何歳になっても、挑戦するのは自由で格好良いことだ。まだまだ立ち止まるわけにはいかない。

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