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帰ってきてくれてありがとう

北のハズレとはいえマンハッタンなので、路上駐車は容易ではない。運転/駐車技術だけではなく、市長の思惑で、道路まで歩行者や自転車優先になり、車線数が減らされ、さらにころちゃん時代になってレストランが車道に張り出しているので、車はマイノリティ扱い、路上駐車は困難を極める。

だが、米国内で自由に仕事に行くには車が必要である。

近所を探索した上で、レンタカーや Zip カーも同居するバレーパーキング式の月極駐車場に停めることにした。数人が手分けして駐車しにくる車と、出かける車をさばいていた。

ところがある月曜日の朝、男性がたった一人で駐車と車出しをしていた。

よりによって、月曜日の朝に、どうして一人だけなのか、不審に思った。

従業員数によって、全員に予防接種を、という政府からのおふれがあったため、接種済みが、おそらくさばいていた彼しかいなかったのか、と納得した。

24時間営業の四階建ての車庫で、入ってくる車と停めてある車を一人でさばくのは、いくら若くて運転技術が高くても、まったく眠っていないなら無理だろう、と思った。

失礼ながら、六年前に買った愛車スバルを買い替える日も近いかも・・・。

車をさばく若者は少なくとも六人はいたはずだ。

本当の名前を知らなかったので、マイ・ニックネームで呼んでいた。みな二十代くらいで、英語とスペイン語とのバイリンガル。

一人でさばいていたのは、おそらく接種済みなので、わくちゃん。

最初に車庫で会って、月極駐車場の手続き方法を説明してくれた、はじめくん。

次に会った、じろうくん。

夕方の駐車時にいる、オフィスで着替えているときのランニング(タンクトップ)姿が見えてしまった、たんくん。

同じく夕方駐車時にいる、なんとなくアジア人ぽい風情のきまじめくん。

もう一人、確かにいるのだが、私の車の出し入れにあまり関わらなかった、いたろうくん。

クレイマーにはなりたくなかったが、眠りもせず一人で車をさばくのは危険すぎる、ともう少しで、マネジメントオフィスに連絡しそうだった。

けれど、たぶん、この痛みはどこも同じ、と思いとどまった。

若者たちは解雇されてしまったのか、ただの自宅待機なのか。

同じ移民として、勝手に同情して、勝手に悲しかった。

一週間後、いつものように駐車する若者と、車を出してくれる若者の二人がおり、やつれていたわくちゃんは、にこやかに仕事をしていた。

みな接種済みになったのか、ぎりぎりで規制にストップがかかったことが影響したのか。理由はどうあれ、またもや勝手にうれしかった。

帰ってきてくれてどうもありがとう。

わくちゃんが厳かに、白い封筒を渡しながらプレゼントだと言った。この記事のカバー写真のグリーティングカードが入っていた。

サンクスギビング、クリスマス、と、このシーズン、サービス業の人たちはお客に笑顔を振りまき、チップを集める。チップ制度は苦手だが、またもや勝手に、苦難をともにした同士として、皆にお礼をしたかった。

カードには写真と共にフルネームが記載されていた。マスク姿の彼らと写真がすぐに結びつかなかったが、カバー写真のように半分隠して理解した。

わくちゃんの本名はペドロ。はじめくんはリカルド。じろうくんはジェイソン。たんくんはフアン。きまじめくんはサンティアゴ。いたろうくんはアンドリューだった。

おしゃれめな封筒を買ってきて、表に Happy Thanksgiving! のメッセージと各自の名前を書いてチップを配ることにした。

喜んでもらえて、またもやうれしかった。



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