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アメリカ、ウクライナに対しクラスター弾を供与へ クラスター弾とは? 世界はアメリカのクラスター弾供与問題について反対 日本”だけ”支持

  アメリカ防総省は7日、殺傷能力が高いクラスター(集束)弾を、ウクライナに供与すると発表。クラスター弾の供与は、ロシアによるウクライナ侵攻後、初めて。

 クラスター弾は、非人道性が強い兵器であるが、難航するウクライナの反転攻勢を後押しするために必要であると判断、これまでの慎重姿勢から転換した形だ。ただ人権団体は強く反発している。

  サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)によると、ウクライナでは、

 「弾薬が戦争の鍵を握る」

(1)

と言われるほどの消耗戦となっている。アメリカの通常弾薬の在庫もこれまでの支援で不足し、生産が追いつくまで、クラスター弾に頼る形となった。

  クラスター弾はロシアがウクライナの戦場で使用しており、米政府はこれまでロシア軍による使用を問題視。

「戦場で使われてはならない」(国連大使)

「戦争犯罪の可能性がある」(前大統領報道官)

(2)

などと非難してきた経緯がある。しかしサリバン氏は、7日の記者会見で、

 「ウクライナを無防備にはしない」

(3)

 と強調。

  ロシアがウクライナで投入してきたクラスター弾の不発率が30%~40%であるのに対し、米国が提供するのは2.5%以下であるとし、国際社会の理解を求めた(4)。

  しかしながら、ニューヨーク・タイムズ紙によるとクラスター弾の供与をめぐっては、深刻化する弾薬不足を補うため供与を推進しようとする国防総省と、非人道性を懸念する国務省で意見が割れたという。

  アメリカ議会では、野党・共和党の外交・安全保障分野の主要議員は歓迎する一方、与党である民主党の一部から反発もでた。

 



クラスター弾とは

 

 現在、クラスター弾については100カ国以上がその使用を禁止している。クラスター弾は、

 1.地上もしくは空かクラスター弾が発射される
2.小型爆弾が放出される
3.小型爆弾が飛散して落下、しかい不発のものはそのまま地上に残る

(5)

という仕組み。

  クラスター弾は、1つのロケット砲やミサイルや砲弾が飛行中、多数の小型爆弾が広範囲に飛び散るもの。飛び散った小型爆弾は着弾と同時に爆発する設計であるが、しかし相当数は不発に終わる(6)。

 とくに、濡れた地面や柔らかい地面に着弾した場合に不発になりやすい。不発として残った小型爆弾は、後日、誰かに拾われたり踏まれたりした場合、その人を死傷させる可能性がある。

  クラスター弾は軍事的には、地中に穴を掘った塹壕や要塞化した位置を拠点としている敵兵に対し、恐ろしいほどの攻撃能力をもつ。

 クラスター弾がいったん落下すると、その一帯から不発弾を処理しない限り、その範囲内での移動も危険となる(7)。

  クラスター弾は、不発として残った一部が無差別に民間人を危険に晒すことから、2008年に「クラスター弾に関する条約」が採択。

  これにより、クラスター弾の使用、開発、生産、取得、貯蔵、保有および移譲ならびにこれらの活動についての援助、奨励および勧誘を行わないことが約束された。

 この条約は、これまでにイギリスやフランス、ドイツなど100カ国以が署名している。

  しかし2022年2月にロシアがウクライナを侵攻して以来、ロシアもウクライナも互いにクラスター弾を使用してきた(8)。どちらもクラスター弾に関する条約に参加していない。アメリカも同様だ。

遅い反攻 領土奪還わずか0.1~0.2%ほど


  なぜ、ウクライナはクラスター弾を要求しているのか。それは、ウクライナ軍もロシアと同様、非常に速いペースで砲弾を消費しており、西側の同盟諸国の補充も間に合っていないからだ。

  ウクライナ南部や東部の戦場では、両軍ともにほとんど前進することなく膠着状態がつづく。ロシア軍は全長1000キロにおよぶ前線のいたるところに塹壕や拠点を掘り、守りを固めている。

 ウクライナ軍は、そこからロシア軍を追い出さなければならない。

  それにもかかわらず砲弾が足りてないため、ウクライナはアメリカにクラスター弾を要求した。前線のあらゆるところに掘られた塹壕にいるロシアの歩兵を”狙い撃ち”するためだ(9)。

  ウクライナの反攻攻勢も思うように進んでいない。8日で、ロシアの侵攻から500日が経過したものの、ウクライナは反転攻勢後に奪還したロシアの占領地域は、0.1~0.2%にとどまる(10)。

  ウクライナは6月上旬より反転攻勢に乗り出したものの、地雷原や砲撃などロシア軍の激しい抵抗に阻まれて苦戦。苦戦の要因は、反攻開始前の数カ月でロシア軍が約1000キロにわたり前線を強化し、対戦車障害物や地雷原からなる重層な防衛線を築いたため(11)。

  ロシア軍は、兵器の射程や空軍力でも勝る状態だ。ウクライナ軍は空軍力で劣り、空軍の犠牲を抑えるために戦力を温存。強力な欧米が供与する兵器の到着を待ち、ロシアの防衛線の突破を狙う(12)。

  ウクライナが反攻のために編成した12ある旅団のうち、前線に投入したのは数個程度とされる(13)。今後、防衛線に穴を開けることができれば、一気呵成に部隊を集中させるとみられる。

 

世界はアメリカのクラスター弾供与問題について反対 日本”だけ”支持

 

 アメリカのクラスター弾供与問題について、世界の見方は批判的だ。イギリスのスナク首相は8日、バイデン米政権によるウクライナへのクラスター弾の供与について否定的な見解を示す。

  ほか、スペインやカナダといったウクライナ支援で米国と結束してきたNATO(北大西洋条約機構)加盟国からも、批判の声があがっている。ロイター通信によると、スナク氏は記者団に対し、

 「英国はクラスター弾の使用や製造を禁じる条約に加盟している」

(14)

 とし、アメリカへの明確な批判は避けながらも、クラスター弾供与の決定に異を唱える。スペインのロブレス国防相も8日、

 「ウクライナの正当な防衛にはイエスだが、クラスター弾にはノーだ」

(15)

 と強調。カナダ政府もこの日、

 「我々はクラスター弾の使用を支持せず、子供たちなど民間人への被害をなくすことに全力を尽くす」

(16)

 と明確に反対する声明を出す。

  一方、松野博一官房長官は10日の記者会見で、明確な賛否の表明は避けつつ、

 「二国間のやりとりであり、コメントは差し控える」

(17)

 とし、供与への反対姿勢をにじませたイギリス、ドイツ、カナダ、イタリアとの温度差を印象付けた。

  日本はクラスター弾の生産や使用を禁止するオスロ条約に加盟している。松野氏は、アメリカ、ウクライナ両国が民間人への被害を最小限に抑える方策を確認していると言及したうえで、両国はオスロ条約に加盟していないことに触れ、

 「多くの国が条約を締結することが重要との考えの下、引き続き非締約国に働きかけを行っていく」

(18)

と強調するも、明確な反対姿勢は示さなかった。


(1) ワシントン=共同「足りぬ弾薬、苦渋の決断」西日本新聞、2023年7月9日付朝刊、2項

(2)共同、2023年7月9日

(3)共同、2023年7月9日

(4)共同、2023年7月9日

(5)フランク・ガードナー「クラスター弾とは何か、なぜアメリカはウクライナへ供与するのか」BBC NEWS WEB、2023年7月8日、https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-66140907

(6)フランク・ガードナー、2023年7月8日

(7)フランク・ガードナー、2023年7月8日

(8)フランク・ガードナー、2023年7月8日

(9)BBC NEWS JAPAN「大事なものを取り返すため、取り返しのつかない喪失……反撃するウクライナ軍にBBC同行取材」2023年6月21日、https://www.bbc.com/japanese/video-65958044

(10)キーウ=共同「遅い反攻 ウクライナ苦悩」西日本新聞、2023年7月9日付朝刊、5項

(11)共同、2023年7月9日、5項

(12)共同、2023年7月9日、5項

(13)共同、2023年7月9日、5項

(14)岩佐淳士「アメリカのクラスター弾供与にイギリスなど異議 ウクライナ支援巡り」毎日新聞、2023年7月9日、https://news.yahoo.co.jp/articles/97288bdf57c31f4f00ac1844bcda568bb7c236aa

(15)岩佐淳士、2023年7月9日

(16)岩佐淳士、2023年7月9日

(17)東京新聞「ウクライナにクラスター弾供与」2023年7月11日付朝刊、4項

(18)共同通信「日本、クラスター弾供与反対せず 松野氏、被害低減策に言及」Yahoo!ニュース、2023年7月10日、https://news.yahoo.co.jp/articles/5d27b89831077174cd8af23e62fabd54cbabb115

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