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ウクライナ クリミアを攻撃? 奪還か? クリミアとは ロシア系住民が多い 「ヤルタ会談」でも有名

 ロシアによるウクライナ侵攻に関し、ウクライナが戦況の打開に向けて動いた模様だ。

 ロシアが2014年に強制的に編入したウクライナ南部のクリミア半島の北部に位置するジャンコイのロシア軍の弾薬庫で16日、大規模な爆発が発生。変電所では火災が生じた。

 タス通信によると、ロシアの国防省が今回の爆発や火災は「破壊工作」だとし、ウクライナ側の攻撃との見方を示す。ウクライナは、ロシア軍の補給路を断つなどし、現在の膠着した戦況を打開する狙いともみられる。

 複数のアメリカのメディアはウクライナ政府高官の話として、ウクライナ軍の精鋭部隊が攻撃に関与したと伝えた。

 また、ロシアの有力紙である「コメルサント」は、クリミアの中部グワルデイスキーにあるロシア軍の航空基地から黒煙と爆発音が上がったと話す、住民の証言を報道。

 一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、これに先立ち、15日にクリミアの奪還に向けた諮問会議を設立する大統領令に署名したばかり。

 クリミアでは、9日にも、西部にあるロシア軍のサキ航空基地で爆発があった。ウクライナの当局は、クリミアを攻撃したかどうかは明らかにしてはいないものの、大統領府長官でるイエルマーク氏が、

 完全な領土奪還を目指す。

キーウ、共同、西日本新聞8月17日付朝刊

と表明している。

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クリミアとは もともとロシア語を話す住民が多い 「ヤルタ会談」で有名


 クリミアは、ウクライナ南部に位置。黒海とアゾフ海とを隔てる半島が、クリミア半島だ。もともと、ロシア語を話す人が多い。事実、クリミアではウクライナからの分離独立を求める動きがあった。

 面積は2万7000平方キロメートル。クリミアはもともと、ウクライナで唯一、ロシア系の住民が大半を占める地域。人口は2000万人(2014年時点)。イスラム系であるタタール人も12%ほど占めている。

 クリミアは、「侵攻」と「占領」とが繰り返されてきた歴史がある。古くは、1239年にタタール人が占領。その後、1475年にオスマントルコが征服したものの、それを1783年にロシアが奪還。

 ロシア革命のあと、ソビエト連邦が統治していたクリミアは、1954年の当時の連邦最高指導者であるフルシチョフによりウクライナへ移譲。ただ、それ以降、クリミナは長い間、紛争を招くおそれがあると警戒されていた。

 もともと住んでいたタタール人は、スターリンによりシベリアや中央アジアへ追放される。しかし、1991年にソ連が崩壊し、ウクライナが独立すると、クリミアへと戻ってきた。

 クリミアは、1992年にウクライナの自治共和国となる。その後も、クリミア半島にはセバストボリ市にロシアの黒海艦隊の駐留基地があることから、ロシアは戦略上の重要性を保つ。

 黒海艦隊の存在は、ソ連の崩壊後、対立の火種となる。

2014年 ロシアによるクリミア併合


 2014年2月27日、クリミア自治共和国で議会が武装集団により囲まれるなか、親ロシアはであるアクショーノフ氏が自治共和国の新しい首相に指名。それとほぼ同じくして、ロシア軍とみられる集団がクリミアへ展開。

 3月1日、プーチン大統領は「ロシア系住民の保護」を理由に、ウクライナへのロシア軍投入の承認を上院へ求め、全会一致で承認される。

 クリミアに関する問題がここまでこじれた理由には、2014年にウクライナ本土で起きた政変のなかで、過激かつ暴力的な右派勢力がウクライナで台頭し、民族的な主義主張が、現代ウクライナの時代精神のようになってしまったこと(1)。

 1991年の時点では、ロシア系の住民を含め、ウクライナに住む住民がウクライナの独立に圧倒的に賛成した理由は、「国民国家」として、民族や言語に関係なく、皆が“ウクライナ“という国家の下で権利を享受し、幸福を追求できるという合意があったからこそ。

 しかし、ウクライナの独立後、四半世紀の間に言語政策や歴史認識などの問題で、ロシア系の住民は肩身の狭い思いをする。結果、クリミアの住民が、ウクライナに見切りをつけた。


地政学をめぐる争い 「ハートランド」と「リムランド」


 ロシアとウクライナによる紛争は、「地政学」的な側面も強い。地政学とは、「国の地理的な条件をもとに国際関係をみる学問」のこと(2)。

 19世紀から20世紀前半にかけ、イギリスやドイツ、アメリカなどの学者や軍関係者が、「ハートランドとリムランド」「シーパワーとランドパワー」などといった考えを提唱。

 このような用語が盛んに使用されたのが、地政学という学問であった。

 地政学上では、ユーラシア大陸の中心部を「ハートランド」と名づける。そのものずばり、心臓部のこと。

 現在のロシアのほとんどがこのハートランドに位置する。ところが、このハートランドは寒冷で平坦な地域が多く、人口もまばら。

 他方、ユーラシア大陸の沿岸部を「リムランド」という。ハートランドの周縁(リム)という意味だ。暖で経済活動が活発、かつ人口も多い。

 さらに地政学の見方では、欧州地域はユーラシア大陸に西のはずれにある半島とも見ることもでき、その多くがリムランド(3)。

 歴史的にハートランドに位置する国は、豊かなリムランドの国に攻め込もうとする。クリミアも、リムランドに位置し、重要な拠点だ。


(1)服部倫卓「クリミア併合とは何だったのか? 驚天動地の事件を再考する」朝日新聞グローブ+、2018年9月11日、https://globe.asahi.com/article/11767238

(2) 一色清「ロシアによるウクライナ危機 → 地政学で「危機の正体」を読み解こう」朝日新聞 EduA、2021年12月17日、https://www.asahi.com/edua/article/14502753

(3) 一色清、2021年

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