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西アフリカ ニジェールでクーデター ニジェールとは? 世界で最も人口増加が著しい国 反仏とロシアの影

  軍によるクーデターで欧米寄りの大統領が排除された西アフリカのニジェールの情勢が緊迫している。

  アメリカ政府は首都ニアメーにある米大使館の一部の職員らを一時退避させることを決めた。また周辺国の間ではクーデターを非難する国と、擁護する国々とが対立し、予断を許さない状況がつづく。

  ニジェールでは先月、軍の部隊が欧米寄りの大統領を排除し、軍事政権を発足させたのをきっかけに、旧宗主国であるフランスに反発するデモが起き、フランス大使館の一部が破壊されるなどの混乱が広がる。

  このことを受け、米国務省が2日、首都ニアメーにある米大使館の一部の職員とその家族を一時退避させることを決めた。またフランスやイタリアは、ニジェールに滞在する自国民らを航空機で退避させ始めている。

  このうち、フランスにはこれまでに350人あまりが到着し、日本政府によると日本人2人も退避したという(1)。

  情勢は周辺国を巻き込み深刻さを増す。周辺国で作るECOWAS(西アフリカ諸国経済共同体)はクーデターを強く非難。今週中に大統領を復権させなければ軍事力の行使も辞さないとの構えを示し、2日には軍の担当者による協議も行った(2)。

  またニジェールに電力の大半を供給している隣国のナイジェリアでは、軍事政権への制裁の一環として送電を停止、結果、ニジェールの主要な都市では停電が起きていると伝えられている。

  一方、ニジェールと同じように軍がクーデターで政権を掌握したマリやブルキナファソは、

 「ニジェールへのいかなる軍事介入も自国への宣戦布告と見なす」

(2)

 と反発、周辺国の緊張も高まる。

  7月26日に勃発した軍事クーデターは、西側諸国へ敵対心が顕在化する形となった。さらにその”影”にはロシアの姿がちらつく。

 


ニジュールとは 世界で最も人口増加が著しい国


 ニジェールはアフリカ大陸西部に位置する内陸国で、アルジェリア、マリ、ブルキナファソ、ベナン、チャド、リビアと国境を接す。

  「ニジェール」という国名は西アフリカを流れる大河ニジェール川にちなむものの、実際にその恩恵をあずかれるのは南西端など一部の地域にすぎない。

  もともと、この地域の遊牧民トゥアレグ族が、このニジェール川を「川」を意味する現地語で読んでいるのを聞いたフランス人が、ラテン語で「黒」を意味するニジェールと命名した(3)。

 人口の大半は、ニジェール川とその支流に集中し、アルジェリアやリビアと接する北部は、ほとんどが砂漠。

  ほぼ中央に位置するアイル産地北のアーリットでは、原子炉の燃料などに使われるウランが算出される。その生産量は世界第5位(2019年)であり、ニジェールの最大の輸出品で、経済を支えている。

 とくに、原子力発電の比率が高いフランスでは、その4割以上をニジェール産のウランに依存している。

  そのニジェールは世界で最も人口増加が著しい国だ。2019年の女性1人が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は6.8(日本は1.36)を記録。

 子どもを幸福の富の象徴とみなす、イスラム教の伝統的価値観がまだ強く根付いているという(4)。

  ニジェールは1960年にフランスから独立した。その当時320万人だった人口は、2021年には2400万人を突破。政府の推計でが、今後も18年ごとに倍増し、今世紀中には1億人を突破しかねない勢いだ。

  しかしながら、国連が各国の保健や教育、所得のレベルを比べた「人間開発指数」ではニジェールは世界最下位となっている。

 国土の大半がサハラ砂漠に覆われており、爆発的な人口増は、結果、食糧不足や治安の悪化など、国家の安定を揺るがすリスクにもなりうるという。

反仏

 
 クーデターが起きたニジェールでは、今月3日がフランスからの独立記念日にあたり、首都ニアメーでは国会前の広場に数千人のデモ隊が集結、

「フランスに死を」
「フランス軍は出ていけ」

と声を上げた(5)。

  ニジェールには現在でも役1000人あまりのフランス軍が駐留しており、植民地支配の歴史に加え、治安や経済状況の悪化などを理由に、フランスへの不満が高まっている。

  首都ニアメーから約800キロ離れた中部のジンダーに住むある実業家は、英BBCの取材に対し、

 「自分は親ロ派で、フランスは嫌いだ」
「子供のころからフランスに反対してきた」

(6)

 と語る。

 「フランスはウランやガソリン、金といったこの国の富を全て搾取してきた。最も貧しいニジェール人が1日3食食べられないのは、フランスのせいだ」

(7)

 ニジェールの人口2440万人のうち、5人に2人が、1日に2.15ドル(約308円)で暮らす、極度の貧困状態にある。

  軍に拘束されたバズム大統領は、2021年に就任した。1960年の独立以来、初めて民主的な選挙で選ばれ、平和的な権力移譲が実現した(8)。

  しかしバズム大統領は、反仏抗議運動を何度も禁止。2022年半ばに、マリから追放されたフランス軍のバルカン部隊について、バズム大統領がニジェール国内への再配備を許可した際には、いくつかの市民団体が反仏抗議を加速させる。

  中でも顕著だったのは、活動家や市民団体、労働組合などが連合した「M62」と呼ばれる活動グループであり、生活費の上昇や統治の欠陥、フランス軍の駐留について反対の声を挙げた。

ロシアの影

 

 ニジュールの周辺国では、隣国のマリやブルキナファソと合わせ、クーデターがつづく。

 欧米にとっては、巨大な空白地帯を生むことになり、イスラム過激派は不法移民の問題を考えるうえでも、旧宗主国であるフランスをはじめ、ヨーロッパやアメリカにとっても”難題”となる。

  ニジェールやマリの北部には、広大なサハラ砂漠が広がる。しかしながら、ここ10年ほど前から、周辺にイスラム系武装組織が拠点を築き始めている。フランス軍を中心に掃討作戦がつづくものの、終わりはみえない。

  武装勢力による住民虐殺が繰り返される一方、しかし欧米の最大の関心事は「イスラム国」(IS)残党のアフリカ流入阻止である、欧米諸国とアフリカ側との利害が必ずしも一致するわけではない(9)。

 「新しいパートナーと組みたい」(ブルキナファソ軍)

(10)

 とマリやブルキナファソからは駐留するフランス軍が追い出される事態に陥っている。

  このような国々が期待するのは、ロシアだ。フランス軍とは違い、民政でなくとも軍政でも守ってくれるロシアの民間軍事会社ワグネルは、中央アフリカでの成功もあり、西アフリカでも強力な信頼を獲得するにいたった。

  このようなか、ニジェールは、

 「軍政に乗っ取られたマリ、ブルキナファソ、チャドに囲まれながら唯一民主主義を維持していたサヘル(サハラ砂漠南部一帯の例外」(ロイター通信)

(11)

と位置付けられていただけに、とくにフランスにとっては痛い打撃となった。

  一方、今回のクーデターにもワグネルの関与が指摘されている。

 アメリカとフランスは、ニジェール国内の反政府勢力との戦いにおいてニジェール政府を支援したが、マリやブルキナファソなどの周辺諸国は、ロシアのワグネルに支援を求めている。

 


(1) NHK NEWS WEB「ニジェール クーデターで緊張 欧米の国々が自国民の退避進める」2023年8月3日、https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230803/k10014151561000.html

(2)NHK NEWS WEB、2023年8月3日

(3)井田仁康「「ニジェールってどんな国?」2分で学ぶ国際社会」DIAMOND online、2022年12月26日、https://diamond.jp/articles/-/314899

(4)読売新聞オンライン「[家族のかたち]<6>子だくさん 幸福の象徴…ニジェール」2022年1月12日、https://www.yomiuri.co.jp/world/20220111-OYT1T50285/

(5)ABEMA TIMES「ニジェール 独立記念日で抗議デモ 反仏感情高まる」2023年8月4日、https://times.abema.tv/articles/-/10090056

(6)チマ・イラ・イッソウフウ、ベヴァリー・オチイング「なぜ一部のニジェール国民はフランスを追い出し、ロシアを歓迎したいのか」2023年8月3日、https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-66381430

(7)チマ・イラ・イッソウフウ、ベヴァリー・オチイング、2023年8月3日

(8)チマ・イラ・イッソウフウ、ベヴァリー・オチイング、2023年8月3日

(9)時事=西日本新聞「西アフリカ「反仏」の波」2023年7月30日付朝刊、5項

(10)時事、2023年7月30日

(11)時事、2023年7月30日

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