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コロナ渦のオリンピック 開催の是非 スポーツと体育 断絶を生み出すもの ~1~ 議論を呼んだ開会式を振り返る

 7月23日夜、コロナ禍のなか、無観客により国立競技場で第32回夏季オリンピック東京大会開会式が行われた。

 海外からは、控えめな演出に好意的な意見が寄せられる一方、新型コロナウイルスの度重なる感染拡大のなかでの開催に反対する日本の世論を紹介するメディアもあった。

コロナ渦のオリンピック


 そもそも、コロナ禍とはいえ、日本の感染者の数から考えれば、有観客で通常通り敢行してもよかったはずだ。

 次回2024年のパリ大会の開催国フランスの新型コロナウイルス感染者の数は、500万人を越え、世界で5番目に多く、死者も11万人に達した。2028年ロサンゼルス大会のアメリカは、世界で一番多い3000万人の感染者を出し、死者も61万人を超える。

   それと比べ、日本の感染者数は86万人、死者は1万5千人に過ぎない。さらにいえば、日本は世界で最多の病床数を誇る国だ。そのような中において開催地である東京は、幾度となく緊急事態宣言下に置かれ、結局、大会も首都圏は無観客に追い込まれた。

 それは、いくら多くの病床数も抱えながらも、ほとんどが公立病院ではなく、コロナ専門病床の数が全体の数%しかなく、さらにコロナ病床への転換も一向に進まないため、わずかでも感染者が増えればすぐに医療崩壊に追い込まれるという、まさに「ガラパゴス」な日本の医療体制に問題がある。

 PCR検査数も増えず、ワクチン接種さえ「1日100万件」の目標はクリアはしたものの、今度は在庫が足りなくり、地方自治体や職域接種分の予約がキャンセルされ、今後の見通しが立たなくなった。

 しかし、いざ五輪に突入すると、テレビは当たり前のようにオリンピック報道一色になり、コロナ関連のニュースは忘れ去られたかのような扱いになってしまう。しかし、これは毎度のことなのだが・・・。

開会式

 NHK総合で生中継された開会式の平均世帯視聴率は56.4%(関東地区)を記録、同じゴールデン帯で放送された2008年北京オリンピックの37.3%を大きく上回り、前回の1964年東京大会で10月10日午後1時43分から開始された開会式61.2%と比べれば合格点だっただろう。一応は目標としていたらしい、50%はクリアした。

 ただ、事前の情報通り、天皇陛下は開会宣言で「私は、ここに、第32回近代オリンピアードを記念する、東京大会を宣言します」と述べられた。1964年大会では、昭和天皇が「オリンピアードを祝い」と宣言したのに対し、今大会は「記念する」という表現になった。

 開会宣言は、国際オリンピック委員会(IOC)の五輪憲章で英語とフランス語により、厳密に文章が定められている。表現が変わった部分では、英語では「celebrating」で、IOCが公開している「五輪憲章2020年版・英和対訳」では、「祝い」とされている。

 また、冒頭には「英文が原本となります。本憲章の英文と和文に差異がある場合には、英文が優先されます」との注意書きもある。

 そもそも、宣言の言葉が厳密にここまで定められているのは、式典が政治利用されるのを避けるためであるとされる。にもかかわらず、宣言の文言が変更されたのだ。

 開会式の国内での反応はどうだったか。当日には、ブルーインパルスが都心上空を通過し、五輪マークを描く。しかし、SNSへの写真や動画の投稿が相次ぎ、あるいは各地で人混みが相次いで、新型コロナウイルスのさらなる感染拡大の懸念を危惧する声もあった。

 夕方になると、テニスの大坂なおみ選手が聖火ランナーに選ばれるという情報が流れ、Twitterのトレンドでは「最終点火者」がトレンドに。ただし、当初の第1候補者は、競泳の池江璃花子選手であったとされる。

 そのTwitter上では、午後8時を過ぎて開会式がスタートすると、前向きなツイートが増えてきた。しかし、法被を着たダンサーがダンスをし、NHKのアナウンサーが「オリンピックの理念である、多様性と調和を表しています」とコメントすると、「日本人に最も欠けているもの」「もはやカオス」と荒れ始めた。

 さらに入場行進で事前の予想通り「ドラゴンクエスト」にテーマ曲が流れると、楽曲を作曲し続けてきて、過去にLGBTQへの差別的な発言をしてきたすぎやまこういち氏をめぐり、否定的なコメントも増加。

過去のコントでユダヤ人のジェノサイドを揶揄し、演出担当を解任された小林賢太郎がダメで、すぎやまこういちがOKな理由って?
ほぼすべての差別が出尽くしたオリンピックだ

といった批判が広がった。

 しかし、この点については、テレビや新聞、ラジオなど大手メディアも積極的の取り上げず、「ドラクエ」タブーが日本社会に存在することを印象づけたであろう。

 海外の反応はどうだったのだろうか。イギリス「ガーディアン」は、「昨年からの苦闘から目を逸らして笑って踊るだけでのショーではなく、喪失と悲しみのテーマを導く、他に類をみられない3時間」と「東京が世界のムードを保ち続け、やりすぎないほうが良いのだということを示した」と総括。

 アメリカ「ワシントン・ポスト」はベナン人の父と日本人の母を持つ八村塁選手が日本選手団の旗手の一人となったことや、ハイチ出身の父と日本人の母との間に生まれた大坂なおみ選手が聖火リレーの最終ランナーに選ばれたことを取り上げ、

 現在の日本の多様性を感じさせた。移民について、人種やアイデンティティーの異なる人々が一つの国をつくるという考えを、まさに取り組み始めたばかりの国であることを頷かせるものだった


と評す一方、その記事の見出しでは、

 日本は孤独な開会式で笑顔を強いるよう運営するが、オリンピックの喜びは不足している

とした。

 ニューヨーク・タイムズも、

 主催者たちは大会のメッセージを、パンデミックと大会をめぐる数々のスキャンダルから、平和と世界の協調というテーマに向けてそらそうそうとした

としたうえで、

しかし、東京では新型コロナウイルス感染者数が過去6ヶ月の間で最も拡大し、国内産のワクチンの生産も遅れている状況では、大会のメッセージは日本の市民の間にはほとんど響かないだろう

と評す。

一方、来年2月には北京冬季大会を間近に控える中国のメディアは、

「新型コロナで亡くなった人々への黙祷に、皆が心を動かされた。死者への哀悼の意を表す踊りのあと、会場のライトが消えると、全員が立って黙祷した」
「無観客の競技場では各国の記者たちが、最大の『応援団」になった」(環球時報)

と開催に好意的な論調を示した。

入場行進でゲーム音楽が使われたのは正しかったか?

 ただし、選手団の入場行進の際に高らかに日本のゲーム音楽を堂々と流していたのは、疑問が残る。それは、日本のゲーム業界が、今回のオリンピックが謳う「ジェンダー平等」「多様性と調和」と同等なのかが、少々、疑問が残るからだ。

 さまざまな先行研究により明らかとなっているのは、従来の日本のゲームソフトの8割が男子児童を対象として販売されていたことである。その内容は、シューティング、RPG、格闘であり、女性向けはペット育成シミレーションや着せ替えゲームなど、ごくわずかであった。

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