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盛夏火 最終団地演劇『アバンダンド・ネバーランド』台本

『アバンダンド・ネバーランド』

栗宮ロマ(くりみやろま)----------------------------------------------新山志保
ナツ樹(なつき)------------------------------------------------------金内健樹
穂村VCR(ほむらビデオ)------------------------------------------------金田陸

カネダテツオ------------------------------------------------------カネタガク
平森米三(ひらもりよねぞう)--------------------------------------------森耕作
笹田島エリオ(ささだしまえりお)------------------------------------中村ナツ子
夜子山蘭蘭(やしやまらんらん)------------------三葉虫マーチ(劇団「地蔵中毒」)


【0.空から/Above】

 世田谷区祖師ヶ谷大蔵駅から北に徒歩 10 分、祖師谷住宅団地 2 号棟前の公園中央
 ナツ樹、穂村、エリオが参加者を待っている
 全員、空を差しながら話している。軽い躁(?)状態のようになっている

ナツ樹 「えっ、まだ光ってる?」
エリオ 「さっきあっち側(今と別の方角の空)だったよね?・・・あれかな、いや、あれは普通の星(飛行機)ですか・・・」
ナツ樹 「あー見えなくなっちゃった・・・」
穂村 「(商店街の方から走ってくる)今あっちの、商店街の 八百屋さんの人もお店の外出て来てたんですけど、こう、南の、砧側からこっちの北北西に飛んで行ったって言ってましたよ・・・あっちの団地の棟に隠れちゃってるのかな?(北方面に走っていく)」

 など、アドリブで話している
 結構時間があると思うので、うまいこと会話内容が重複しないようにする
 ☆お客さんが来たら受付をする
 空を気にしながら、基本的にナツ樹、エリオ、たまに穂村の 3 人で行う
 お客さんに予約名を聞き、客リストをチェックし、検温を行い、
 来た順番に番号札となるメッセージカードを渡す

☆受付時間中、適当なところで平森がやって来て少し離れたところでナツ樹と話す

平森 「あ、いたいた。2号棟の301号室さんですよね?」
ナツ樹 「え・・・そうですけど、一応」
平森 「どうですか?もう退去のご準備は整いましたか?」
ナツ樹 「あ、あーはいやってます。やってますよ・・・一応」
平森 「あ〜ようやくですか。もう今日中くらいに鍵の受け渡しって大丈夫そうですかね?」
ナツ樹 「んー・・・どうですかねもうちょっと、かかりそうっていうか」
平森 「・・・そうですか。たまにね、期限過ぎてもなかなか退去しない方もいらっしゃるので、一応お家の中だけどんな感じか確認させて頂いて宜しいですかね?」
ナツ樹 「いや、でもほら、今すっごく散らかってるんで・・・。あんまお見せできないかなっていうか」
平森 「あぁ〜。ですよね。お引越し準備中ですもんね。大丈夫です大丈夫です。退去される方は皆さんお部屋ダンボールだらけとかになるもんなんで。ご心配なく(笑)」
ナツ樹 「いや・・・そういう事じゃなくて、もうちょっと後日とかの方がいいかな〜って・・・」
平森 「本当にちょっと見るだけで終わりますので、今の時間ご一緒にいかがですか?」
ナツ樹 「いや・・・(見回す)ちょっと忙しいっていうか。あと5分くらいでやんなきゃいけない事あるんで・・・」
平森 「そうですか、そうしたら私別の棟のご入居者さんの確認先にやって来ますので、後ほどお家の中確認だけしに伺いますね」
ナツ樹 「いや、え、え〜〜〜?」

 平森の持っているトランシーバーに連絡が入る

平森 「(トランシーバーに)はい。えっ!?・・・本部向かいます。(ナツ樹に)あ、後ほど伺いますからねー!!よろしくお願いします〜」

 大まかに上記のような事を漏れ聞こえるくらいの声量で話し、
 平森、団地の別方向へ去って行く


【1.善意/Benevolent People】

 ボチボチお客さんが揃ったら
 そろそろ変化が無い事から、空の様子の事はないがしろになっていく

エリオ 「じゃ、そろそろ皆さん家までお連れしますか〜」

 穂村の視線の先、ロマが商店街方面から公園へやって来る

穂村 「・・・あっ!ナツ樹さん!あれ!ロマさんもう来ちゃいましたよ・・・!」
ナツ樹 「えっ!?(時計を見るしぐさ)うわー思ったより早く来やがったな・・・」

 顔を見合わせる3人

ロマ 「(いつもの新山の感じで)ウィース・・・どうもー・・・」
ナツ樹 「えっ、来るの結構早いね!?(時計見る動作)」
ロマ 「はい。なんで公園いるの?(お客さんを見て)うわ、これ皆さん今日呼んだ人たち ですか・・・?多くない?(もし客の中に新山の知り合いがいた場合は挨拶をしたりする)あ 呼ばれてたんだ・・・!」
穂村 「ロマさんよくここわかりましたね」
ロマ 「なんか、人集まってるなって思って覗いたらみんな居たんで(苦笑)え、これは・・・ここで何かする感じですか?」
ナツ樹 「いや・・・」

 ナツ樹、色々考えてる

穂村 「とりあえず集合、って感じですね」
ロマ 「へー・・・」
ナツ樹 「(遮って)あ。あー!そうだ。そうだ、ちょっとあれ、蚊取り線香!買い忘れちゃってて・・・ロマ、今からちょっと買って来てくんない?」
ロマ 「え?なんで?今冬じゃん」
ナツ樹 「いるんだよ、季節外れの蚊が!!買って来てよ!」
ロマ 「嫌だよ。自分で行けばいいじゃん」
ナツ樹 「俺はほら・・・この人達うちまで案内とかしなきゃだし・・・」
ロマ 「え、そもそもこんな大勢呼んで・・・今日私ら何で集められたの?」
ナツ樹 「・・・それは、ほら・・・(自分の手を回し揉む)」

 穂村とエリオも気まずそうにロマに微笑む
 ロマの携帯に着信が入る

ロマ 「・・・あ、ちょっと待ってね・・・丁度電話かかって来たから・・・いいよ、わかったよ。買ってくるよ・・・」
エリオ 「あ、本当ですか!」
ロマ 「(電話を注視しつつ)じゃあ・・・とりあえず後ほど・・・。(電話に)もしもし・・・?」

 電話をしながら去るロマ

ナツ樹 「あ!南口の方のまいばすけっとじゃないと置いてないから〜!」

 ロマ、通話しながらこちらを一瞥する

ナツ樹 「・・・よっし、これで時間稼いだ!」
穂村 「こっちは100%善意でやってるのに嫌がらせしてるようにしか見えないのが辛いですね・・・」
エリオ 「ま、すぐに疑いは晴れるからもうちょっとの辛抱ですよ・・・。(客たちを見て)さあ、今のうちに早く!」


【2.昇荷/Lift Up】

 以下は、あってもなくても良いような会話なので、実際の客人数に合わせて適当に

穂村 「そ、う、し、た、ら・・・、一気に行くと玄関混んじゃうし、3 当分くらいずつ 行きますか(団地の部屋を指す)。鍵かかってるし、最初ナツ樹さんがいいですよね」
ナツ樹 「かなぁ?」
エリオ 「あ、さっきお渡ししたメッセージカードに番号振ってあるんで、それ使います?」
穂村 「あー、じゃあそれの 1 番から・・・えっと、」
エリオ 「えー、3 当分だから、まず全部で・・・x 人だから・・・」
穂村 「まず 1 番から x 番ですかね」
ナツ樹 「ん?最初が一番多い人数で大丈夫?」
穂村 「ああ、僕んとこでも別に大丈夫ですけど・・・」
ナツ樹 「いや、穂村さん面倒なら全然最初の俺でも大丈夫って意味で言っただけど」
穂村 「はい、じゃあそれで〜・・・」
ナツ樹 「うん。・・・え、どっちのそれ?」
エリオ 「どっちでもそんなに変わらないでしょ!じゃあ・・・まず 1 番から x 番の方、ナツ樹さん案内する感じで・・・」
ナツ樹 「あ・・・はーい・・・じゃあ 1 番から x 番までの方、付いて来てください。階段では話し声とか足音とかお静かめにお願いします」

 ナツ樹、お客さんを連れて階段を 3 階まで上がり、部屋に案内する
 土足用マットを敷いて、靴袋を渡し、席に座ってもらう
 いいタイミングで残りの客の半分くらいを穂村が案内する

穂村 「はーいじゃあ次は x 番から x 番までの方、付いて来てください。階段では話し声 とか足音とかお静かめにお願いします」

 穂村、お客さんを連れて階段を 3 階まで上がり、部屋に案内する
 土足用マットを敷いて、靴袋を渡し、席に座ってもらう
 いいタイミングで残りの客のをエリオが案内する

エリオ 「はーいじゃあ残りの方、付いて来てください。階段では話し声とか足音とかお静かめにお願いします」

 エリオ、お客さんを連れて階段を 3 階まで上がり、部屋に案内する
 土足用マットを敷いて、靴袋を渡し、席に座ってもらう


【3.前説/Introduction】

 室内にて
 ♪:Rei Harakami – owari no kisetsu
 全員着席したら
 集金 ¥2,XXX(にせんエックス円)を瓶の中に入れてもらい、手の消毒を行う
 ¥2,XXX とは、最低 2 千円と、個々人の裁量で返金のいらない可変額を入れてもらう事
 2 千円以上分は「会費の足しになる」とアナウンスしておく
 トイレに行きたい人には行ってもらう
 エリオは台所の方に用意をしに行く
 部屋の中はぞんざいでボリュームのスカスカな誕生日の飾り付けがしてある
 諸々整ったら

エリオ 「さて・・・これで全員集まりましたかね、ロマさん本人以外は」
穂村 「ですかね」
エリオ 「じゃ、そろそろ最終確認しちゃいますか・・・!いいですよね?ナツ樹くん?」
ナツ樹 「えっ?いいんじゃない・・・?」

 ♪:The Flaming Lips – Abandoned Hospital Ship

 [エリオ、客に説明と諸注意を始める]
・エリオ 「皆さん、本日は栗宮ロマ2021年生誕祭にお集まり頂きありがとうございます。あ、私は友人代表の笹田島エリオ(ささだしまエリオ)です。まず何点か諸注意だけ・・・」
・エリオ 「もう殆ど住んでいる人は居ませんけれど、一応集合住宅のお部屋になりますので、お静かにお願いします。室内もそうですが、階段でのお話し声や足音、建物の前などでもお気をつけいただければと思います」
・エリオ 「申し訳ないんですけど、団地は底冷えするかもなのでご自分で体温調節はしてください」
・エリオ 「人が集まるとウィルス感染のリスクが高まります。(消毒液が設置されていますので、 ご自由にお使いください。ご希望の方にはマスクもお配りします)」
・エリオ 「誕生日会の間、途中でどうしても具合が悪くなられたり、帰る必要が出てきた場合は、私か、この方(ナツ樹・穂村ら)に遠慮なく仰って下さい。ご自分で動ける場合は、そちらの出入り口からお帰りいただいても大丈夫です」
(・ナツ樹、ドアの開け方の説明をする )
・エリオ 「それと、携帯電話やスマートフォンなどは・・・そこまでやる必要あるのかって話ですけど、ロマさんお祝いする時に鳴ったりしたらまずいので、音と光が出ないようにだけ設定をお願いします」
・エリオ 「あ!そうだ。先程皆さんにお渡ししたバースデーカード、集めてロマさんに渡すつもりなので、よかったら今日の帰るまでに書いて下さいね。帰る時私に渡してくれるか、お席に置いといてもらえたらちゃんと渡しておきますので」


【4.遮波帽子/Metal Hats】

 エリオ、諸注意が大体終わると

エリオ 「あれ、ナツ樹くん、今何時?」
ナツ樹 「えっ!・・・xx時xx分だけど」
エリオ 「まずい、ロマさん買い物行かせてから10分くらい経ってる!もう準備完了させないと!」
穂村 「おぉやばい。ですね!」

 エリオ・ナツ樹、台所の方へ
 ♪:F.O.
 穂村、部屋のぞんざいな飾り付けを見る

穂村 「え、ナツ樹さん、ちゃんと飾り付けやっといてくれました?全部でこれですか?」
ナツ樹 「あぁ・・・一応ね。あとこれとか」

 垂れ下がっていた紐を通されたフェルトのようなものを穂村に見せる

穂村 「あぁ〜「おたんじょうびおめでとう」の・・・!じゃあロマさん戻って来ちゃう前にこれも張っちゃいましょうか」

 穂村、フェルトを部屋中央に張ろうと広げる、と

穂村 「って、これ!「じびょう おおめ たんとうで」になってるじゃないですか!ちゃんとやって下さいよ!」
ナツ樹 「ん?あ、本当だ、気づかなかった・・・」
穂村 「どんな間違い方ですか!あ、あとそうだ、ちゃんとダイソーでパーティ帽子買っといてくれました?」
ナツ樹 「あ・・・あぁ!一応。それっぽいやつなら・・・えっと・・・」
エリオ 「あ、これですかー?」

 エリオ、台所側から大きな紙袋を持ってくる

ナツ樹 「あーそれそれ!」
エリオ 「あれねー。(帽子かぶるジェスチャー)ちょっとバカっぽくてつけるの恥ずかしいけどね(笑)」
穂村 「まぁまぁまぁ・・・それ込みでの誕生会みたいなとこあるじゃないですか(笑)」

 エリオ、袋からアルミホイルでできた円錐形の帽子をひとつ取り出す

エリオ 「・・・えっ・・・気持ち悪・・・」
ナツ樹 「うん。まあちょっと違うけど、これでよかったら」
穂村 「何がどうなってこれに・・・?」

 エリオ、アルミ帽子をいくつも取り出す

ナツ樹 「いや、昨日一生懸命作ったんだよ。百円ショップにパーティ帽売ってなくて」
穂村 「よりによってアルミホイルで!?」
ナツ樹 「かたちを成型しやすい素材だし・・・光沢感もあるし・・・」
エリオ 「そういう問題?ちゃんとパーティ帽子探した?」
ナツ樹 「ちゃんと探したよ!・・・これは俺の憶測なんだけど、3月生まれは統計的に少ないからそもそも入荷が少ないんじゃないかって思って」
エリオ 「は?」
ナツ樹 「いや、ほら、3月生まれは月の中で一番少ないんだよ!ほら4月に移動させちゃうから、3月に生まれたとしても。同じ学年の中でも3月生まれだと発育が一番遅くて不利になるから、いっそ次の学年の4月生まれって事に改ざんしてしまう人が多いの。だから3月生まれの人は極端に少ないんだよ。そのせいで3月には誕生日帽子がそんなに売れないから、そもそもの入荷も少なくて、なかなか売ってない。・・・多分!うん!(稲川淳二が暴論を言う時の言い方で)」
穂村 「そんな訳ないでしょ!一番生まれが少ないのはどう考えても28日までしか無い2月ですよ!」
エリオ 「ちゃんと探さなかったでしょ・・・」
穂村 「(1つ手に取り)全員でこれ被るってのも・・・」
エリオ 「バカっぽくて恥ずかしいどころじゃないよね・・・」
ナツ樹 「(腕を組む)hmmmm・・・」
穂村 「でももう早くしないとロマさん戻って来ちゃうんじゃないすか?」
エリオ 「・・・あ!そっか!・・・まあ・・・今更用意する時間も無いし・・・とりあえず被りますか」

 エリオ、前の方の客数名だけにアルミ帽子を配る

穂村 「そしたら・・・家入って来たと同時にいきなり「ワーーーおめでと〜!」(大勢が叫んでいる声を一人で表現するときの発声で)みたいなのがいいですよね?」

 3人、アルミ帽子をかぶりつつ電気を消したりカーテンを閉めたりしながら

エリオ 「・・・そう、あれだ!歌歌います?」
穂村 「あぁ! ♪ハッピィーバースデ〜トゥーユ〜・・・(スティーヴィー・ワンダーの『Happy Birthday』)」
ナツ樹 「♪ハッピーバースデー、ハッピーバースデ〜(電気グルーヴの『HAPPY BIRTHDAY』)」
エリオ 「・・・じゃーなくて、普通にトラディショナルなやつ・・・」
穂村 「あぁ、♪ハッピバースデートゥーユーw(笑いつつ)の(笑)。あれも一応まだガンガンに著作権あるらしいですけどね」
ナツ樹 「(宙を見て)え、名前の部分は何にする? ♪ハッピバースデーディアローマー? それとも♪クリミヤ〜?」
穂村 「♪ローマさ〜ん?」
エリオ 「それだと字余り感あるし普通に ♪ローマーでいいんじゃない?」
穂村 「じゃあ ♪ローマ〜 で(笑)」
ナツ樹 「・・・あ!みんな隠れてて、ワッ!って一斉に出て来た方がいいんじゃない?」
穂村 「(客側を見て)こんな大人数隠れられるかな?」
エリオ 「あ!じゃあここ閉めて・・・」

 エリオ、玄関側にあるカーテンを閉め、自分は客席側に混じる

ナツ樹 「(客に)いい?ロマが入ってきたら、こっちの玄関のとこで止まってもらって、俺が「せーの!」って言うから、そしたらハッピーバースデー歌って、名前んとこはローマーね?・・・あ、でもあんま大声出すと怒られるからみんな小声で!小声が集まって結果的に中くらいの音量になる感じで!」

 ナツ樹、クラッカーを持ってカーテンの裏に隠れる

穂村 「そしたら僕、ケーキに花火つけて台所の死角に隠れてますね・・・!」

 3人、準備をしていると
 玄関のチャイムが鳴る

エリオ 「(あ!)------!(客の方に目をやり、口に人差し指を当てシーっとやる)」
穂村 「はーい!」
ナツ樹 「入ってきて〜〜〜!」


【5.追い出し屋/The Evictor】

 何者か、玄関から入ってくる

ナツ樹 「・・・ハ、♪ハッピバースデートゥーユー・・・」
全員 「♪ハッピバースデートゥーユー ♪ハッピバースデーディアローマ〜〜〜 ♪ハッピバースデートゥーユ〜〜〜」

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