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個体

 じわじわと暑い。纏わり付く湿気が、熱を帯び始めている。
 夏が来ようとしている。

 一年の中でも、夏が一番好きだ。感傷的になるのを許される秋も、ゆるゆると解けていくような春も好きだけど、夏には到底及ばない。
 冬に至っては、考えるのも嫌になる。雪深い東北出身ではあるが、冬だけは無理なのだ。脈拍が弱まり、心拍数が落ちていく。体は縮こまり、体液も血液も髄液も冷え切り、巡るのを諦める。
 冬が来ると、あぁ自分もやっぱり動物だなと思うのだ。全身の機能が落ちていき、まさに冬眠の態勢に入っていく。けれど、冬眠を許されない人間の立場ゆえ、固まりゆく体をぎしぎし言わせて日々を回していくのだ。

 それに比べて、夏はなんて伸びやかなのだろう。降り注ぐ太陽のなかを、軽やかに闊歩する。夏の何が良いって、布が少ないのが一番良い。さらりと纏った数枚でそのまま外へ出て行ける。最高だ。
 冬はこうはいかない。手袋にマフラーにブーツに、アウター。そう、アウター。嗚呼、アウター。体の自由を奪うコートやジャケット。重たく、分厚く、大抵モノトーン。気が滅入る。

 将来、夫の国へ移住して、南国の海沿いでワンピース&ビーサン生活を送れたら。それは何も輝かしい希望なんかではない。
 死活問題の解決のためだ。木枯しが吹き始めると冬眠態勢に入ろうとするこの体では、そのうち冬を越せなくなるだろう。日本が冬の間だけでも南国で過ごしたいと考える。
クジラも鶴もヌーもハチドリもガチョウも冬には南に移動するらしい。やはり私は動物的なのだ。心底残念だが、きっと進化に失敗した、原始的な個体なのだと思う。


無地の服が多い私だが
夏は柄が着たくなる


つぶつぶ


ひらひら


うねうね




#お花の定期便 (毎週木曜更新)とは、
湖嶋家に届くサブスクの花束を眺めながら、
取り留めようもない独り言を垂れ流すだけの
エッセイです〜



ぇえ…! 最後まで読んでくれたんですか! あれまぁ! ありがとうございます!