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残ってしまう

書く時間を捻出することに精一杯で、なかなか読めない。というのはよく聞く話で、私もこの土壺にはまっている。
椅子に座り、両手で本を開き、そのままの姿勢で居続けるということが、まず難しいのだ。
息を切らしながら町中を駆けずり回っているか、家の床という床に散乱する数々のがらくたを拾い集めているか、やっと席についたかと思えばそこは職場のデスクで、“全員に返信”ボタンを即座にクリックし、株式会社…ご担当者様…と流れるようにキーボードを打ち始めるかだ。早足でたどり着くのは社食のテーブルで、定食をかき込みスマホを出すや否や私の指が真っ先に捉えるのは下書きボタンだ。
ーー読めない。
いつになっても、読むときがない。

ーーー

赤や黒や紫、様々な色で塗りたくられた日々の中に、生き残りのような小さな空白を見つけると、私はここぞとばかりにスマホを手に取り、タイムラインをスクロールし始める。
そこには私の知らない世界、見聞きしたこともない話、確かに感じたことのある懐かしい感情、いつの間に忘れかけていた決意、などが溢れているのだ。
きっと読むことが、書く私の栄養素となる。きっと書く手を止めて読んだ方が、より深くを書けるようになる。
そう思うのに、それはきっと真実なのに、今年読めたnoteは一体幾つだったろう。

それでも読めたnoteはどれも個性的で味わい深かった。どれも私の中に蓄積され、私の感情や思考と一部混じり合ったりなどして、腐葉土のように私自身を豊かにしてくれている。

その中でも、読み終わってから幾度も幾度も不意に立ち上がってくるnoteがあった。
経験したこともない情景、口にしたこともない台詞が、ありありとその体温や湿度をもって私の奥で立ち上がる。一週間後、一ヶ月後、きっと一年後もふとした瞬間に湧き上がってくる。

冷えた外気にさらしても滲み出てしまう熱り。一定の距離を保ちつつも既に絡まりかけている互い。子供と大人のちょうど間。踊り場のような夜に舞う光の粒。
ひとりで開けるアパートのドア。真っ暗な玄関から繋がっている現在。
それは景色ではなく、情景。何度もリピートされ、思わずその続きすら描いてしまうほどの、情景。

2021年、私を離さなかったnoteはこちらでした。



そのトーンや速度の落ち方まで残っている。いや、残ってしまっている、と言った方が正しいか。

来年はもっと読んでみたい。そして、自由自在に無遠慮に私の中に残ってしまう作品に多く出逢いたいと思っている。



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読書感想文

ぇえ…! 最後まで読んでくれたんですか! あれまぁ! ありがとうございます!