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【よみがえる遺産】 湖嶋いてら『覚悟を食べる』

赤い通知がくっついたメールマーク。
触れるとパッと開いて、飛び出してきたのはヤギさんだった。

メールの送り主は、真っ白なヤギさん。
こんな、童謡の中に滑り込むような、おとぎ話のようなことがたまに起こるから、現実は愛おしい。
思わず緩んだ頬をそのままに、画面をスクロールする。
ヤギさんは、柔らかな風にお髭を揺らしながら、穏やかな瞳で私の名前を呼んだ。

「いてらさん、こんにちは。」

いきなりで申し訳ないですが、と紳士的な前置きをして、ヤギさんは続けた。

「当方からいてらさんにバトンをお渡ししたいのですが。」

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バトン。

バトンが次から次へと継がれて、noteの街中を走り去っていくのを見たことがある。
その頃、私はこの街に足を踏み入れたばかりで右も左も分からなかったが、あのバトンが私に回ってくることだけはないだろうと、それだけはしっかりと分かった。

きらきらと輝くバトンは、それを次々と手にして走ってゆくランナーの輝きを乗せて、さらに眩く光った。

飛び交う声援の後ろ、沿道の奥からその輝きだけを目で追っていた。

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「涙がちょちょぎれます。」

そう即答した私に、ヤギさんは雄叫びをあげて、自分のことのように笑ってくれた。

そして、バトンは、本当に、手渡された。
自分の書いたnoteの中で、一番読まれたnoteを紹介するというこのリレー企画のバトンが。

山羊メイルさんは、ご自身のnoteを丁寧に振り返りながら、ひとつの集大成とも呼べるnoteを発表した。

彼のnoteを読むと、私の脈は早くなる。

そっと作品の中に足を踏み入れた私を、ゆっくりと踏みしめながら歩く私の腕を、得体のしれない何かががっちりと掴む。そしてそのまま徐々に加速していく。そのスピードと一体化して、私の両足もどんどん回転していく。
どこまでも連れ去られていく感覚。
もう戻れない感覚。
襲ってくる高揚と恐怖。
あぁもう駄目だ、この世の果てまで連れて行かれる。
そう観念した途端に目の前に広がる静寂な夜空。
そんな体験を、幾度もした。



例えば、火照った心と汗ばむ身体で、夜空の下、ぼう然と立ち尽くすしかなかったnoteがこちら。

こんな作品を書いてしまう方からのバトンだ。落とさないように受け取って、しっかりと握りしめて走る。

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この企画の凄いところは、人さまのダッシュボードが覗けるというところだ。ずっと追いかけて読んできたあのクリエイターさんの、お部屋のようなプライベート空間を覗き見したような妙な興奮があるのだ。

それでは、私のお部屋へどうぞ。

まだまだ貧弱な数字だろうか。
それでも、私にとっては抱きしめたい数字である。一人ひとりの、読み手さんから成り立つ愛しい愛しい数字だ。

そして、PV数1番の作品はこちら。

「かわいそうにな…。」

インドネシア人夫が、スマホのタイムラインを見つめてそうつぶやいた。遠く海の向こう側の妹から届いた、絵文字だらけの賑やかな文面を見つめていた。

けれど私の脳に浮かび上がったのは、どこまでも凛としてどこまでも揺るぎない、母になったばかりの若い彼女の覚悟だった。

親から子に、脈々と流れていくもの。
それらは実は流れていたんじゃない、力ずくで流していたんだ、と気づいた日のエッセイ。

こちらのPVに伸びが出たのは、note編集部の#エッセイ記事まとめに入ったからだ。
ひとり、ぽつぽつと書いたnoteが、徐々に広がっていくのを観た。

noteを始めたばかりの頃。
大きく振りかぶって紙ひこうきを飛ばすように、意を決してnoteを空に飛ばしても、何一つ世界が変わらなかったあの頃。
あの頃から、私を見つけて読んでくれていた山羊メイルさんからのバトン。それは、私が遠目に見つめているだけだった猫野サラさんとサトウカエデさんの体温をも乗せている。

あ。ほんとに涙がちょちょぎれそう。

そこにこの体温と涙をそっと乗せて、次のお二方に、手渡したいと思う。

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まずは、地中海性気候さん。
この方も、noteに不慣れながら地味に書いていた私に、温かい言葉をかけ続けてくれた方。
この方の文章に含まれるどっしりとした愛情は、読んでる私の腹底に深く根を下ろしていく。

こちらの作品【サバイバル】なんて、締めの文章も、後書きまで、まさに最高。

そして、もうお一方は、塩梅かもめさん。
この方には、憧れと感謝が入り混じった感情を抱いている。
いてらちゃん!と私のことを呼んでくださる唯一の方。「書いてみて!」と、私を光の方へ導いてくれた方。いつか、お会いしてお喋りしてみたい、と、人見知りの私に思わせてくれる方。

そして、こんな一途な、心を震わせる作品を書かれる方。じんわりと瞳が濡れていく。

こんなお二方にバトンを手渡せる幸せ。
どんな遺産を目にできるのか、note、楽しみにしております!

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最後に、チェーンナーさん。
あの頃遠くから目で追うしかなかったバトンを握らせてもらう機会をいただき、ありがとうございました。財産となりました。

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ぇえ…! 最後まで読んでくれたんですか! あれまぁ! ありがとうございます!