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私が家を出た日

2月11日。

3年前の3月30日。
7:00。
お父さんが、まだ、眠っていた私を優しく起こして「気をつけてね。困ったことがあったら言うんだよ。」と声を掛けて会社に行った。

7:30
布団から出て荷物を詰め込んだバックと段ボールを車に詰め込んだ。

まだ高校2年生だった弟は、春休みをいいことに布団の中で眠っていた。
お母さんは、「これもいるんじゃない?」
と持っていく荷物を増やしていた。

本当にもうこの家で家族4人で住むことがないということを、私は、これっぽちも意識していなかった。少し長めの修学旅行に行くみたいな感覚だった。

まだ眠っていた弟を起こして
「じゃあね。また、夏に帰ってくるね」
と言ったけれど、意識が朦朧としていた彼は
「うん」とだけ言った。

お母さんは久しぶりに高速を運転するのよと言ってお父さんから貰ったメモを頼りにハンドルを握った。途中パーキングに寄って、うどんを食べて、何時間か掛けて到着した。
私が大学の新入生オリエンテーションに行っている間に、お母さんは車に積んでいた荷物を全て部屋に運んでいた。
「何往復したと思ってるのーー!」
と、疲れ果てた顔で言いながら。

その日は、母と2人で同じ高校から同じ大学に行くことになった友人を誘って、地元のイオンと変わらないショッピングセンターの和食屋さんでご飯を食べた。

次の日は、入学式だった。
慣れていないメイクをして、急いでストッキングを履いたら破れたので、コンビニに買いに行き、時間ギリギリに家を出た。母が、「こっち向いて」と私に声を掛け、撮った写真にはスーツ姿で、薄ら笑いの私がうつっている。

このあと、私は入学式の会場だと思っていた場所に行ったのだが、完全なる勘違いで、慌てて、本来の会場に向かい、結局遅刻をした。
(そして、同じように遅刻をし、互いに励ました男子とこの前偶然再会した。2人とも覚えていなかったが、偶々この話をすることになり、そこで発覚した笑)

入学式が終わってから、夕方くらいに仕事終わりのお父さんがバスでこっちまで来た。
3人で車に乗って家具と家電を探しに行った。
探し回ったけれど、結局、ほとんど買わなかった。笑

その日の夜近くにある中華店でご飯を食べた、餃子が信じられないくらい焦げていて3人で笑った。

歩いて3人で私の新しい家の前まで行って、父と母は、車で帰って行った。「元気でね。ちゃんと、食べるのよ。いつでも帰っておいでね。」と母はいつものように言った。
「着いたら連絡するわ」と父は手を振りながら言った。そして私はいつものように「わかった」と答えた。

1人の部屋に戻ると誰も居なかった。そこまで悲しくなかったけれど、毎晩、聞こえていた、

「明日の予定はー?」
「おやすみ」
「冷蔵庫にあるアイス食べないでねー」
「早く寝なさいよ」
「先に風呂入るね」
「お姉ちゃんーこれ貸してー」
という声は聞こえなくて、この会話が全て私の当たり前でもう、ないのだということに気づいた。

明日は今日買えなかった雑貨を買いに行こうと予定を立てながら、布団に入った。

そして誰もいない部屋で私はこれから始まる新しい生活を思い描いた。

大きな希望と少しの不安と寂しさが、1人の夜を初めて迎えた日の私に、言葉にできない気持ちとして残った。誰の声も物音も聞こえないことが、こんなにも静寂を生むなんて知らなかった。家族に干渉されたくなくて、1人暮らしをしたいとずっと思っていたのに、誰も知らない街で、誰にも見向きもされないことがこんなにも寂しさを生むのだと初めて感じた。
まだ1日目だというのに、涙が流れそうになったけれど、堪えた。
これが私が望んだ新しい生活のスタートなんだと。


それから3年。
今では住み慣れた街、行き交う人の中には知りあいも居て、近所のコンビニは、行きつけになって、店員さんの顔も覚えてしまった。
3年経っても静かな夜は、少し寂しくなって、実家のご飯が恋しくなるけれど。私の生活が、私しか知らない私が、暮らしが、確かにここにある。



来月。
私が家を出たとき、高校2年生だった弟が、家を出る。彼も当時の私のようなこんな気持ちになるのだろうか。いや、もしかしたら、やっと家を出ることができたと清々した気持ちが強いかも知れない(笑)でも、そんな彼が家を出る日には、伝えたい。
「きっと、新たな出逢いと楽しさが待ってるよ。」
そして多分、手を振る父の横で、母は、こう言うと思う。
「元気でね。ちゃんと、食べるのよ。いつでも帰っておいでね」


私が家を出た日、それは、新たなスタートと家族のあたたかさと初めての寂しさと不安を感じたそんな日だった。





新生活を始める誰かへ、1人暮らしで寂しい夜も必死に乗り越えている誰かへ、頑張ってこーね。3年経っても寂しい夜だけはやっぱり慣れないけどね(笑)





それではまた。

百。

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