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優しい彼の優しい嘘

12月8日。

昔の友人の話し。
恋人でも好きな人でもなかった。
ただただ大切な人だった。
今までもこれからも。




成人式で5年ぶりに会って
いつかと同じように話した。

あの漫画の最新作読んだ?
あのとき喧嘩したの覚えてる?

そんな20歳になったのに15歳の頃と全く変わらない会話と空気。

彼は私の隣に立って
母が構えたカメラを見てた。
私以上に彼に会えたことを嬉しがっていた母は根掘り葉掘り彼の近況を聞いてた。


成人式が終わってから数ヶ月経った春。
彼が今住んでいる街に行った。

あの漫画の最終巻だけは必ず読んでね
次帰省するときは連絡してね

そう言うと彼は
読んだら連絡するよ
わかった

と答えた。


そう言った日から3ヶ月。夏。

夏休みいつ帰るの?
まだ決めてないよ。
私〇日まで帰省してるの。
なら、もしその日までに帰ることになったら連絡するよ。


彼は私が連絡してねと言う前に
連絡するよと言ってくれる人だった
私が必ず読んでねと言った漫画を報告なんてしなくていいのに読んだら言うねと言ってくれた


「連絡するね」


その言葉だけで嬉しかった。
十分だった。

でもそれは僕から連絡するまでして来ないでね
という優しい彼の優しい嘘だった。


そんなことに私は、夏が過ぎてから気付いた


もう待ってないよ。
待たないし送らないよ。




百。

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