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2024年版 英国勅許公認会計士(ACCA) 受験ガイド

勅許公認会計士協会(ACCA)所属の itchy_hassyです。
現在は英国の日系企業勤務です。

1994/5-2001/2に英国駐在していたころにACCAの資格取得をしました。

ACCA受験についてはおススメしないという記事を以前書きましたが

最近は逆に「おススメします」という記事や、US CPAと比較する記事なども見かけるようになり、「あれ? 試験が易しくなったのかしらん?」と思い、再度更新版を書こうと思いました。

良くなった点


1.     受験しやすくなった
以前は半年に一回、試験会場でのペーパー試験だったのが、今はオンラインでの受験。
自宅での受験も可能。
一部はオンデマンドで都度受験(BT, FA, MA, LW)

2.     特定の国の基準に縛られなくても良くなった。
私が受けた時は、会計、監査、税務のペーパーはUK基準であったが、これらが特定の国に引っ張られないペーパーで受験可能となった。
(ただし、後述のPracticing certificateの項や、現地で働くことを想定した場合にそれで良いかという検討は必要)

引き続き難しい点

1.     圧倒的な英語力が必要
私は大学時代にTOEIC 870点、でも英検1級は一次試験敗退。
ロンドン勤務になって米国の証券アナリスト資格CFAに合格、その後当時の英国の証券アナリスト資格AIIMRを取得、その後にACCAの勉強を開始。それでもひと科目3時間の筆記はしんどかった。
それを経て帰国したら、英検1級で優秀賞をもらったりケンブリッジ英検CPE(C2)でB合格したりしたので、ACCAで鍛えられたというところもあるとは思う。

会計や税務で、数字をたくさん書いていくペーパーは良いが、それ以外の科目、筆記はなかなか大変。
アメリカと違ってビジネススクールが広まらなかった英国では、会計プロフェッションがビジネスパーソンを作っていくという部分があったと思う。なので試験科目も多岐に渡っており、会計バックグラウンドの社長さんが多い。(個人の感想)

2.     実務経験を積む機会が日本だと乏しい
試験に合格しただけでは英国勅許公認会計士とは名乗れず、3年間の実務経験が必要。以前は、英国の勅許会計士、あるいは勅許公認会計士の上司の指導を受ける必要があったが、現在は国際会計士連盟所属の会計士団体の会計士が上司であれば良いとなっている。
とは言え、一般の事業法人等で上司に会計士がいるケースは稀なのではないか。

3.     IFRS使う人って、どのくらいいるのか
(ア)  欧州でもそれほど多くない
そもそもは、欧州の取引所に上場する企業の、連結財務報告書に使用するために開発された基準。単体は税務計算もあるので、現地基準というところも多い。
当時は「単体での使用は禁止」という国も多かった。
今は私はイギリスの非上場会社にいるので、会計も監査もUK基準。IFRSや国際監査基準ではない。2022年までいたドイツの日系企業も非上場会社なのでドイツ基準(HGB)だった。

(イ)  使う場面も多くない。
現地基準がIFRSに近づいている中で、差異が少なくなっている。親会社がIFRS連結をしている場合、あるいは親会社が日本企業で「在外子会社がIFRSやUS GAAPを採用している場合にはそのまま連結決算手続上利用することができる」(実務対応報告第18号)により、子会社からの報告をIFRSで上げさせるケースか。
今の会社もUK基準からIFRS基準に組み替えて報告している。修正するのはリース取引くらいだけれども。

(ウ)  日系企業の場合
のれん会計が異なるとよく言われるが、のれんが問題になるのは連結決算。のれんが問題になる企業がそんなにたくさんあるか。
東証にIFRSで開示している企業がかなりあるが、海外にもIFRSで上場しているケース、外国人株主が多いので比較可能性のためにIFRSを採用しているケースなのではないか。(要確認)

4.     独占業務ではない
(ア)  監査以外は「資格が無いとできない」という業務はない。その監査もAudit Report にサインするには資格が必要というだけで、それ以外の人は資格は不要。普通に経理部門で働くなら資格は不要という国がほとんどではないか。

(イ)  Audit Report にサインするということになると、さらにPracticing Certificateが必要で、ACCAの資格取得だけではできない。

この場合、英国で監査のCertificateを取ろうとするなら、上述の税務や法律などの試験科目(LW, TX, AAA, SBR)は、UKバージョンでないとダメ 。
また、この場合、別途実務経験が必要となり、ACCAに認められた雇用主の元での経験が必要。

5.     複数の国で認識されている? 資格互換? 結局所在国の会計士には負ける
(ア)  複数の国で認識されている
歴史的には、途上国で会計士制度が整っていない国にACCAが仕組みの導入のサポートをしたことから、世界各地にACCAがある。
その関係で、ACCAの名前が知られているというレベルの話。US CPAが日本で認識されているというようなレベル。

(イ)  資格互換
上述のとおり、監査証明にサインしないのであれば、どこの国でも資格があろうがなかろうが働ける。よって、ACCAの資格取得したから、職業選択の可能性が広まるというわけではない。
ただ、その国の会計士協会にそのまま入れるか、追加の試験を受けて入れるか (そしてその国の会計士を名乗れるか)ということはある。
例えば私がMalaysiaで働こうとする場合、そのままマレーシアの会計士協会に入れそうだ。これができる国は決して多くない。

ではなぜそうしたいと思うのか。UKとMalaysiaと両方の会計士協会にお金を払うことになると思うが。
これは、現地の会計士との情報交換などのネットワーキング、継続教育のためのセミナーなどへの参加を目的とする。それを狙わないなら現地会計士協会に入る必要はない

Brexit により、EU諸国とのMutual Recognition Agreement も終わってしまった。

(ウ)  入口基準
ACCAの受験資格は大卒であることを要求していない。この入り口の入りやすさがメリットなのだが、これを理由に米国の公認会計士協会は英国の会計士との相互認証をしなかったと大昔に聞いた。(日本の公認会計士資格が海外で相互認証されないのもそれが原因か)
IAESB (International Accounting Education Standards Board) も、入り口を大卒以上とする基準を出すことを検討していたが、結局必要以上にハードルを上げないようにということで、見送りとなった。
IES (International Education Standard) 1 “Entry Requirements to Professional Accounting Education Programs (Revised)” をご参照

(エ)  現地会計、現地法、現地税務
結局のところ、その資格を前面に押し出してその国で働こうとしたら、その国のルールを知らなければならない。現地色の無い試験に合格した場合にどのくらいアピールできるか、即戦力になれるか。次の項もご参照

6.     現地に行って働こうとする場合、戦う相手はは現地の人
(ア)  イギリスには科目合格者多数
科目合格者は多数いるので、科目合格だから「すごいね」ということにはならない。

(イ)  イギリスでは勅許会計士の方がステータスは上
勅許会計士は基本は監査法人でのトレーニングが必要となるので、海外からでは受験不可なことから話題に出ないが、英国では勅許公認会計士より勅許会計士の方がステータスは上である。
他の国でも現地の会計士資格があるならそちらの方が強いだろう。

(ウ)  同じ資格なら英語力、現地基準
現地で働こうとするならば、科目合格者であれは、資格取得者であれ、現地語のできる人が優先されるであろう。
前述の、現地ルールに基づいたペーパーで合格しているかどうかも差がつくのではないか
ちなに私は英国基準での受験だったが、税法が毎年変わるので大変だった。

(エ)  日系企業絡みならありか
日本語もできて、現地会計・税務基準もある程度わかって、現地語もできるポジションというのはありかも知れない

7.     継続教育義務(CPD)
資格取得後も毎年40時間の継続教育義務(うち20時間は勉強会参加など証明が取れる活動)が続くので、なかなか大変。

8.     結論
ここまで書いて、やはり現地で既に働いている人がその国でACCAの資格取得を目指すというのでなければおススメできない資格だという気がする。
とりあえずキャリアチェンジとかアピールという点からは、US CPAが良いと思う。
IFRS知識アピールするならAbitusがやっているICAEW(イングランド・ウェールズ勅許会計士協会)のIFRS Certificateが簡単で良い。70時間の勉強時間とICAEWが言っている。これは別に独学で良いと思うが。

あるいはACCAのCertificate in International Financial Reporting (CertIFR) (約20時間)

ACCA のDiploma in International Financial Reporting (DipIFR)は受験資格に制限あり。150時間から200時間くらいか。

こちらは大昔に飯田橋のブリティッシュカウンシルで受験したが大変だった。
連結の相殺消去、少数株主持分まで計算させられ、連結実務をやっている人でなければ無理。お勧めしない。
昔(2011年)AbitusがこのDipIFR向けのコースをやるというので説明会にも行ってきたが、2012年にはコースが無くなっていた。


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