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『いちご白書』をもう一度

 荒井由実作詞の曲「『いちご白書』をもう一度」は学生運動が激化した1970年代に、武力で訴えても学生の力ではひっくり返らないのだと国の大きな存在を知って挫折した貧乏学生が、それでも確かにここにはあったという恋愛を歌った四畳半フォークだ。私は中森明菜さんのカバーでその存在を知った。

 『いちご白書』はコロンビア大学の学生が大学の運営に猛反発して行った学生運動に対して、学部長が「学生のしたことなど、いちごが好きだといった程度の内容だ」と揶揄してしまうという内容を原作とした映画である。曲のなかで「僕」は自身の過去の青春と映画を重ね合わせる。

私が一番好きなのは次の歌詞である。

就職が決まって髪を切ってきたとき
もう若くないさと君に言い訳したね

周囲に流されて一つの思想やイデオロギーに傾倒してありがたがるように信じた並々ならぬ情熱が挫折によって徐々に鎮まって、ついに彼は就職のために大人しく髪を切った。「髪を切った」この呆気のなさが情熱の質量を示しているのだと解釈する。
世の中に反発していたころの自分とはかけ離れた大人しい姿を、恋仲の人に見られて恥ずかしくなり言い訳するのは人間のかわいげであり愛おしい。

 そうだ、書いていて思ったけれど、この曲はずーっと愛おしい、と思える曲である。とにかく、私の一番好きな曲である。

 

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