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第3章: SNSを活用したコンテンツ発信と口コミ戦略


3-1: SNSの活用: デジタル時代の必須ツール

 ある日の午後、店が閉まったあとの「サトコのお弁当」。その店内には、彼らの新たな試みに向けて集まったメンバー、ユウキ、マユミ、そしてオーナーのサトコがいた。
 これから彼らが取り組むのは、新たな挑戦――SNSを活用したお店のプロモーションだ。若者であるユウキとマユミにとっては身近なツールだが、ITにそれほど明るくないサトコにとってはまだ未知の領域だった。

 ユウキが大きな声で説明を始める。

「SNSは今の時代において、ビジネスを拡大するために欠かせないツールです、サトコおばさん。それはなぜかと言うと…」

 彼は説明を始める。SNSがどれほど多くの人々の生活に密着しているか、その使い方一つでビジネスの成功に大きく影響を及ぼすことができる、と。 そして、それを具体的に説明するため、ユウキは自分のスマートフォンを取り出した。

 ユウキが検索したのは、地元の小さなパン屋さんのInstagramアカウント。そのアカウントには、店で焼き上がったばかりの美味しそうなパンの写真が何十枚も掲載されており、それぞれにはたくさんの「いいね!」やコメントがついていた。また、そのパン屋さんが開催した「#パン屋さんの朝」の写真投稿キャンペーンでは、多くの人々が自分たちの購入したパンの写真を投稿し、それがさらに口コミとして広がっていた。

「これを見てください、サトコおばさん。」

 ユウキがスマホをサトコに差し出す。

「こうした活用方法が、SNSがビジネスにもたらす大きな影響力なんです。僕たちもこれに取り組むべきだと思います。」

 サトコは驚いて目を見開いた。

「これが全部、SNSで広がっているの?」

 ユウキはにっこりと笑ってうなずいた。

「はい、そうなんです。これはただの一例ですが、これが今のデジタル時代の必須ツールなんですよ。」

 彼はスマホを片手に、サトコとマユミの熱い視線を受けながら語り続けた。

 そこから彼らは、自分たちのお弁当屋にどのようにSNSを取り入れるか、どのようにして魅力的なコンテンツを作り出すか、どのように顧客とコミュニケーションを取るかなど、具体的な戦略を話し合い始める。マユミは次第に興奮し、彼女のアイデアが次々と飛び出してくる。ユウキはそれをまとめ、サトコに説明をしていく。サトコもまた、最初の驚きから少しずつ理解してきて、積極的に話し合いに参加するようになっていった。

 その日の会議は夜遅くまで続いた。窓の外ではすっかり日が暮れ、街灯が明滅する頃まで彼らは話し合いを続けた。時計の針が一周するたびに、新たなアイデアが生まれ、次々とノートに書き留められた。

 時折、彼らは疲れて深いため息をつき、頭を抱えることもあった。しかし、その度にユウキがエネルギッシュに立ち上がり、紙に新たな図を描き、マユミが興奮しながら新たなアイデアを提案し、サトコが熱心にメモを取り続ける。その熱意と一体感は、時間が経つにつれて強まるばかりだった。

 そんな中で彼らが出した戦略の一つ一つは、シンプルながらも彼らのお弁当屋の特性を十分に生かしたものだった。そしてそれらは、彼らが目指す地域の人々に対する密着と、一歩ずつ進んでいく確実性を備えていた。一面に広がる紙の上に書かれた計画は、彼らの挑戦と希望を象徴するようなものだった。

 夜が更けても彼らの活気は衰えず、終わりに近づくにつれて、ますますその決意は固まっていった。最終的には、具体的な戦略がいくつも出来上がり、店内には新たな挑戦に対する期待感が満ち溢れていた。

 ユウキとマユミ、そしてサトコ。彼らは、SNSを活用することで「サトコのお弁当」が一段と魅力的なお店になることを信じて、新たな挑戦を始めることになった。
 リアルタイム性を考えるとTwitter。そして、お弁当のビジュアル戦略を考えるとInstagramだ。まずは、この2つのSNSのアカウントを作り、店のカウンターにアクセスのためのQRコードとお知らせを貼り出した。

「TwitterとInstagram、始めました」

3-2 コンテンツは王様: 魅力的な投稿で顧客を引きつける

 SNSのアカウントを開設してから数日後、マユミとユウキはスタッフルームで並んで座っていた。マユミの女性らしい感性も取り入れて、2人で店のSNS投稿計画を練ることにしたのだ。
 ユウキはスマートフォンの画面に集中し、マユミは紙とペンを手にその傍らで一緒にそれを覗き込む。

「何から始めれば良いんだろう…?」

 マユミがつぶやくと、ユウキは一瞬考えた後、にっこりと笑い

「まずは、お店の魅力を探すことから始めるべきだよね。その魅力を顧客に伝えるのが僕らの仕事だからさ」

と答えた。その言葉にマユミは頷き、二人はすぐに話し合いを始めた。

 まず、最初に取り組んだのは「サトコのお弁当」の商品であるお弁当の魅力的な写真を撮ること。
 綺麗に盛りつけられたお弁当は、その色鮮やかな見た目からも十分に美味しさを伝えることができる。それを上手くSNSで表現すれば、それだけで視覚的な訴求力は格段に上がる。しかし、それは思ったより難しい作業だった。特に、照明と角度の調整には何度も試行錯誤を重ねた。

「これだと少し影が…」
「もう少し右から光を…」

と、ユウキが指示を出し、マユミが照明やカメラの設定を調整する。
何度も何度も撮り直すうちに、少しずつ理想的な画像に近づいていく。最終的に完成した写真は、その美味しさが画面から溢れ出してくるような一枚だった。

 マユミがスマートフォンで撮影した鮮やかなお弁当の写真は、お店の料理の美味しさを物語っていた。しかし、単に料理の美味しさだけを伝えるのでは十分ではないとユウキは考えていた。彼はマユミに

「人々が知りたいのは、ただの商品だけではないと思うんだ。お客さんたちは、お店のスタッフや、その日々の営業の様子、お店の歴史やビジョンについても知りたがっているんじゃないかと思うんだよ」

と語った。そのため、彼らはスタッフの紹介、調理の様子、そしてお店の成長の過程を描いた投稿も行うことにした。

 そこで2人は直接サトコから話を聞き、お店の過去のエピソードや写真について集めていくことにした。
 それらの情報を投稿に活用し、フォロワーたちにお店の成長の過程やスタッフの個性を伝えることにし、その日のメニュー、使用されている地元の食材の情報だけではなく、料理人であるサトコや店の調理スタッフのこだわりなども同時に紹介することで、フォロワーたちにそのお弁当を作る背後にある物語を伝えることができるようになった。
 ユウキはその他にも、ビジネスの視点からの情報や、今後の展望などを伝えることで、お店の魅力を一層引き立てられるようにしてみようと考えてみた。

 しかし、マユミは初めてのSNS運用に苦労した。特に、毎日の投稿のアイデアを思いつくことや、魅力的な写真を撮ることが難しかった。しかし、ユウキは彼女を励まし、

「大丈夫だよ。最初は誰でも難しいと感じるものだよ。重要なのは、一歩一歩進むこと。そして、僕らの伝えたいことがちゃんと伝わっているかを常に考えることだよ」

と話した。

 数週間後、彼らの努力は実を結び始めた。「サトコのお弁当」のSNSアカウントのフォロワー数は徐々に増え、投稿に対する反応も良好だった。特に人気だったのは、サトコが作るお弁当の裏側にある物語を紹介する投稿や、店の歴史やビジョンを伝える投稿だった。顧客たちは、自分たちが愛するお店の想いを知ることができ、その結果、お店とのつながりをより深く感じることができた。

 SNS運用が成功したことで、「サトコのお弁当」は新たな顧客層を獲得し、地元での知名度も高まってきた。ユウキとマユミの試行錯誤を経て、店の魅力をSNSで伝えることの重要性が確認され、彼らの努力が新たな可能性を切り開いたのである。そして、彼らはこれを契機に、SNSで魅力的なコンテンツを作り続けることを誓ったのであった。

 一方でユウキとマユミはSNSでの情報発信の難しさも実感していた。魅力的なコンテンツを作るだけでなく、それをいかに多くの人々に届けるか、そのタイミングや方法など、細部にわたる配慮が求められた。しかし、そうした苦労もまた、彼らにとって大きな学びとなった。

 この一連の経験を通じて、マユミは重要なことを学んだ。それは「コンテンツは王様」だということだ。
 素晴らしい製品やサービスを持っていても、それを伝えるための魅力的なコンテンツがなければ、人々は興味を持ってくれない。しかし、心を動かすコンテンツがあれば、それが人々を引きつけ、結果的に店へと導いてくれることに繋がるのだ。

3-3 口コミの力: ナミコの役割とコミュニティの形成

 ユウキとマユミが率いる「サトコのお弁当」は、SNS運用の成功により、店舗の顧客層が日々増えていった。その一方で、常連客の中に特に目立つ存在があった。その人の名はナミコ。60歳の彼女は、店の最初の常連であり、彼女の存在が「サトコのお弁当」の口コミを広め、地元コミュニティでの認知度を上げる大きなきっかけとなり、ユウキにとっては良きアドバイザーでもあった。

 ある日、ナミコが店に来たとき、ショーケースにある日替わり弁当を見てユウキに尋ねる。

「ユウキ君、このお弁当はいつもと少し違うわね。何か新しい食材でも使ってみたの?」

優しく微笑みながらナミコが尋ねる。

「あ、気づきましたか?実はこの前、知り合った農家さんから新しく野菜を仕入れることにしたんです」

 彼女の問いに対し、ユウキは新たに採用した地元の野菜について熱く語った。

 彼女の穏やかさと思いやりは、店内に和やかな雰囲気を醸し出し、店のスタッフは皆、彼女のことが大好きだった。

 ナミコは、彼女が「サトコのお弁当」を訪れるたびに、その日のお弁当の感想や店の雰囲気をSNSで共有していた。彼女の投稿はいつも独特の暖かさを持っており、それは多くの人々に愛されていた。その投稿が「サトコのお弁当」の口コミ広告となり、多くの人々が彼女の投稿を通じて店を知ることとなっていたのだ。

 しかし、ある日、予期せぬトラブルが起こった。サトコが急な体調不良で倒れてしまい、彼女の存在の大きさを痛感させられる事態となった。それでも、スタッフたちは一丸となってサトコの抜けた穴を埋めようと奮闘し、店の運営を続けることを決めた。
 だが、サトコの抜けた穴は大きく、スタッフだけでは対応しきれず、ちょっとしたミスが発生し始めた。

 注文したお弁当ができあがるのを座って待っている間、困惑するユウキとマユミの様子を見たナミコはゆっくりと立ち上がり、二人の前に進み出た。穏やかな微笑みを浮かべながら、彼女は言った。

「誰だって、時には体調を崩すことだってあるわよ。大切なのはその後、どう立ち直るかだわ。」

 彼女の言葉には年月を経て磨かれた賢さが込められていた。それを受け取ったユウキとマユミは彼女を見つめ、緊張が和らいでいくのを感じた。

「私も若い頃、色々なミスをしたわ。例えば、料理の順番を間違えてしまったり、大切な食材を買い忘れたり。でも、その都度立ち直り、次に生かしていったの。料理の順番をミスった時は、急いで調整して、新たなメニューに生まれ変わらせたわ。食材を忘れた時は、近くの店を探して飛び込みで購入したこともある。ミスは、成長するための糧よ。」

ナミコの言葉は暖かく、自身の過去を想い出しながら、ユウキとマユミに教訓を語った。

 その言葉に励まされ、ユウキとマユミは頷き、再び立ち上がった。
 スタッフはより一層、コミュニケーションをしっかり取るようにし、お互いにミスが無いか確認し合うようになった。そのような努力の甲斐もあり、その後の日々、彼らはサトコのいない厳しい環境の中でも、お店を運営し続けることができた。そして、その過程で彼らは一層成長し、お店は新たな形で前進していった。

 ユウキはその日の出来事をSNSで公開し、改善のためのアクションプランを共有するようにした。またそれに加えて、サトコの回復と彼らの奮闘を願うメッセージもSNSに投稿することにした。その透明性と誠実さが多くの人々に好意的に受け取られ、結果的にはより多くの人々が「サトコのお弁当」を応援し、店に対する信頼を深めるきっかけとなった。
 フォロワーも増え、SNSを見たフォロワーの中にも、投稿にコメントを寄せてくれたり、サトコへのお見舞いメッセージを送ってくれる人たちもいた。
 また、お弁当のメニューに対するリクエストなども来るようになった。これは次のメニュー作成のためにも役に立ちそうだ。

 この経験を通じて、ユウキとマユミは口コミの力とコミュニティの形成の重要性を再認識した。そして、ナミコの存在が、「サトコのお弁当」の認知度向上と地元コミュニティの形成に大きく貢献していることを実感したのだ。

3-4 低コスト、大効果: ユーザー参加型のキャンペーンとクーポン戦略

 「サトコのお弁当」が地元コミュニティに深く根付き始めた時、ユウキはSNSの活用を一層進化させ、リーズナブルなコストで大きな効果を得る方法を模索し始めた。

 ある日、サトコが提案した。

「ユウキ君、私たちのお弁当がどう感じられ、どう食べられているか、お客様自身から直接聞いてみることはできないかしら。」

ユウキはちょっと考え、そして答えた。

「それなら、お客様参加型のキャンペーンをやるのがいいかもしれませんね。」

 具体的には、「サトコのお弁当」の弁当を食べながら撮った写真をSNSにアップロードしてもらい、専用のハッシュタグをつけるというものだった。そのハッシュタグをつけた投稿から毎週ランダムに一人を選び、その人にお弁当の無料券をプレゼントするというものだ。

「それならお客さんも楽しめるわね。」

とマユミがニッコリと笑った。

 このキャンペーンはすぐに大きな反響を呼び、店のSNSのフォロワー数が大幅に増えた。
 店のSNSには、「選ばれるかもしれない」という期待と、美味しそうなお弁当の写真を共有する楽しさで、次々にお客様からの投稿が寄せられた。

 新たな顧客層が引きつけられ、さらには既存客との絆も深まっていった。
 サトコが店のカウンターに立ちながら嬉しそうに話した。

「新しいお客様も増えたし、常連さんたちとのつながりも深まったわ。」

 また、ユウキはさらなる顧客獲得のためにクーポン配布も試してみることにした。初めてのお客様や一定の回数以上来店したお客様に対し、次回利用時に有効なクーポンを配布し始めた。これにより、初めてのお客様がリピーターになる可能性を高め、既存のお客様に対する感謝の意を示すことができるはずだ。

 しかし、その成功を受けて一息つくことなく、ユウキは次の挑戦に目を向けた。ライバル店である「タナカスベントーワールド」の店長、田中拓哉。彼はユウキとは異なる方法でデジタル技術を使い、同じく成功を収めていた。

 田中の戦略はより理論的で戦略的であり、その手法はユウキの好奇心を刺激した。
 彼は「いいね」やコメント、シェアなどといったSNSの投稿に対するリアクションやプロフィールへの訪問、リンクのクリックなど、ユーザーアクションのデータを分析し、それに基づいて最適な投稿時間を変えたり、戦略も見直しているようだった。
 また、A/Bテスト(2つの異なるバージョンを比較検証するテスト)を行い、より反応の良いサイトの作りやオンライン広告を出しているようだった。

「彼からも学べることがあるかもしれませんね。」

と、ユウキは考え深くつぶやいた。

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