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《嘘の絆》第4話 虚構の果ての炎上 【小説】


4-1 嘘か真かの裏情報

 家族が出て行ってからというもの、篠原はタガが外れたように炎上記事を【星のウィスパー】にアップし続けていた。
 それに呼応するかのようにサイトの訪問者数はうなぎのぼりになっていく。もちろん、酷いコメントが多かったが、既に家族からも見放された篠原には怖いものなど無い。一向に気にする気配もなかった。

 篠原は、新しいWebサイトの成功を祝すかのように、自宅のリビングでグラスを傾けていた。彼の前にはPCが開かれ、画面には訪問者数がグラフで表示されている。数はうなぎのぼり。その横には恵子の曖昧な占いのコーナーが輝いていた。

「これでようやく、僕も大成するんだ...。」

 篠原は、「DestinyLeaks」という新しいコーナーをサイトに追加。このコーナーで、彼は業界の裏情報や大手マスコミが触れないような情報を扱っていくことを宣言する。
 数々の裏話やゴシップをピックアップし、それを彼の得意の独特なノリで記事にしていた。しかし、記事の大半は事実とは程遠いものであり、事実をベースにした妄想がふくらんでいた。それでも、読者は篠原の記事に夢中だった。

 恵子の占いもまた、人々を夢中にさせる要素となっていた。
 彼女は大物政治家や大企業の経営者が相談に来るほどの占い師という触れ込みで、毎日多くのアクセスが集まっていた。実際には、恵子自身もその触れ込みに困惑していたが、篠原に誘われ、一緒にこのサイトを運営しているうちに、彼女も虚構の世界に引き込まれていった。

 「DestinyLeaks」のコーナーでは、最初のうちは、些細な情報やあまり影響のないゴシップネタを中心に投稿していたが、ある日、篠原はとあるアイディアを思いつく。それは
ある離島で極秘のうちに進められている計画の取材を進めているうちに、裏に潜む闇に触れてしまった
というものだった。この記事を投稿すると、篠原のサイトは瞬く間に大炎上。多くの人々が、この謎の離島や計画、そして篠原の身の安全について心配し、SNSでその話題が拡散された。

 篠原はその人気に満足していたが、その人気が篠原自身を追い込む原因となることを、彼はまだ知らなかった。

 一方、篠原家の近所では、彼の家族のことが心配されていた。特に、彼の妻と娘が家を出て以降、篠原の様子がおかしくなっているという噂が立っていた。
 ある日、近所の主婦たちが篠原家の前で集まり、彼の家の様子を伺っていた。

「あの家、最近夜中になると明かりがついてるのよ。」

「篠原さん、一体何をしているんだろうね。」

「あのサイト見た? あの離島の記事、本当に怖いわ。」

 篠原の行動や記事が、近所の人々にも影響を及ぼしていたのだ。

4-2 闇に触れた取材

 SNS上での反響は日を追うごとに大きくなっていった。篠原の「離島での極秘計画」についての記事には、具体的な情報は少なかったが、それが逆に人々の興味を刺激した。

 Xでは「#篠原離島計画」というハッシュタグがトレンド入りしていた。ユーザーたちの間で真偽の議論が巻き起こる一方、一部の人々は彼の情報を真に受け、自ら離島を探し始める者さえ出始めた。

「篠原って以前も何かスクープを持ってたよね? これも本当なのかな?」
「あの離島、実際に存在するのかな? 誰か探しに行った人いる?」
「篠原はただの注目浴びたいだけの人間。信じる方がバカ」

 篠原はSNSの反応を確認する度、胸が高鳴っていた。彼のサイトは、かつてないほどのアクセス数を記録しており、広告収益も順調に伸びていた。その一方で、煽りコメントも増えており、SNS上での彼に対するバッシングも激しくなっていた。しかしそれすらも、彼には気にならない。1人でも多くの人に読んでもらえるなら、それで良かった。

 一方、恵子は篠原の行動を憂慮していた。サイトのアクセス数や篠原の独特な記事についての反響は知っていたが、彼の心の内を知る者として、篠原の状況が危ういと感じていた。彼の心の中で何が起こっているのか、恵子は自身の占いの力で探ることにした。

 次第に、篠原はSNS上の反応に取り憑かれるようになり、一日中、スマートフォンやPCの前に張り付いていた。良いコメントもあれば、悪いコメントもあり、彼の心は常に揺れ動いていた。

「篠原さん、大丈夫?」

恵子が声をかけるが、篠原はぼんやりとした目で彼女を見つめるだけだった。

 篠原は、一つのコメントに心を奪われていた。それは

「もし篠原が真実を伝えているのなら、それを証明する物を見せてほしい」

というものだった。このコメントがSNS上で多くのリツイートやいいねを受け、篠原には無視できない存在となっていた。

 篠原は、これに応えるべく、離島に関する新たな情報を公開することを決意する。しかし、最後は

「今、公開できるのはここまでだ。これ以上情報を公開すると自分の命が危ないことを理解して欲しい」

と締め括ることにした

 結局、その情報の真偽を確かめる手段はなく、篠原はますます自身の虚構の世界にのめり込むこととなった。

 篠原家の近所の人々も、彼のさらなる異変に気付き始めていた。篠原は外に出ることが極端に少なくなり、家に閉じこもるようになった。彼の家の窓からは、いつもPCの明かりが漏れており、彼の執念深い作業が伺えた。

 恵子は篠原の心の闇を何とかしたいと強く思っていた。彼の行動はますますエスカレートしており、篠原の心の健康を心配する気持ちが高まっていた。

「篠原さん、本当にそれが正しいの?」

恵子の問いかけに、篠原は深い息をつき、血走った目で彼女の目を真っ直ぐに見つめた。

「これが、僕の選んだ道だ。」

 恵子は篠原の決意を感じ取り、彼の支えとなることを決意した。しかし、その決意もまた、篠原の運命を大きく左右することとなる。

4-3 虚構の果ての大炎上

 篠原が新たに掲載した離島に関する記事は、瞬く間にネット上に広がった。SNSでは、篠原の記事に関するやりとりが盛り上がり、一部のユーザーは離島の実在を確かめるために、実際に離島を探す行動を始めた。

「離島の位置を特定できた。船をチャーターして行ってみるつもりだ」

「私も行く!この冒険、記録してYouTubeにアップするよ!」

 このような投稿が次々と現れ、篠原の虚偽の情報は真実味を帯びていった。

 篠原はここまでの反響を予想していなかった。彼は単に記事を楽しむためのものと考えていたが、それが現実のものとなることに、内心驚きと恐怖を感じていた。

 恵子もまた、篠原の記事によって引き起こされた騒動に戸惑いを感じていた。恵子の占いのコーナーでは、離島に関する質問が増え、「離島で何が起こるのか?」や「私たちに待ち受ける運命は?」といった質問が多く寄せられるようになった。

 一方、離島を訪れることを決意したユーザーグループは、実際に船をチャーターし、篠原の記事に書かれているとされる離島を目指して出発した。彼らの行動はSNSでライブ配信され、多くのフォロワーがその様子をリアルタイムで追いかけていた。

 篠原は、自らが生み出した嘘が、こんな形で現実と絡み合ってしまうとは思ってもみなかった。彼は、恵子と共に次の一手をどうするか真剣に悩んだ。

「恵子さん、これは想定外だ。もしかすると、彼らが離島に到着して何もないことが発覚したら、僕たちは大変なことになるかもしれない。」

 恵子は深く頷いた。

「篠原さん、最初は楽しむためのものだったはず。でも、今は違う。あなたの嘘が現実に影響を及ぼしている。何とかしなければ。」

 二人は、次の策を練るために深夜まで話し合った。一方、ネット上では、その間も離島探訪グループの活動が進行中であり、彼らの行く先々での出来事が次々と更新されていた。

 篠原は恵子をじっと見つめた。

「恵子さん、もし真実を公にしたら、僕たちの信頼は完全に失われるだろう。僕たちはこれまでの努力、時間、そして築き上げたものすべてを失うことになる。そんなことになったら、僕は家族に捨てられただけの男になってしまうんだ。それでいいはずがない!」

 恵子は黙って彼の言葉を聞き、そしてしばらく考えた後に頷いた。

「篠原さん、それは確かにあなたには受け入れられないことかもしれない。でも、これ以上嘘を続けると、さらに大きな問題を引き起こすかもしれないのよ」

 篠原は考え込んだ。そして、彼はあるアイディアを思いついた。

「恵子さん、真実を伝えることも大切だけど、そうする代わりに、僕たちの情報の真偽を証明するための『何か』、例えば証拠を作ればどうだろう?」

 恵子は驚いて篠原を見た。

「証拠を作る…それはつまり…」

「うん、さらなる嘘だ。でも、僕たちはその嘘で現状を救えるかもしれない」

 篠原の提案を受け入れた恵子は、彼と共にさらに複雑な情報や証拠を捏造することに決めた。この選択が正しいのか、それともさらなる炎上を招くのか、その時の二人には判断がつかなかった。しかし、篠原と恵子は、真実を隠し続け、自らの嘘がバレないように取り繕うことを選んだ。

 ネット上では、篠原と恵子が提供した新しい「証拠」により、彼らの情報の真実性がさらに強化される形となった。疑念を抱くユーザーも多かったが、篠原と恵子の情報源や方法についての信頼は、この「証拠」によって繋ぎ止められたのだ。

 篠原と恵子の選択は、結果として彼らのサイトの信頼を一時的に繋ぎ止めたが、二人の心の中には、その選択に関する疑問や不安が常に残ることになった。

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