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第6章: 従業員の育成とエンゲージメント向上


6-1 チームビルディングとタケオの新提案

 「サトコのお弁当」の厨房では、調理師のタケオが皆に笑顔で料理の指導をしていた。彼は45歳で、元々は東京の一流ホテルのシェフだったが、東京の忙しい生活に疲れ、故郷のこの町に戻ってきたのだ。そのため、「サトコのお弁当」のような小さな店では不釣り合いなほどの腕前を持っていた。

 タケオは真面目でプロ意識が高く、料理への情熱は人一倍だった。ユウキとマユミがデジタルマーケティングの利用で店を盛り上げているのを見て、自分も何か店のためにできないかと考えていた。

 ある日、タケオはサトコに向かって、少し緊張しながら言った。

「社長、最近、お客さんが増えて、私たちのお弁当を楽しんでいるのを見ていると、もっと多くの人にお弁当作りの楽しさを知ってもらいたいと思うんです。お弁当教室とかやってみませんか?」

 サトコはタケオの提案に少し驚いたが、彼の真剣な眼差しを見て、その提案には深い思いが込められていることを感じ取った。

「タケオさん、それは素晴らしいアイディアですね。私も以前からお弁当作りを通じて、地域の人たちともっとつながりたいと思っていたんです。店が休みの日に、あなたのような一流の調理師が教えるお弁当教室、きっと皆さん喜んで参加してくれると思いますよ」

 タケオは少し照れながらも、うれしそうに頷いた。

「ありがとうございます、社長。私、最初はこの町に戻ってきて、小さなお弁当屋で働くのはちょっと退屈だと思っていたんです。でも、お客さんの笑顔を見て、地域に根ざしたこのお店の存在意義を感じるようになりました。どうやったら私の料理が、もっと多くの人に楽しんでもらえるか、方法を考えていたんです」

 サトコはタケオの言葉に心を打たれた。彼が自分の料理技術を使って、地域の人々に貢献したいと考えていること、それは「サトコのお弁当」が目指している方向とも一致していた。

 ユウキとマユミもその提案に興味を示し、

「それなら、デジタルマーケティングを使って、教室の情報を広める手伝いをしましょう!」

と意気揚々と言った。

 そして、計画はすぐに始動。店が休みの日にお弁当教室を開催することとなり、タケオの指導のもと、地域の人々が楽しくお弁当作りに参加する姿が広がっていった。この新しいプロジェクトは、お弁当作りの楽しさを広めるだけでなく、店と地域とのつながりも深め、従業員間の結束も強化したのだった。

6-2 リードジェネレーションとモバイルマーケティング

 「サトコのお弁当」のお弁当教室が成功を収めると、店は新たな成長の波に乗り始めた。タケオの一流の腕前と、料理への情熱が地域の人々にしっかりと伝わり、教室への参加者は口コミで急増していった。

 しかし、ユウキはさらなる成長のチャンスを見逃さない。

「このお弁当教室、すごい反響だね。でも、できればもっと効率的にお客さんとつながりたい。リードジェネレーション戦略とモバイルマーケティングっていう方法を導入しようと思ってるんだけど、どうでしょう?」

 ユウキの提案に対し、サトコは興味津々で聞き入る。

「リードジェネレーション? モバイルマーケティング? それはどういうものなの?詳しく教えてくれない?」

 ユウキは少し考えてから説明を始める。

「リードジェネレーションっていうのは、興味を持ってくれそうなお客さんを見つけて、関係を築いていく方法なんです。例えば、お弁当教室の参加者から次回の教室情報などを送りたいというメールアドレスやSNSアカウントを収集するとかね。モバイルマーケティングは、スマホを通じてお客さんに直接アプローチする方法だから、よりお客さんとの結びつきを深められると思うんです。」

 サトコはうなずきながら言う。

「じゃあ、お弁当教室でメールアドレスとかSNSのアカウントを集めてみる?」

 それにタケオも賛同する。

「それいいですね。これから、お弁当教室で書いてもらっているアンケート用紙には、メールマガジン登録用のQRコードを入れておくのはどうだろう?」

 ユウキはニッコリと笑う。

「良いアイディアですね! それで、教室の情報や新しいメニュー、特典クーポンなどを送れるようにしましょう。」

 数週間後、この新しい取り組みは効果を発揮し始めた。
 お弁当教室への参加者は増え、教室後のフィードバックを通じて、参加者からの意見もたくさん寄せられるようになった。お客さんとのコミュニケーションが深まり、リピーターが増えたのだ。

「ユウキ君、本当にいいアイディアを思いついてくれてありがとう!」

 サトコは嬉しそうにユウキに感謝を伝える。

 ユウキは頬をかいて笑う。

「いや、みんなの協力があってのことですよ。特にタケオさんのお弁当教室の成功が大きかったですからね。これからも皆で協力しあってお店を盛り上げていきましょう!」

 タケオもニコッと笑いながらうなずく。彼らの顔には、これからの「サトコのお弁当」の更なる発展に向けた確かな自信と期待が感じられた。

6-3 売上向上の罠:次なる目標、利益の最適化

 お弁当教室の成功はタケオにとって新たな門出だった。元々東京の一流ホテルのシェフだった彼は、東京の生活に疲れて故郷に帰ってきた。しかし、故郷の町に帰り、地域の人々に直接料理を教えることで、彼の心は新しい活力を得ていた。

 教室では、老若男女の参加者たちがタケオの指導の下で料理に取り組んでいた。特にある日の教室で、小さな女の子が一生懸命に野菜を切っている様子を見て、タケオは涙ぐんだ。

「先生、お母さんのために美味しい料理を作りたいんです!」

と子供が言った言葉は、彼の心に深く響いた。

「そういう心意気だよ、素晴らしい!」タケオは優しく励ました。

 教室の成功は地域に新しい風を吹き込み、人々は「サトコのお弁当」に対する親しみを一層深めていった。

 ある日の教室後、タケオはサトコとユウキに感謝の言葉を述べた。

「最初は教室をやることに不安もありましたが、今では本当に楽しいです。以前は単に美味しい料理さえ作っていれば良いんだという考えでしたが、教室で生徒さんたちに料理を教えることによって、料理を作るんじゃなくて、人を喜ばせたいんだという気持ちに気づきました。おかげさまで、自分の料理に対する新しい価値を見つけることができました。」

 タケオの目には感慨深さが宿っていた。

 サトコは温かく微笑んだ。

「私たちも感謝しているわ。タケオさんの教室が地域に与えている影響、それに私たちの店への信頼と人気の向上。本当に素晴らしいことよ。」

しかし、サトコの顔にはどこか心配そうな表情が浮かんでいた。

 ある夜、他のスタッフが帰った後、サトコはユウキに声をかけた。

「ユウキ君、ちょっと話があるんだけど」

 スタッフルームのテーブルに2人は向かい合って座り、サトコがユウキに対して切り出した。

「ユウキ君、売上は上がっているけど、利益はあまり変わってないわね。どうしてだと思う?」

 彼女の声は深刻さを帯びていた。ユウキは彼女の言葉に少し驚いた。

「それは...コストが増えているから...ですか?」

 ユウキは少しおずおずと答えた。

「そう、コストが問題なの。新しい活動を始めることは素晴らしいことだけど、そのコストが増えていることにも気をつけなきゃいけないのよ。
まあ、以前はチラシくらいしか宣伝費を使ってなかったからデジタルを使うことによる広告宣伝費が上がるのは良いんだけど、お客様が増えて、スタッフ皆、すごく忙しくなったじゃない?でも、その割に利益自体は上がっていないのよね。コスト増を考慮に入れたときの利益、以前、ユウキ君がROIについて教えてくれたじゃない?それを考えないとね。」

サトコはそう言いながら、ユウキの言葉を思い出したように微笑んだ。

 サトコの言葉にユウキはハッとした。彼は新たなチャレンジに夢中になり、ROIのことをすっかり忘れていた。確かに、お弁当教室は顧客エンゲージメントを高め、新規顧客を増やした。しかし、その経営効率という観点から見ると、その成功が本当に「サトコのお弁当」の利益に繋がっているのかはといえばそうではなかったのだ。
 そこに気づくのは、サトコはデジタルには疎いと言っても、やはり経営者だ。ユウキとは全体を見る目が違う。

「ユウキ君、私たちの次のステップは、デジタル化を進めつつ、全体的な効率化とコスト削減を図ることよ。そして、それが顧客に対する価値提供にも繋がるように進めていきましょう。」

 サトコの言葉はユウキにとって新たな課題を提示した。そして彼は、改めてROIの観点を持ちつつ、デジタルツールを使って店全体の業務効率化とコスト削減も図るという新たな挑戦を始めることを決意した。

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