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安楽死につて

『世界』2022年12月号(岩波書店)の掲載記事要点

■「死ぬ権利」とは何か? 欧州「安楽死」事情 (宮下洋一)
著者:ジャーナリスト。『安楽死を遂げるまで』、『安楽死を遂げた日本人』『死刑のある国で生きる』。

・近年、欧州では安楽死の法制化に向けた動きが進んでいる。
・すでに安楽死を認めている:オランダ、ベルギー、ベネルクス3国、スイス、スペイン
・部分的に認めている:ドイツ、オーストリア
・ベネルクス3国、スペイン:積極的安楽死、自殺幇助
・スイス:積極的安楽死は刑法で禁止。ただし、「利己的な動機」がなければ、自殺への関与に違法性は問われない「不可罰」と解釈。
・オランダ、ベルギー、ベネルクス3国の安楽死数は増加傾向。
・「耐えがたい苦痛」や「回復の見込みがない」状態ではない安楽死例の増加。
・安楽死容認国では、「死にたい」と思わせる社会に潜む問題解決よりも、その意思の反映に重点を置く傾向。それが「死ぬ権利」というものなのか。

■安楽死は自殺問題の解決なのか (渡邉琢)
著者:日本自立生活センター事務局員。NPO法人日本自立生活センター自立支援事業所介助コーディネーター、ピープルファースト京都支援者。

・安楽死の「自己決定」による死は賞賛されやすいが、自殺については、身勝手な死、「大バカ者の死」などと言われることがある。
・安楽死は、しばしば自殺問題の解決(光明)であるとみなされる。
・宮下洋一氏「自殺仮説」:「安楽死しなければ自殺するだろう」=「自殺を防ぐためには安楽死が必要だ」。
・安楽死が自殺問題の解決だと一般化するのは性急すぎる。自殺には様々な要因の積み重なりがある。
・安楽死を求める人々は、自殺のハイリスクグループに適合することが多い。
・「所属感の減弱」、「負担感の知覚」、「身についた自殺潜在能力」の3つの要素がそろうと自殺が生じる(トーマス・E・ジョイナーほか『自殺の対人関係理論』)。
・自殺の本質的要因は「精神痛」である(『シュナイドマンの自殺学』)。
・難病や障害による身体の苦しみだけが自殺の理由ではない。
・「安楽死」は、自殺潜在能力を医師の援助によって著しく引き上げる。
・「致命的な自傷行動は多大な恐怖や苦痛を伴うため、わずかな人しかそれをおこなうことができない」(トーマス・E・ジョイナーほか『自殺の対人関係理論』)
<安楽死が自殺問題の解決だとする理由>
・自殺には強烈な差別、偏見、スティグマがある。安楽死はこの問題を回避されうる。
・安楽死の方が、互いに別れの言葉を言いやすく、死後も遺族の納得を得やすい。
・自殺は遺体の損壊が激しいが、安楽死ではそれがない。
・安楽死は自殺と比べて「生き地獄」からの救済感が得られる。
<安楽死の問題点>
・安楽死制度化の問題:自己決定によるものではなく、障害者や高齢者を社会のお荷物とみなすような、社会からの暗黙の圧力による「強いられた安楽死」の問題を回避できない。
・安楽死制度があっても自殺はなくならない。安楽死を合法化しているところでは、自殺率が上昇してきているとも言われている。
 (T.Devos8(ed.)”Euthanasia: Searching for the Full Story,”vii.)
・そもそも、安楽死を承認するのは医師であり、安楽死法は、医師がどのような事項を遵守すれば医師が罰せられないかを規定したものであり、患者の死の自己決定の権利を定めたものではない。自殺の危険因子が多い人ほど安楽死が実施されにくい傾向。
・医師による安楽死の実施にはある種の差別性が含まれる。一部の人にとっては、自殺問題の解決となるかもしれないが、多くの人ではそうはならない。自殺問題はタブーであり続ける。
・社会的圧力のもとにある「自己存在に対する脅迫と怯え」、「所属感の減弱」、「負担感の知覚」の観点から、自殺や安楽死をめぐる現象を丁寧に見つめる必要。



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