ポエム「手と手紙」

私は、ためしに「手」と握手をしてみたのだった。
ただひんやりとした感触がいつまでも残るのだった。
その「手」の模型は生きているようにみえるが、作り物で、
知らないところから送られてきたのだった。
同封された手紙には、どうかその「手」でなにかを
つかんでください、と書かれていたのだった。
「手」は冷たく、硬く、重く、動きそうもなく、
しかし生なましくみえるのだった。
しばらく観察したあと、そうすることに飽いて、
「手」を棚にしまったまま、働き、食べ、寝て、忘れて、
たしかに長い時が経ったのだった。
或るひどく疲れた夜、つらい夢をみて目覚め、ふと、
あの「手」がいまは、本当に生きている気がして、
棚からとりだしてみたのだった。
「手」は相変わらず死んでいたが、以前よりどこか親しげで、
なにか挨拶を求めているようにみえたのだった。
だからそっと、冷たく、硬く、重く、動かない「手」に
つとめてやさしく、握手をしたのだった。
すると、その「手」が温かく、柔らかく、軽く、動きだしそうに
……とはならなかったのだった。
ただ、私はたしかにこの手につかんだ気がした、
久しく忘れていた、新しく、生きたものを。
「手」には、この手のぬくもりがまだ宿っていたのだった。

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