『ひきこもりの手記』余談

余談。ふわっとした感想ですが、私は、この作品からはまだ何か前向きなものをかんじます。
少なくとも完全にポジティブなものが淘汰された地平ではないと思う。いいとかわるいではなく。もちろんそれによって殺人者のリアリティが薄れるということはまったくないと思う。もっとポジティブな動機やポジティブな犯行後の人はいると思う。
そうではなくて、この作品に書かれた彼の声はまだ読者の聞こえるところにある。葛藤はあるが、沈黙に呑み込まれる手前よりはもうちょっと水面にあると思う。それが現代的なポップさなのか、小説の必然なのかはわからない。
私はその理由のひとつは本書における読書の意味にあると思う。読書は闘いと位置づけられているが、一対一の闘いは必然的にポジティブなものだと思う。実存的に血沸き肉躍ることだと思う。読書という内部とひきこもりというイメージの内向さをかけあわせて反転させている。

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