見出し画像

かに道楽の水槽から

最近、ライブカメラにハマっている。
山や川、お店など様々なところに設置され、リアルタイムで映像を配信しているあれ。

私の中で特に来ているのが、かに道楽のもの。
大阪・道頓堀本店のカニが入った水槽を、24時間放映している。


おそらくカニの入荷状況なんかをお知らせするために始めたのだろうが、いつ見に行っても視聴者数は1。つまり私しか見ていないらしい。だから、本来の意味ではあまり機能していないっぽい。

かくいう私も、どんなカニがお店に入ってきているのか知りたいわけではない。

これを観ていると、謎の「諸行無常」を感じてしまうのだ。

ライブカメラは、十何時間前まで戻って視聴することができる。
開店時にはそこそこいたカニも、お昼を過ぎるとだいぶ数が減っている。朝見かけたカニたちがいなくなっていたりする。
そこで一度、「ああ…」という悲しさというか寂しさというか、複雑な感情になる。

そして、夕方〜19時頃には入荷があり、水槽にはまた大量のカニが。足りなくなれば補充されるという、飲食店やその他の産業でも至極当たり前のライフサイクルを人間に置き換え、また色々と考えてしまう。

閉店に差し掛かる頃には、大勢いたはずのカニたちが、また半分程度になって…。

と、ただ水槽にいるカニの増減を観察しているだけなのに、どんどん入れ替わっていくさまを目の当たりにすると、とても儚いものに思えてしまう。

人間だって、ずっと今いる場所にとどまることはなくて、終わりがくれば新しい者にバトンタッチされていく。

あっという間に新入りがやってきて、その彼ら/彼女らでさえ数時間後にはいなくなる。そんなカニの水槽を俯瞰した視点から眺めていると、なんだか人間の人生を早回しで見ているみたいだ。これこそ諸行無常ではないだろうか。

こんな不思議な感覚に取りつかれて、かに道楽のライブカメラを結構な頻度で見るようになっていた。

そんなある日、またカニたちを覗こうとYouTubeを開くと、画面が真っ黒だった。
暗闇の中でうっすらと見えるカニの足。
どうやらお店の閉店時間になると、照明は落とされるがカメラはつけたままらしい。

本当に人生の終わりかと思うような画面を数分間眺めながら、その1日の終わりを迎えた。