サンタ側に回った子供
サンタクロースは存在しない。
親からそう聞かされたのは、僕がわずか7歳のときだった。
3人もいる子供を騙しつづけることは事実上不可能だと、両親は考えたらしかった。僕たち兄弟は同じ部屋で寝ていたから、こっそりプレゼントを置いておこうにも、誰か一人でも目を醒ませばすべておじゃんだ。さらに、それぞれの欲しいものを買いそろえるだけでも大変な労力がかかるだろう。親の立場で考えてみると、しごく納得がいく。
だが、7歳の僕はそうもいかなかった。
「もしかしたら、いるかもしれないじゃん」
母は心苦しそうに応えた。
「いないんだよ。プレゼントはちゃんと買ってあげるから……」
「わかった。でもボク、欲しいものを書いて寝てみるよ。もしそれでプレゼントがもらえたら得じゃん」
クリスマスプレゼントは、毎年両親から買ってもらっていた。しかし万が一サンタクロースが実在したなら、二重にプレゼントをもらうことができると考えたのだ。
「だからお母さんは何もしないで。もしそれでプレゼントがもらえたら得じゃん」
「そうね……」
「絶対何もしないでね!」
「うん、わかった」
「絶対だよ!」
「うん」
母は微笑んでいた。
夜、僕は紙に欲しいものを書き、靴下に入れて枕元に置いた。「欲しいもの」は、何千円かする超合金のおもちゃだったと記憶している。
興奮といっしょに布団に入り、目を閉じた。眠りはすぐに訪れた。
クリスマスの朝、僕は目を醒ました。
プレゼントのことを思い出し、はっとして飛び起きた。枕元を見る。
靴下があった。昨夜置いたままの位置に、置いたままの状態で。
念のため、靴下を手に取り、中を覗いてみた。やはりプレゼントは入っておらず、僕が欲しいものを書いた紙が入っているだけだった。
こうして僕の頭からは、サンタクロース実在の可能性が消え去った。
母の徹底した教育のおかげだ。
数日後、僕は同じマンションに住む同い年の友達Tの家で遊んでいた。
(このTは「特別な一万円」に登場したのと同一人物である)
「これサンタさんにもらったんだ」
Tはファミコンのソフトを自慢する。
僕は瞬時に反論した。
「きっとTのお父さんかお母さんがくれたんだよ。だってサンタクロースはいないから」
僕の手には、自らおこなった実験によって得た、確たるデータがあった。
「え? いるよ!」
「いないんだよ」
子供部屋で口論していると、Tのお母さんが僕を呼んだ。
「俊、ちょっと来て」
僕はTを残して、リビングに移動した。
「うちではサンタさんがいるって信じさせてるの。だから、いないなんて言わないで。お願い」
Tのお母さんの言葉を受け、自分が悪いことをしたような気になった。
――Tの両親の苦労を台無しにする権利は、ボクにはない。
僕は頷いて、子供部屋に戻った。
「やっぱりサンタさんはいるよね。まだボクのところに来てないだけで」
「そうだよ」
Tは満足げに言った。
それ以来僕は、サンタクロースを信じている友達には、全力で調子を合わせた。トナカイならマンションのベランダから見たことがあるとさえ言った。
こうして僕はわずか7歳にして、子供たちの夢を守る側に回っていた。
これはおそらく、世界最年少だったのではないだろうか。
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